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光は消えない  作者: 真宮 つき
9/10

「鈴華が忘れたんじゃなくて、恐らく記憶が消されていたな」

「......どういうこと?」

「そんな家族の記憶なんて忘れるものか? この山に光が落ちて、光生さんによって白虎神社に導かれて、同時に記憶が蘇った。消された原因はわからないが」

「確かに............私はおじいちゃんの最期を見届けることができなかった。きっと会いに来てくれたと思う」

「ただの推測ではあるが、この世に留まる代わりに関係のある人の記憶が自動的に消えていたのかもしれないな」

 スピリチュアルな話ではあるかもしれない、でもそうとしか考えられない。人間側の記憶は消えるが、霊の記憶は消えず、再会した時に思い出させるなんて情報はオカルト雑誌や都市伝説というやつでも聞いたことも読んだこともない。

 夢ではないかとまだ疑っている。

 ──俺はまだ半信半疑だった。

「鈴華、そんなことより早く行ってこい」

 今は光生さんと孫である鈴華が再開することが一番の目的。





 鈴華は一歩一歩と走らず──慌てず、ゆっくりと『大切な人』の方へゆっくりと歩き出す。

 ここから俺達三人は見守ることしかできないだろう。




 鈴華は祖父が立っている鳥居の前まで接近し、停止した。両腕を握りしめ、鈴華の目は潤いを満たして溢れていた。

「おじいちゃん......」

 その時、鈴華の声と同時に光生さんの唇が動き始めた。

「......鈴華............会いたかった」

「おじいちゃん!!」

 光生さんの元へ一目散に駆けた。鳥居の目の前に立つ祖父に飛びつくように────対して白い衣を纏っていた光生さんは優しくふわりと受け止め、朗らかな表情を見せる。



 俺は、一般なら幽霊って生身がないと思っていた。しかしあのようにお互いが触れられてしまう。透けることなく。こんなの夢じゃなければ信じるしかない。

「私、おじいちゃんのこと忘れてしまっていた。ごめんなさい」

「それは仕方が無いことじゃ、わしが未練を残して、この世に留まるにはどうやら──月野光生に関する人の記憶の消去が条件だと先ほど確信した」

「やはりか」

 数メートル離れていた俺は聴こえてきた会話に反応した。

「それでおじいちゃん、私おじいちゃんが死ぬ前に別れの言葉が言えなかった......」

「あぁ、いいんじゃ鈴華。わしもある日、突然な心筋梗塞で倒れてしまった。だけどな、ベッドの上で確かに聞こえていたよ、孫の嘆き声が──逝く前に鈴華声が聴けたんだよ」

 朗らかな老人は偽りの無い純粋な笑顔で頷きながら語る。輝かしかった。もはや悲しみという色は感じられなかったんだ。そして老人の言葉に鈴華の瞳から流れていたものはさらに勢いを増していた。

「·····おじいちゃん!! う、うわぁぁぁぁん!」

「鈴華、やっと......やっと出会えたのう。これでようやく別れが言える」

「私も......本当に良かった、もし光を追わなかったら一生思い出せずにいたかもしれない」

「そんなことはないよ。わしらは家族じゃ、絆と血で繋がっている。いずれは巡り会っていた。これは運命(さだめ)なんじゃ、そして不変で誰にも変えられないもの」

「そうね、私たち家族の絆はそんな浅くなかった」

 涙を拭いならがら、満面の笑みで祖父に言い放った。鈴華から悲しみという色を空白に染めていた。

 俺たちはその再開を──光景を瞬きもせず、じっと見守っていた。これはもう夢ではないと俺も察していた。ここにいる立も、明莉も同じ心境だろう。

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