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落第妖狐転生伝  作者: 陽野 月美
14/15

其ノ十三 馬子にも衣装

其ノ十三


その後、黒堂(こくどう)家にも手伝ってもらい、騎狐(きぎつね)家の葬儀が行われた。

参列したほとんどが実力、人気共にある神義者―否、ゴッドヒーローズだった。必然か偶然か、希華の誕生日に名前が変わったのだ。理由としては義、というのがどうも今の社会にはウケが悪かったようだ。

そんな理由もあってこの葬儀に参列している人の殆どが仮面やら鎧やらにより、その顔を見ることが出来なかった。

そんな中、希華はなんとなくその理由がわかるような気がしていた。実際今自分が仮面をつけているとその下の表情が見られなくて少し落ち着いていられるのだ。

葬儀の後騎狐の火葬が行われた。しかし、火葬場の火力では、火に耐性のある妖狐を燃やすことが出来なかった。

すると希華は


「じゃあ、僕がやります。狐火なら…出来ると思いますので」


と申し出た。

棺桶の前に立つ希華の手には真っ青な炎が握られていた。

それを顔の前にかざし、真っ赤に滾らせそっと棺桶に触れた。

ぼうっと、並べられた棺桶から棺桶に、炎が流れて燃やし尽くした。

希華の後ろで啜り泣く琴音と琴葉を慈悲深い炎が照らし、その炎は希華の涙すらも燃やし尽くした。

その後、火葬場を出た希華達を、愛鬼や零奈が迎えた。


「希華…」「希華くん…」


「へへ、お待たせ!」


驚く程普段と変わらない様子でいたずらっぽい笑い声を聞かせる。

そして、その場を沈黙が包み込む。誰も何も、言えなかった。言えやしなかった。

するとゼロドラゴン…龍神 宗零(そうれい)が希華の肩に手を置いた。希華の肩に置かれたそれからはじわじわと優しさが滲み出ていた。


「すまない…」


宗零の口から出たのはその一言だった。


「ゼロドラゴンさん…いえ、僕のせいですから…僕の弱さがみんなを殺したんです。弱くて才能のない僕が悪かったんです」


「…」


「なーんて冗談ですよ。悪いのは奴らですから!絶対に倒しますよ!この僕が!」


「希華くん…」


希華の名を呼ぶその声には、優しさとは違うものが含まれていた。

憐れみ。皆は、家族を失った挙句正気も失った少年、と、希華を認識しているのだ。

それは当然とも言える。家族のほとんどを亡くして起きながらここまで普段通りに振る舞えるわけがないのだ。

それが証拠に、気丈なことで有名な琴音ですら泣き崩れている。

目の前で家族を(うしな)い、更にはその遺体を運び燃やしたのだ。泣き崩れていないのなら精神異常を疑われてもおかしくない。


「なにはともあれ、今日はありがうございました。みなさんが来てくれて、父も…みんなも喜んでいると思います!」


「希華…」


希華を見つめる愛鬼の瞳にすら、普段とは違う光が宿っていた。

次の日、希華は父、妖弦(ようげん)の部屋で遺品整理を行っていた。

例の小箱を探しているのだ。


「うーん…これ、かなぁ…」


浦島太郎に出てくる玉手箱のようなものに鍵穴が付いた箱を見つけた。

鍵を取り出し鍵穴に差し込み回す。

歯車が回る音がして、プシューと蓋が二つに開いた。

大層な仕掛けの割に、中には手紙しか入っていなかった。

希華はその手紙を手に取り早速読んでみた。


『おは妖狐!これを見てるってことは俺は希華の誕生日の前に死んだんだな?(これやってみたかったんだよ)

まぁそんな顔すんなって!大丈夫!俺は元気にしてるぜ!ま、もう死んでるけど!

ってのは置いといて…これ読んでるの…希華だよな?希華じゃないなら希華に渡してくれ。というわけでここからは希華が読んでるって前提で話を進めるぞ!

まずは、20代目妖狐おめでとう。こんな形で襲名したくなかったとか思ってるだろ?気にすんなって!まぁ引き継ぎ作業が出来ないのは不安だけど…まぁその辺は隆鬼が何とかしてくれるだろうし。希華は安心せいな!

さて…あとは何書こうか…

ぶっちゃけいい事書いちゃうのとか柄じゃないだろう?それに、いい事なら本で学べば良いし。

そうそう!本といえば!

