籠いっぱいの
沙葉の家
籠いっぱいの薬草を受け取った母親は難しい顔をしながら薬草の処理をしていく。
沙葉はその傍らで夕飯を作り始める。
「ただいま」
父親と兄が帰ってきた。
沙葉は父親と母親、兄との4人家族だ。
荷物を置き直ぐに沙葉を呼ぶ。
「沙葉。今日は峰司君と別に大人の人と帰ってこなかったかい?果樹園から見えてね。」
「父さま。背の大きな男の人が街道じゃなく森の中からやって来たの。びっくりしちゃった。外国の言葉を話していたけど、峰司君とは話せたの。フォス国から来たって言ったのよ!」
「フォス国?あの昔ばなしの?」
兄が聞いてきた。
「兄さま、信じられないでしょう?他の言葉は分からなかったけどフォス国って所は私にも分かったの。峰司くんのお父さまとお話しするみたい。」
「私も会いましたけど、茶色の髪に茶色い目それから大きな背と大きな手でね。ここら辺では見かけない人でしたよ。」
母親が心配そうに言う。
「不思議な事も有るものだね。母さん?心配し過ぎないようにな。明日は様子を見に行って来るよ。」
少し力んでいたのかと気付き、母親は緊張を解き微笑んだ。
「ええ、そうね父さんありがとう。」
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フォス国森の中
「なあ、どうする?」
ヒボラが暗い声で言った。
森の集合場所で一晩を過ごし朝になった。
ノアタもまた暗い声で答えた。
「うん……町へ帰ろう。」
ヒダッカの姿はそこに無かった。
少なくなってしまったがイェローツリーを依頼主へ届けよう。
二人とも足りない分を採りに戻る気にはなれなかった。
それにウルフの群れが出てきていることを町へ警告しなければならない。
森を早足で抜け、夕方には町へ着いた。
その足で依頼の半分にも満たないイェローツリーの種を持ち、ギルドに向かった。
事情を説明すると職員達が顔色を代えて慌ただしく動き出す。
「住人へ警告を出さなくては!とりあえず一人で町の外にはでないように……」
「討伐隊を指揮するべきでは?……」
「領主様へ報告に行かねば!誰が……」
改めて事の重大性を認識しつつ顔を見合わせる。
ノアタとヒボラは自分達の巻き起こした騒ぎからそっと離れた。
「よく考えたら大事件だよね。」
「そうだな。遭遇したのが俺達だから助かったんだよな。」
「ヒダッカ帰って来れるかな?」
「心配して待ってるのはもう嫌だな。捜しに行こうぜ?」
「そうだね、腕の立つ奴に声をかけよう。またウルフに襲われて逃げ回ってたら捜せ無いからね。」
二人でこれからの段取りを即座に決めて行く。
人が集まれば明日の昼に出発予定で別れる。
「あのさぁ、僕はちょっと用事を済ませて来るよ。」
「ヒダッカの親父さんに会いに行くのか?」
「そうしようと思って……」
「お前はヒダッカの家族とも仲が良いしな、宜しく頼むよ。迷子のヒダッカを俺が連れ帰ってくるって伝えてな。」
「うん僕達で、でしょ!」
「へへっまぁそう言うことだな!」