むかしむかしひとりの
むかしむかし
ひとりの大男が村へ迷いこんで来ました。
大男は身体中に怪我を負っていたので、村の者で助けてあげました。
大男はしばらくして元気になりましたが、自分がどこから来たのか思い出せませんでした。
村の者達はいつか思い出すまでここで暮らしていけば良いと言いました。
大男は元気になると村の者に交じって働きました。
大男は大変な力持ちで村人の3倍も働けました。
大男は持っていた種を植えてくれました。
イェローツリーと言う名前の木で美味しい実がなると。
種は不思議な事にあっという間に育ち赤い実をつけました。
村人達は大変驚きましたが、初めて食べる実を喜びました。
イェローツリーの実をもぎ食べると元気が出るようでした。
村人は大男と仲良くなり、ずっとここで暮らしていけば良いと思うようになりました。
ある時、黒い嵐がやって来ました。
村人は黒い嵐に逃げ惑い、倒れていきました。
大男だけが黒い嵐に立ち向かうことができました。
大男は黒い嵐を見て自分に魔法が使えることを思い出しました。
黒い嵐に向かい白く輝く魔法を唱えると嵐は消えました。
村人は大男に礼を言いましたが、助けてくれたお礼だと笑いました。
全てを思い出した大男はフォス国へと帰っていきました。
めでたしめでたし。
鶇村の伝承【フォス国の大男】より
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俺はホウジの家へ戻ると帰宅していたホウジの父親に会った。
ホウジは父親似なんだなと納得する茶色い目をしていた。
村で見かけた人達よりも背が高くガッチリとした体型だった。ホウジも大きくなるのだろうか等と、とりとめ無く考えてしまった。
簡単な挨拶を済ませると先ずは腹越しらえと食事をご馳走になった。コメと言う物を使った慣れない料理だったが美味しかった。
そして【フォス国の大男】の話を聞かされた。
「それでフォス国に皆が反応したのか……」
「ええ、そうなんです。村でこの話を知らない者はいないでしょう。」
なんとも言いがたい気持ちになった。
そう言えばと俺はカバンの中からイェローツリーの実を取り出した。
3人とも驚いていた。
「それはどこで?」
「2日ほど前に、フォス国の森で。良かったら皆で食べないか?大分潰れてしまったようだしもう食べないと痛んでしまう。種は返して欲しいがな。」
「えっ、そうですか……ありがとうございます。」
父親は戸惑いを隠せず答えた。
母親が聞いてくる。
「ヒダッカ様、フォス国ではどうやってお召し上がりに?」
「よく洗ってそのままでも食べるし、火を通すと甘くなるぞ。ツグミ村ではどうするのだ?」
「洗ってそのまま食べます。せっかくなので火を通してみますね。」
母親は父親に目配せをしつつ席を立つ。話は充分声が届くだろうという距離の流しでイェローツリーを手早く洗って行く。
父親は言った。
「いやぁ、まさか春にイェローツリーの実を食べられるとは。」
「ヒダッカさん、僕も驚いたよ……
酸っぱいのも好きだけど、甘くなるの楽しみだな。」
「ちなみに種はどこかへ植えるのでしょうか?」
「いや、砕いて煮だすと染料になるんだ。
それより、やはり季節は春なのだな?
フォス国は今秋なのだが……」
ホウジと父親は目を合わせる。
「それはどう言うことか分からないですが……
フォス国の大男の続きの話をしましょうか。」