俺の部屋の本棚にある、【狐流(こりゅう)体術】と【狐流幻惑術】と【狐流妖術】の書物は面白いぞ!是非とも順番に読んでくれ!てか今すぐ読め!

例えとか表現じゃなくてこの手紙を見ながら読め!

じゃ、俺はこの辺で失礼するよ!


P.S ←これって使いたくなるよね』


との事だった。

不思議に思いながらも早速希華はそれらを読んでみることにした。

体術、幻惑術、妖術、の順番に本を取り出すことにした。体術、幻惑術を取り出し、最後の妖術書を取り出したその時だった。

ガキリ、という音がして、さらに大袈裟な音と共に本棚が横に動いた。


「……マジ?」


マジである。

中には金屏風のようなデザインのエレベータがあった。取り敢えずその中に入ってみると、下向きの矢印が光っていた。押してみるとウィーンと扉が閉まり、エレベータが下に向け進んでいく。

到着し、チンッという音と共に、またウィーンと扉が開く。


「おいマジかよ…」


だから、マジである。

そこは古風な騎狐屋敷には不釣り合いな、なんとも近未来チックな秘密基地だった。

中央にはホログラムが映し出されており、その奥にはたくさんのハッチが見える。

エレベータからおり、一歩踏み出すと


《生体ID認識、希華さん、ようこそ》


と、音声が流れた。


「おお…すごい…なんだこれ…」


《初めまして。私は妖狐アシスタントAI:フォクシーです。どうぞ、こちらをお受け取りください》


足元が開き台座が現れる。そして、その台座の上には、父、19代目妖狐が付けているものと同じデザインのリストバンドが乗せられていた。


「こ、これは…父さんの…」


《これはあなたのです。妖弦が、あなたにと、(のこ)したものです。どうぞ付けてみてください》


リストバンドを手に取り手首を通す。


「おぉ…ええっと…これ付けてどうするの?」


《左手首の外側、右手首の内側にある、狐のマークにそれぞれ触れ、スライドしてください。その後顔の前でそれぞれのマークが重なるよう腕をクロスさせ一気に腰の横まで腕を引いてください》


「えーっと…これか」


言われた通り右手、左手の順で触れてスライドし、クロスさせ一気に引いた。


「あれ?何も起こらない」


《逆です。逆からです》


「あ…逆ですか…」


今度は左手、右手の順にスライドする。すると今度はリストバンドが光り始めた。次に腕をクロスさせ一気に腰の横まで引いた。


「おっ!?なんだなんだ?」


光が広がり、全身を包み込む。

光が消えると、希華は狐の戦闘衣に―黄色、白、紫の美しい袴に包まれていた。左胸には騎狐家の家紋がついている。最後に妖狐のトレードマークである狐面が顔の前に現れ、すいっとくっついた。


「……マジ?」


《マジです。初期動作メンテナンスシークエンス起動。周辺のマップ情報、オンライン。メインカメラ、オンライン。モーションキャプチャー、オンライン。補助感覚機能、オンライン。その他、末端システム、作動確認。最後に音声テストを行います。なにか喋ってみてください》


「…これどうなってんの?」


《音声システム、オンライン。AI:フォクシー、起動完了。おはようございます、希華》


質問は無視されたようだ。


「あ、おはようございます。これどうなってんの?」


《どう、とは?》


「あ、えーっと…まず状況から飲み込めないんだけど…ここはどこ?君は誰?」


《簡単に言えば、ここは19代目妖狐の秘密基地です。彼の戦闘服や武器等はここで作られ、研究されています。そして、私はあなたの戦闘補助AI:フォクシーであり、ここの―フォックスハッチの管理魔道式AIです》


