弐
蒼依をいかにして女だと悟られないようにようにするか琉晟が考えるのなか蒼依は先輩達と楽しく遊んでいる。最近は女っぽい1面もだし始めた蒼依に内心ヒヤヒヤしながら見ているがバレてはいないようだ。ただそんな女っぽい1面もある蒼依に可愛いと女好きの先輩達は口説いている。毎度、蒼依が男だと言い張って逃れているが、可愛いらしさが少なからず滲み出ている。そこが思うつぼなのであろう。
「・・・蒼依〜!パス」
「はいはーい!」
毎日の練習で蒼依との最強コンビと言われた琉晟も磨きがかかりますます最強になる一方で、他のチームメイトともチームワークが生まれさらに団結力が高まった。それにつれてさらに蒼依のやる気もアップし、素の姿がでてきてしまっているのはそのせいであろう。そんな姿が見え隠れする蒼依の能力はとても高い。パスする人によって強い弱いの強弱、それからパスする位置まで正確に計算しているような絶妙なタイミングや場所へ出せるようになっている。そのため蒼依を中心としたひとつの輪で強豪という名を護れる大きな団結の輪が出来上がってきていた。蒼依の人を引き付けるその力もあるのであろう。
「今年の新入部員歓迎も含めた合宿を行います。もう蒼依のおかげで親睦は深まってはいますけど毎年の恒例行事なので!夏休み初日から1週間で!」
蒼依の避けても通らねばならないはずの合宿が開催されると知った。さて、色々どうしようか考えなければならない。多分断ることは出来ない。新入部員は全員参加だろうしとくに蒼依は期待の星だから避けられないであろう。その合宿がバレる危険があることなど何も考えずただ参加しようとしていた。
「・・・蒼、お前どうすんの?」
「どうするって?」
「・・・合宿だよ、合宿。まさか参加すんのかよ。」
蒼依は合宿ということが理解せずにいた。琉晟が心配して聞いてくる理由にも理解が出来ずに、当然のように「・・・え、参加するよ?何言ってんの?」と答えた。琉晟はその答えに理解してないで言っていることを悟り、深いため息をつく。
「・・・あのなぁ、お前分かってんのか?参加するってことはそれだけバレるってリスクが高まるんだぞ?」
「・・・え?なんで?合宿って学校ででしょ?」
「・・・はぁ?!バカかよ、おめぇは!違うに決まってるだろ?!別のところに泊まりに行くんだよ!俺たちみたいにみんなが寮にいる訳じゃねーんだからよ!」
天然・・・なところがある蒼依はなんの作戦があるわけでもなくただ合宿に参加しようとしていた。なお、合宿がどこかへ行くものだということも理解していないようで、この天然発言には驚かされる・・・いや、呆れるしかない。
「・・・え?えー?!」
呆れではぁーっと深く深くため息をつく。
「・・・え、じゃねーんだよ。んで、どうするんだよ。作戦考えねぇとバレんだろ、バカ!」
「・・・りゅ・・・りゅうちゃん、バレたくないから協力して。」
やっと危機を自覚したのか、助けを求め出す彼女に彼はため息しかでない。たしかに彼女1人ではなんの作戦も思いつかないであろう。
「・・・ったくー蒼、お前なぁ。協力してやるけど、ぜってーバレんなよ。バレたら俺が困る。」
最後の言葉は聞こえないくらい小さな声で。まだ聞かれたくないことであるから。それはさておき、協力してくれと言う彼女の言葉は何も思いつかないから考えてくれと言っているようなものだ。考えつく限りの作戦を立て、合宿へ行くことにした蒼依は絶対バレてはならない1週間の合宿が始まる。天然で少しおバカな所のある蒼依は1人で守ろうとしていた秘密をある意味幼なじみの琉晟にバレたことが、良かったのか 合宿なんてものが分かっていなかった彼女にとっては琉晟がどんなに助かる存在であったか。蒼依はこの合宿中に思い知らされた。まさかバレそうになる危機を救ってくれる存在になるとは思いもしなかった。
