其ノ十 帰宅
其ノ十
それから三日目の朝。近くの博物館に行ってあとは帰るだけだ。
2日ぶりの家だ。余談なんだけどここで三日ぶりと言うべきか迷うよね。ま、そんな時は何回そこの場所で寝たか、で数えればいいかな。だから2日。簡単だろう?
さーて。お家に帰るぞ。博物館は恐竜の博物だった。なかなかに面白かった。まぁもちろん。古龍の化石とかもあったし、そっちの方が興味深かったんだけどね。ばっかでかい骨もあったし。まぁそんなのがこの狭い世界の空を飛んだら窮屈そうだが…
やはり、というかなんというか。帰りのバスってみんな寝るんだな。スヤスヤしている。まぁそんなもんだろう。てかさっきまで寝てたのによく寝れるな。合宿所のベッドで快眠はできなかったらしい。そりゃ寝付けないわな。
ちなみに僕や愛鬼、零奈は寝ない。眠くないから寝ない。
零奈と愛鬼は体力が違うし、僕は慣れてるからね。
「いやぁ…なんかやっと異世界感出てきたね。でっかい龍とか」
「さっさとあれくらいは倒せるようになれよ…じゃねぇとずっとこのままだぜ?」
「ぶっちゃけてしまうともう諦めてるよね。なんならもうギルドにでも務めて愛鬼専属のオペレーターにでもなろうかなって思ってるもん」
「おぉ…いやぁそれはそれで有難いけどよぉ…ちょっとは欲出せよ。頼めばある程度は加護与えれるぞ?」
「鬼の息がかかった化け狐とか何それ…大丈夫だよ。僕はこれで満足してるし」
「いやいやいや!!そんな事言うなよ!!なぁ…」
「わ、分かったって!だからそんなにうるうるした目で見ないで!努力するから…」
「よし、ならばよし」
満足気に頷いている。
でも割とどうしよう。父さんに頼んで修行つけて貰おうかな。
場所、日付変わり8月7日、我が家の庭。
父さんに修行をつけてもらう。
「さて…ぶっちゃけ言うとな。父さんな、もう希華に教えることってないんだよなぁ…」
「そんなこといわずにそんなこと言わずにー!体術とか…あとはどうすれば神妖者になれるのか!とか」
「運、だよな。あとは魔術の訓練とか妖術の訓練…」
「教えて!!」
「えっと…じゃあ基本的な妖狐術、【狐火】とか…」
「うんうん!どうやるの?」
「手を開いて前に出して…妖力を溜める…」
「こうして…ふぅぅっ!!」
「……流石に…まぁ出ないわなぁ…」
「ちょっと待ってね…」
意識を集中させ呼吸を整える。そしてプレッシャーを放ちつつ力を蓄える。
「…!!中々のプレッシャーだな…」
ん?何だこの感じ?
「お、これは…」
「お…おお…おお…!?」
ゴゴゴゴという音と共に黒紫色の炎が手の中に出てきた。
「!?【禍津狐火】…!?」
「ん?何それ?」
「え、えっと…狐火の上位互換…と言ってしまってはいけないかな。それは…禍津属性だからな…私達が使う狐火とは違うものだ。呪術と妖狐術の合わせ技だな!てか、なんでその歳で呪術を…」
……なんだろう、この炎を見てると…心を掻き乱されるような…でも乱れ方がとても美しい…この炎に…身を任せてみたいなぁ…!!
「はいっ!!」
そう言うと同時に父さんは僕の肩に手を置いた。
あ、炎が消えた…
「その炎は危ない。その炎を見た時に、気が昂ったでしょ?それ、危ないんだよね。だから、それはもう二度と使わないように!」
「ちぇ…分かったよ。使わないようにする」
多分、これが死神が言っていた闇、なんだろうな。怖い怖い…
「あとはその妖力の中から禍津を取り除けばいいかなー。楽しいこととか考えるといいよ」
なるほどなるほど。
それから暫くは【狐火】の訓練をした。
約1ヶ月がたった。
「……ふっ!」
僕の手の中にオレンジ色の火の玉が現れる。
「いやー、流石俺の子だな。サラッと取得しちゃってもー!」
「えっへへー!でもなんで急に使えるようになってきたんだろう?これまでそんな素振り全くなかっでしょ?」
「そりゃあれだよ。希華の誕生日が近いからだよ」
「え?」
今日は9月2日。僕の誕生日のちょうど1週間前だった。
「どういう因果関係?」
「12歳になると、まぁ一端の狐にはなれるって訳だな。父さんがあんまり危惧してなかったのはこれに起因するんだよ」
「なるほどね!じゃあ僕もやっとこすっとこどっこい神妖者になれるってこと?」
「うん…まぁそこまでの力が備わるかはわからないけどな」
「妖魔者くらいにはなるかな?」
「多分。妖狐型の妖魔者って感じだろうね」
「そっかぁ…まぁ贅沢は言わないさ…」
「ははー…素質はあるんだけどなぁ…身体能力とか見た目以上だし。多分筋肉密度が違うんだろうね。それが起こるってのは妖力が作用している証拠だし」
「てことは頑張れば僕も妖狐になれるのか…」
「ま、希望を捨てることは無いさ。希華は私達の希望の花なんだから!」
「そっか…そうだね!」
改めて僕は、自分の名前の意味を噛み締めた。