記憶
「記憶が無いの」
「え? ··········それはどういう事ですか?」
「光の落下した所までは行ったはずなのに、 そこで見た光景とかを全く覚えてないの。 そして気付いたら山の入り口に戻っていたの」
「それでも諦める訳にもいかずにさ、 何度も何度も山奥に入り探し続けた──でも結果は同じだった。それから私は必死に考えた。空が明るい時に行ったら同じ結果が訪れるのか、 試してみたかった」
「朝になって、 見に行ったの····· でも何も無かった」
「···············」
健は思わず無言になってしまった。
後日から光が落ちる度に綾先輩は探索しに行ったらしいが、 結果は同じだったそうだ。それでもあの光には何か意味があると信じて、 この光の探索部で真相を明かしたいと考えたそうだ。
次の日の土曜日。 部員四人で夜の九時までに中学校前に集まり、 そこから自転車で片道四十分ほど漕いで山に着いた。
綾先輩は当日この山の入口前で皆に事情を話した。 それで、 部員の皆は納得してくれた。 森に入ったらいつの間にか記憶が無くなって入口に戻る現象。 光が落ちた山奥には何があるのかという謎を解き明かしてやろうとなった。
今宵──今日はとても月が綺麗だ。 さらに入口は真っ暗でこの奥に何か光に関係するものがあるなんて思っていなかった。
健は正直、この山奥に光が本当に落ちたのか疑っていなかった。 と言ったら嘘になるだろう·····。
だが、確信がある。 何故なら綾先輩は何度もこの入口に潜り、その光を見る前、または見た後に記憶を失ってしまい入口に戻されている。 本当に謎だ。
唐突に綾先輩は口端を緩め、
「私、 これでまた同じ結果だったらさ、 諦めるよ」
「え?」
突然の告白だった。
「まー、 諦めも肝心て言うでしょ。 ふふっ」
綾先輩は純粋に笑っていたように見えたが。 いつも笑顔を見ているからわかる。
────これは愛想笑いだ。
それから部員四人で入口に入ったり、 二人一組で順番に山奥には行ったはずだが、 そのまま入口に戻ってきて、 やはり記憶が無くなっていた。
いつの間にか、 時間は夜の十一時を過ぎていた。
流石にもう遅いのでこれ以上の探索は中止となった。
そして帰り道。
たびたび赤色や青色の標識が見えて、勾配が続く道路。重い空気の中、途中で部員達と別れて、 綾先輩と二人きりだった。
何を喋ればいいのかわからない。 慰めるべきなのか── いや、 それは自分がすべき事なのか、正直気まずさこの上ない。