「・・・りゅうちゃん・・・すき・・・。」
「・・・!?寝言かよ。」
「・・・蒼依って女っぽいんだよな、こう寝てる姿見ると。女か?それにりゅうちゃん好きって今。なんだ?琉晟にか?」
流石の男達。男臭い中のマネージャー出ない癒しの存在を感じる彼女のことが不思議とメンバーには女でないのかという疑問も出てくる様だ。
「・・・いや、蒼依は男。昔から寝言すごくて。好きって前も言われたことあるけど聞いたら友人として好きだって言ってたな。それが寝言に出たと、」
「じゃ、女っぽく見えるのはなんでだ。」
「・・・それはこいつがもともと女っぽいからですよ。女に囲まれて育ってますから。」
琉晟は、蒼依の女っぽさに疑問を持ち始めた部内のメンバーに聞かれる質問に真逆な答えを返して誤魔化していた。寝言なんて聞いたこともないし好きとも言われたこともない。それに女に囲まれてなんかなく逆で、男に囲まれて育っているので男っぽい。けどよく見せる女っぽいのは本当の素の姿で女であるから。けれどこうでもしないと蒼依の守りたい秘密を守れないから。蒼依の守りたい秘密を琉晟の全面協力で何とか1番の難関、合宿中は守り通す事が出来た。ここで守れればこの後も守って行けるとふんで。だが、それは蒼依次第ではある。蒼依の男のフリ具合によっては今後も女と言う疑惑は高まるだろうし、琉晟の誤魔化しも蒼依次第でいつまでもつかはわからないわけだ。蒼依に言い聞かせねばならない。
「蒼、お前が女じゃないかってサッカー部の連中に疑われてるぞ。」
「・・・え、それはどうしたらいいの。りゅうちゃん。」
「なんでも俺に聞くなよ・・・最近お前の女っぽいとこが目立ってるんだ。男っぽい所を出さなきゃダメだ。俺と2人の時はいいよ。女っぽくても。だけどそれ以外は男らしくしろ。」
何でもかんでも蒼依は琉晟へ助けや協力を求める。彼に出来ることなんて少なく、彼女自身がどうにか男らしくしなければバレてしまうそんな危機を乗り越えなければならない。それからというものの蒼依が変わったことは言うまでもない。琉晟の一言でここまで変わるのかと言うくらいに。女っぽい部分もありつつ、男だと思わせるような行動や言動は今年から共学になったゆえに数少ない女子からの熱い声援や告白は日常茶飯事。女だからこそ分かる女の気持ちで言動や行動は女子達の虜に。男も惚れる程の男らしい一面の裏で見え隠れする女のような可愛さ。そこが男達の虜に。
「蒼依くーん♡頑張って〜!」
「・・・ありがとう。頑張るよ。」
声援を決して無視はしない。されることは蒼依としても悲しいから。応援は力になる。
男のフリ生活の中、3年の先輩達の最後の大舞台。各地区の予選試合が行われる。予選の地区大会の中では強豪中の強豪校である、壱橋高校サッカー部。地区大会には先輩達だけで余裕で勝ち進み県大会へコマを進める。県大会にはさらに各地区の優勝校が集まり苦戦を強いられる。苦戦を強いられた時の切り札として蒼依と琉晟は使われることに。しかもセットで一気に2人交代し出ては誰もボールを奪うことの出来ないタッグで相手を翻弄させてはゴールを決める。相手にボールが渡ってしまえば2人も完璧な守備を。そうして順調に県大会でも順調に勝ち進んだ。
「・・・新井先輩!行きますよ!」
「蒼依・・・。了解、」
県大会も最後まで勝ち進み決勝。蒼依や琉晟の活躍で1点リードで向かえたラスト5分。これで決めれば優勝と迎える重要なゴールの場面花を持たせようと蒼依から新井先輩へ、絶妙なタイミングでパスが通る。そして決まる運命のゴール。
「先輩!ナイスゴール!」
