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メアリからそう告げられたがヴォルターは冷静だった。

灰皿においてある葉巻を取り、吸いながらこう思った。

本当に私を殺しに来たのだろうか。

そしたら

なぜ名乗った。

なぜ私の酒に付き合ってくれた。

なぜわざわざ殺しに来たといった。

殺しに来たのなら問答無用で仕掛けてくればよいもののなぜだ。

ヴォルターはその部分に違和感を覚えた。

結論から言ってメアリは私を殺す気は、ほとんどないといってもいいだろう。


「メアリ、私を殺しに来たといったが本当は違うんじゃないのか。」

そういいながら私は吸っていた葉巻を灰皿に押し付けた。

私は考えていたことをそのままメアリに話した。

「そして、なぜまだ私の目の前に座ってリンゴ酒を飲んでいるんだ。」

メアリは、「ですよねー」と言ってるように読み取れる顔をしながら

リンゴ酒を飲んでいる。

「私も殺しに来ましたって真剣な顔で言いましたけど

内心こいつ何言ってんだとヴォルターさんは思っただろうなとは、

思いましたよ。」


「でも殺しに来たのは嘘ではないんですよね。」

「私があなたに会った時にいきなり襲われたら戦うつもりでした。」

「それでも私があなたを殺せる確率は五分五分でしたけどね。」

「ですがあなたと話すことができ、こうやって一緒にお酒を飲んでいる。」

「それだけでも考えが変わりました。」

「あなたはどうしますかこの世界で。たった一人残ったこの世界で。」

ヴォルターは思った。

この世界には私一人しか残らなかった。

このまま死ぬまで一人で過ごせるのかと。

「ヴォルターさん。もしよろしければ私の神の力はいりませんか?」

「神の力か・・・。」

ヴォルターは静かにつぶやいた。


「私はね。ヴォルターさん。私はもう疲れたんですよ。」

「この世界の神であることに。」

メアリは落ち込んでいるようにも、悲しんでいるようにもとれる

表情をしていた。

「この世界は128,536回目の世界なんです。」

「私がこの世界を争いのない世界を作りたかったんです。」

「でも必ず争いが起きこの世界の種は絶滅しました。」

「そのたびに私は世界を一から作り続けました。」

「そしてヴォルターさん。あなたが初めての生き残りなんですよ。」

メアリは静かに微笑んだ。


「そうか。」

ヴォルターは静かに呟いた。

そしてヴォルターは、メアリの表情と話の内容から読み取った

ある推測をメアリに話した。

「メアリ、君の本当の目的は死ぬことじゃなかったのか。」

「私を殺しに来たことは建前で、本心は私に神の力を譲り

死ぬことが目的だったんじゃないのか。」

「メアリ。君は神だ。どこからかこの世界の行く末を

見ていたんじゃないのか。」

「そして私が急に攻撃を仕掛けてくるほど好戦的ではないと

知っていたんじゃないのか。」

「だから私の前に現れたんじゃないのか。」

「だから私に神の力を譲るといったのだろう。」

ヴォルターは何とも言えない表情でメアリを見ている。

「ふふ。ヴォルターさんにはすべてお見通しのようですね。」

メアリの口から笑みがこぼれた。

「ヴォルターさん。そんな顔しないでくださいよ。」

「せっかく一杯付き合ってくれた人が死にに来ましたって言ったら

こんな顔にもなるよ。」

「ええ。そうですよね。すみません。」

「まぁ、いいさ。メアリ先ほどの話の答えを聞かせてもらってもいいかな。」

「ヴォルターさんの話は間違いではありません。」

「私は死ぬつもりでしたから。」


メアリは静かに話し始めた。

「私は世界を作っては滅んでいくのを何度も見てきました。」

「この世界を作った時もいずれは争いが起き、また滅んでいくんだろうと

思っていました。」

「ですが、ヴォルターさん。あなたがこの世界に生まれました。」

「私はすべてを見ていました。この世界の始まりから終わりまで。」

「そしてこの世界にただ一人残った龍を。」

「あなたなら私の願いを叶えてくれんじゃないかと勝手に思いました。」

「なのでヴォルターさん。私の神の力を貰ってください。お願いします。」

メアリは頭を下げた。


「メアリ。私が神の力を譲られたら君は死ぬのか。」

「ええ。死にます。」

「私は神の力を使って世界を作ればいいのか。」

「それは自由です。世界を作ってもいいですし、

別の世界に行くことだって可能です。」

「別の世界?」

「ええ。そうです。」

メアリは頭を上げ答えた。

「この世界は、無数に存在している世界の一つでしかありません。」

「神の力を使えば別の世界に行くことができます。」

「そうなのか。」

