其ノ八 迷子の零龍
其ノ八
ここはどこでしょう?さっきまで愛鬼くんや美希ちゃんと一緒だったのに…あ、それから希華くん。
「うぅっ…ちゃんとついて行ってたのに…目を瞑ったのが良くなかったんでしょうか…」
独り言を言って気を紛らわせます。そうでもしないと怖くて怖くて…
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ザワザワと枝が風揺れる音がする。
ガサッ!後ろで音がしました。
刹那、私は駆け出していました。
「ま、まってくれ〜!頼む〜」
「キャーーっ!待てと言われて待つ人はいませんよ〜!!」
「ちょ、はぁはぁ…ほんとにまって…ぜぇぜぇ…ほんとに…ぜぇ…ちょっと話があるだけ…」
「キャーっ…え?」
「はぁはぁ…ぜぇぜぇ…や、やっと止まってくれた…お嬢ちゃん足速いね…」
そう言って息をきらしているのは1つ目小僧さんだった。
「ひっ…!」
「なぁに、見た目程怖くないさ!」
「そ、そうですか…あ、なんで私を呼び止めたのですか?」
「あ、そうそう!実は結構大変なことになってるんだ!!」
「大変なこと?」
「そう。オレ、本当は肝試しの脅かし役なんだけどさ、最後の班が全然来ないから探してたんだ。そしたらちょうど嬢ちゃんが居たってわけ。つまり、他の奴らは迷子になってるかもしれないんだ、この夜の山の中で」
「そんな…」
「しかも、ココ最近…あんまり見かけないヤツがいるんだよ」
「みかけないやつ?」
「そう。真っ黒な服きたやつでさ。カラスとかキメラを使役してたな」
「………」
絶対その人絡んでますよねこれ。
うーん…しかもサモナー型ですか…中々に厄介な相手ですね…
「なるほど。では肝試しのルートに案内して頂いてもよろしいですか?私も迷子でして…」
「ん、ああ。わかった。こっちだよ」
そう言われてついていく。うーん…なかなかに複雑な道です。どうりで迷子になる訳です。
ん…?あれは…
「みつけました!私の友達です!」
「えっ!?どこに!?」
「10時の方向です!」
「あっ…なんであんなところに…こっちはルートとは全く別の道だって言うのに…」
「えっ…?それはどう言う…」
「おいまてよ…この先って確か崖じゃなかったか…?」
「えっ…そんなっ!」
駆け寄ろうとして踏みとどまる。この感じ…幻影魔術!?
「お、おい、助けに行かないのかい?」
「魔術フィールドが展開されていますので近付くのは危険です!みんなは幻影魔術にかかってるんです!!」
「なにっ!?じゃ、じゃあどうすれば…」
「どこかに術者がいるはずです。その人を見つければ…」
魔術フィールドがあるってことはそう遠くにはいないはずです…何処に…
視界の端で動く黒い影を捉えた。アレは…カラス?
刹那。そのカラスを追いかける。
恐らく、自分の主人の元へ帰るはず。そいつを追いかければ…!
黒。黒いコートに黒い手袋。黒いハットと黒のライダース。そして黒の目隠し。
あまりにも黒く白々しいその異様な姿に思わず息を飲む。
「あっ…あいつだ…この辺に最近やって来た怪しいヤツ」
「あの人が…なんて静かで禍々しいオーラ…」
気を張らねば感じ取ることが出来ないくらいに大人しいオーラ。
思わずその人を睨みつける
するとこっちを向いた。
「…………ふふっ」
こっちを見て…笑った?この暗さでその目隠しで私達が見えてるんですか…?
「やぁお嬢さん。君のお友達に幻術を見せているのは私だよ。」
酷く優しい口調。一瞬男性か女性か分からない程に優しい声と柔和な顔。
「君と鬼の子とあの女の子には申し訳ないけどこのまま崖から落として殺させてもらうね。本当にごめん…」
心の底から謝っている。それが伝わる。
それに鬼の子…?愛鬼くんのことでしょうか?
「ダメです…私の友達です!殺させたりなんてしません!!」
「うん…そうなるよね…ほんとごめんね…でも…あの子は…騎狐希華は危険なんだ…!彼は闇を持ってる。とても深く不快な闇を、ね」
「き、騎狐…?希華くんが…騎狐…なんですか…?」
「ああ。強力な神妖者だ。それが闇の力を扱うようになったら…どうなるか分かるね?」
そんな…希華くんが…神罪者に…
でも…それでも…!
「…ダメです…絶対、絶対殺させたりなんて…しません…だって…だって…希華くんは私の…私たちの友達なんですから!!闇に飲まれそうになったら私が、私達が助けます!」
「……そうか…ならば…」
男は手を前に出し召喚陣を呼び出した。
そしてその召喚陣から
「ヴァァァ…」「カタカタカタ」
「ひっ……!!」
ゾンビやスケルトンが出てきた。
「ふぅ。悪いね。でもこっちに来て欲しくないんだ。あの因子は、消しておきたい」
「あ…あ…ああ…」
怖い…。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
心を埋め尽くす恐怖。
恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖。
「な、なぁ…オマエさ、友達…助けたいんだろ?こんな見た目のオレを今はもう怖がってないんだ。大丈夫だろ?なっ?」
そうだ。私は…助けたい。私の友達を、助けるんだ…!
「っ…!!」
拳を構えてゾンビやスケルトンに歩み寄る。
「…ほう」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
叫び声と共に近くにいたゾンビを殴りつける。弾け飛んだら困るから手加減して。
「ガァッ!」
大きく吹っ飛び男の足元に落ちた。
「……怖くないの?」
「怖い…怖いです…でも、友達がいなくなるのはもっと怖いんです!だって…だって…大事な大事な仲間なんですから!」
「っ…仲間、か……」
次に大剣を出現させ回転斬りで一掃する。
「あとはっ…」
男に切りかかる。
ガインッ
と、音が鳴り響く。こっちを見向きもせずに片手でとめた。
「……なるほどね。なかま、か…友情、か。……昔のアイツには…全く与えられなかったものだな…」
「っっ…!!」
「わかったよ。彼から手を引こう。ただし、彼の闇が爆発したら僕がの手で殺す。それが嫌なら抑えておいてあげてね」
「…え…?」
「じゃあね。もう二度と会うことがないよう祈るよ。強いお嬢さん」
そう言って男は闇に溶けた。そう表現するしかないくらいにふわっと消えた。
「はあ…」
思わずその場にへたり込む。
「おい!大丈夫かっ?」
「はい…大丈夫、です…」
嘘です。だって気絶しましたもん。