勝ち越しゴールを決め、あとは終了になるのを待つだけまでするとみんなで守って守り抜き、試合終了のホイッスルが鳴る。そして全国大会へと駒を進められることに。
「先輩!!さすがです!」
「・・・ありがとう。でもここまでは普通なんだ。ここからが問題なんだよ。」
「・・・全国がですか?」
「あぁ、全国は行くが1回戦負けがほとんどなんだ。」
先輩たちの制覇の道は険しくまだ、全国優勝までたどり着けたことの無い。今年こそはと毎年優勝は目指していた。だが上には上がいるもので、毎回1、2回戦止まりなのだという。なかなか壁は厚いのだ。3年の先輩たちの最後の全国大会。良いところまで行って良い思いをしてもらうのが目標だが果たして強豪揃いの全国大会。果たして勝ち進めるのか、蒼依達の活躍にもかかって来る。
「・・・先輩、僕が先輩に全国優勝という最高の景色を必ず見せてやります。」
「・・・ありがとう蒼依。お前が言うと頼もしいぜ。蒼依、楠田、よろしくな?」
「あぁ。もちろん。」
全国優勝をと先輩たちと誓い合った。その後は、蒼依達の活躍もあり、先輩達が苦戦した2回戦止まりの敗退は免れ、準決勝まで進んだ。準決勝の相手はこれまで通りにはいかず、1番の苦戦を強いられ、フル出場していた蒼依の体力も、削られ危機的状況になってしまった、そこを付け狙われたように蒼依への当たりが強くなり、ボールが相手の手に渡りそうになる危機が何度もありその度に出る蒼依テクニックは相手に渡ることを避けることはできるが、ゴールには繋げられない上、取られそうになる度に少しずつ審判にわからない程度に蒼依の足が痛めつけられていた。体力を奪われていたこともあり、突然蒼依が前に1度先輩たちと対決した時と同じように琉晟へ預けるといきなり倒れそうに崩れ落ちていく。琉晟も異変に気がついて先輩へと回し駆け寄り支えた。
「蒼依?!大丈夫か?!」
「・・・・・・いや、ダメだょ、痛い足。」
限界値に達した蒼依が抜けたが、何とかそれまでに入れた得点のおかげでリードしたまま守り抜くことが出来た壱橋高校サッカー部は、決勝まで進めることになった。しかし蒼依は決勝の舞台には立てず。なぜなら前の試合で痛めつけられた足は決勝までには治らなかったからだ。蒼依なしでも先輩たちは十分に強かった。だが、相手も同じぐらいかそれ以上に強い。それだけ苦戦をするし、苦戦のたびに交代をし、環境を変えのために投入していた蒼依も入ることも出来ないために相手にやられっぱなしだ。そのために残念なことに敗北することになった。先輩たち最後の試合はそうして幕を閉じた。
「・・・俺達は負けてしまったけど、蒼依と楠田達なら必ず全国優勝を成し遂げてくれると信じてる。」
「あぁ、そうだな。2年連続でなしとげて伝説を作ってくんだろうな。 」
「・・・もちろん、先輩たちの無念は僕達が晴らします。」
試合終了後に先輩達は悔しい思いをしたのに1年の蒼依達への期待を語った。これで先輩たちの戦いは終わった彼らに祝福を。打ち上げも開き先輩たちを送りだす。そして、蒼依達は受験や就職活動へと気持ちを切り替えていく彼らの無念の敗退を胸に2年の先輩たちと今度は来年も再来年も2年連続優勝をめざし、練習に力を入れることに。
「・・・これからは、新井がキャプテンだ。新レギュラーには七川、柳川、最上を加える。」
「・・・はい!」
「・・・引き続き、楠田、岩永はよろしく。」
「はい!」
新たに先輩たちの引退した、サッカー部は監督に新しいレギュラーのメンバーを発表した。それで練習にさらに力が入る。選ばれなかったメンバーも次こそはと力を入れて練習し、来年こそはレギュラーに入れるように。
こうして、悔しい思いが皆の意欲を上げ、練習へ熱がはいった。今度こそは優勝出来るであろう。