「なるほど分かった。つまり今からここは僕の基地になるってこと?」


《いいえ》


「違うんかい」


《引き継ぎコードを受け取っているはずです。それを入力してください》


「引き継ぎコード…?なにそれ…」


《2つのアルファベットと1つの記号です。受け取ってないんですか?》


「2つのアルファベットと記号…うーん…あ!分かった!入力しまーす!」


《どうぞ》


アルファベットが書かれた、ホログラムのパネルが現れた。

そのパネルの、PとSを叩き、最後に←を入力し決定を押す。


《認証。フォックスハッチの管理権限を19代目妖狐、から、20代目妖狐、に移行します》


「使いたくなるよねって…やっぱこういう事だったのか…」


《呆れていますね。私はユーモラスで面白いと思うのですが》


「ほー…そりゃまぁなんとも…親の顔が見てみたい」


《親子なのにあなたとは違ってユーモアの心得がありましたよ》


「なんでギャグが通じるんだよ…」


《そういう風に作られましたから。機械的なプログラムはほとんど組まれていませんので》


「え?!じゃあどうやって動いてるの?」


《魔術式です。強化感覚と洗脳を用いて本物の感情や人と同じ思考を持っています》


「ほぉー…すごいな…ちょっと見ていい?」


《ダメです》


「え…なんで?」


《魔導式AIに魔術式を見せろなんて…人間に裸体を晒せと言ってるような物ですよ》


「あー…そっか…ごめんよ」


《いえ、冗談ですからお気になさらず》


「……」


希華の気持ちを代弁しよう。「マジか」。

世の中にはまだまだ不思議なこともあるらしい。


「ま、何はともあれ!これでやっと僕もヒーローになれるって訳だ!」


《ええ!しかし…こういう言い方もなんですがあまり周りからの印象は良くないようですよ?》


「えっ!?な、なんで!?僕何かしたかなぁ…」


《と言うより何もしてないからですよ。ご家族が殆ど…その…亡くなられたのに、廃人になったり泣き喚いたりもしてらっしゃらないでしょう?》


「あー…あぁ…んだよそんな事か…いやぁほら、20代目になったってのに泣いてる方がダメでしょ?っていうか…それ、遠回しに泣き喚けって言ってる見たいじゃん…」


《そうは言いましても実際に周りから見たらあなたの状態は普通ではありません。気味悪がられても仕方の無いことです》


「はぁー…なんでこうなるかなぁ…強がってるだけ、とか気を強く持ってるだけ、とか、どんなふうにでも受け取れるのに…ネガティブに受け取られたもんだなぁ…」


《どうなさいますか?》


「どうって?」


《今からでも耐えられなくなったふうを演出してみますか?》


「そりゃ世界で2番目に意味の無い質問だね」


《2番目…?1番目は?》


「その質問さ。んー…別にいいかな。取り敢えずはこのまま続けるよ。今更泣き崩れたらそれこそ終わりさ。何とかして僕は正常であるって見せつけるよ」


《そうですか。でしたら私も精一杯お手伝いします》


「ありがと、頼りにしてるよ。あ、そう言えば遺品整理の途中なんだった…じゃ!また今度ね!」


《はい!お待ちしております!》


来た時と同じように金ピカエスカレーターに乗り、妖弦の部屋に戻った。


「…マジかぁ…」


とぼとぼと歩く希華は、いつの間にか母である飛鳥の部屋の前に来ていた。

ガラッと戸を開けると中には琴音が遺品整理をしていた。

暗い表情で飛鳥の着物を畳んでいたが、戸を開けた希華に気付くと驚いた顔をして


「わっ!?何それ…!?」


と、尋ねた。


「父さんから貰った、僕の戦闘服」


希華がウィンクしつつ答えると狐面の片目も瞑られた。


「おー…すごい…表情がリンクしてるんだ!」


「え?そうなの?」


《そうですよ。モーションセンサー機能です。表情や感情を読み取り目、瞳、口、模様、で表現します。例えば、疑問を抱いた状態で相手に質問をするとこの仮面の目には?マークが表示されます》


「うわっ!?フォクシー!?いたの!?」


「え?なになに!?フォクシーって何?今の声の人!?」


《ええ。妖狐アシスタントAI:フォクシーと申します。私は狐面にいますよ。いつでも》


「そ、そうだったんだ…まぁでもそらそうか。アシスタントAIなのにあそこに行かなきゃ会えないってのもなかなかに不便だ…」


《そういうことです。というかいつまで着けてらっしゃるのですか?》


「え?あぁそう言えば。じゃあそろそろ外そうかな…えっと、外し方は?」


《リストバンドの狐を両方ダブルタップしてください。同時じゃなくて大丈夫です》


「ええっと…こうか」


右、左、の順でダブルタップした。するとしゅるしゅるとリストバンドに吸い込まれるように戦闘服と狐面が消えていった。


「おー、入ってった」


「よくそこに入るね…」


《電源を切る時はもう一度ダブルタップを、電源をつける時もダブルタップをお願いします。変身の際は電源をONにしていただかなくても大丈夫です》


リストバンドからフォクシーの声でそうアナウンスが入った。


「りょーかい!ありがとね!じゃ、ばいばい!」


《それではごきげんよう》


狐マークをダブルタップし、電源を落とす。


「んー…とまぁそういうわけだよ」


「いや、どういう訳!?」


まずは説明の必要がありそうだ。

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