ヴォルターは別の世界があることに驚いた。

それとは別に、無数に世界があるのならば見てみたいとも思った。


「私が神の力を拒否したらどうする。」

「そしたら私はこの世界と共に消えます。」

「世界が消えますからヴォルターさんも消えることになりますね。」

「ですが。ヴォルターさんには生きていてもらいたいです。」

「なんせ私の世界で初めての生き残りですから。」

「だからヴォルターさん。神の力を使って生きてください。」

ヴォルターは思った。

神の力をメアリから貰ってもいいと。

それとは別にせっかく一杯付き合ってくれたメアリとの別れは残念だと。


「なぁ、メアリ。君は死ぬとどうなるんだ。」

「死ぬとその魂は、色々な世界を廻ります。」

「人や龍その他、多種多様に生きているもの

それは神とて例外はありません。」

「なのでヴォルターさんが神の力を使い世界を作ったり

別の世界に行った時にもしかしたら私の生まれ変わりに会うことも

あるかもしれません。」

「そうか。もう会えないというわけでもないのか。」

「まぁ、生まれ変わった私が

このことを覚えている保証はありませんけどね。」

「それでも一生の別れではあるまい。」

「もし君と出会えたら神の力で記憶を呼び起こすこともできるだろう。」

「えぇ、できますよ。」

「てっことは、私の神の力を貰って下さるのですね。」

「ああ。ほかの世界には興味がわいた。」

「私は旅に出ることにするよ。」

「ここに残っても消えるだけだし。」

「それに戦った同胞たちももういないからな。」

ヴォルターは少し俯きながら答えた。

「ありがとうございます。ヴォルターさん。」

メアリは静かにお礼の言葉を述べた。


「では、早速私の力をヴォルターさんに譲りますね。」

「まぁ、落ち着けメアリ。せっかく出会えたんだもう少し飲もう。」

「すみません。少し急でしたか。」

ヴォルターはメアリのグラスにリンゴ酒を注ぎ、

自分のグラスにウイスキーを注いだ

「メアリ、二人の門出に乾杯。」

「乾杯。」

「カチャン」

二人の乾杯の音は夜空に響いていった。

二人は飲みながら、たわいのない話を夜が明けるまで続けた。


長いようで短かった二人の時間はそろそろ終わりを迎えようとしていた。

日の光が二人を照らし始めたのだ。

「ヴォルターさん。夜が明けますね。」

「ああ。そうだな。」

二人とも少し名残惜しそうな顔をしていた。

「ヴォルターさん。そろそろ力を譲ってもよろしいですか。」

「ああ。頼む。」

ヴォルターとメアリはイスから立ち上がりお互いに歩み寄った。

「では、いきますね。」

メアリがヴォルターの体に身を寄せた。

するとメアリの体から白いオーラのようなものが溢れ

ヴォルターの体の中に入っていった。

「これで私の力はヴォルターさんの物になりました。」


「力の使い方はヴォルターさんに説明しなくてもわかりますよね。」

「ああ。大丈夫だ。」

ヴォルターの中に神の力が入った時、おのずと力の使い方が分かったからだ。

「他の世界に行くなら最初に私の知人の世界に行ってみてください。」

メアリは懐から一本の鍵を取り出し、ヴォルターに渡した。

「この鍵は知人の世界に行くための鍵になります。」

「この鍵があればこの世界と知人の世界を繋ぐことができるので

迷うことはありません。話は通してありますから。」

メアリがヴォルターに鍵の説明をしてくれているとき、

メアリの体は徐々に薄くなっていった。

「そろそろ時間のようです。」

「私が消えたらすぐに世界の崩壊が始まります。

なのですぐに鍵を使用してくださいね。」

メアリは少し目に涙を浮かべているようだった。


「最後にいい思い出ができました。ありがとうございました。」

「最後じゃないだろ。また会えるのだから。」

「そうですよね。また会えますもんね。」

「だからさようならは言わないよ。メアリ。」

「はい。ヴォルターさん。」

「またな。メアリ。」

「またね。ヴォルターさん。」

メアリは消えた。

そしてもうこの世界には存在しない。

そうヴォルターは感じたのだ。


メアリが消えたと同時に世界の崩壊が始まった。

ヴォルターは、メアリに言われたとおりにすぐに鍵を使用した。

使い方も神の力と同様におのずと使い方は分かっていた。

鍵を使用するとヴォルターの目の前に扉が現れた。

その扉には鍵穴がついており、

メアリから渡された鍵を差し込むと扉が開いた。

ヴォルターは振り返り崩壊する世界を見渡した後、

扉の中に入っていった。






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