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露程も知らない幻想組曲  作者: 熱帯長草草原地帯
第一章 不穏な足音
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僕達三人は

「ハァッハァッ」


 僕達三人は走った。

 時おり追い付いてきたウルフを剣で薙ぎ払い、進んだ。

 思っていたよりも追いかけて来た数は少なかった。

 集団で逃げると追跡されやすいと考えて、僕たちは離れて走った。

 時々遠くで戦闘の音が聞こえて来た。今はもうそんな音もしない。そして陽が落ちた。

 今夜は雲もなく月が登り夜目のきく僕達には充分な明るさだった。歩みを止める事無く集合場所を目指した。攻撃を避けながら進んだから決めていた集合場所より大分外れて来てしまった。


 ……皆、無事かな……


 途中まで誰も大きな傷は負っていなかったと思う。僕達はあんな大集団で襲われなければウルフくらいそれぞれ充分に対応出来る。

 得意不得意は多少有っても、それぞれ剣や弓を扱える。

 それに1年の半分程は森で独りで暮らしているのだから、普通の町人より体力も筋力も有る。

  遠くでバサバサと木が倒れる気配がした。ヒボラの風攻撃かな?


「しつこいなぁ」


 ウルフに警戒しながら音のした方へ行ってみる。

 こっちの方角かな?木が倒された戦闘のあとらしき場所に着いた。もう戦闘は終わったみたいだ。

 ヒボラと相討ちしてはしょうがないので危険だけど声を出す。


「ヒボラ、大丈夫?」


 少しして小さな声が降ってきた。


「ノアタ?」


 声の方を見上げ目を凝らすと少し離れた頭上に大きな塊が黒く浮かんでいた。良かった……小さくほっと息を吐く。


「それなに?怪我はしてない?」


 先程より少し大きな声で話しかけた。新しい装備かな?ヒボラは新しい物好きだからどこかで見つけて来たのかもしれない。


「怪我は無いよ、登って来れる?もう俺、動けなくて。」


 魔力使いきっちゃったのか……


「その木じゃ二人は耐えられなそう。僕も近くで一旦休むよ。」


 返事は聞こえない、寝てしまったみたいだ。ヒボラは大怪我を負っているのに隠すような事はしない。ひとまず休息が必要なだけだと思う。

 辺りを見回し良さそうな木を見つけた。

 夜中にウルフに襲われたくは無いから、ヒボラに倣って樹上で休むことにする。僕も疲れた……寝よう。


 長い夜が明けた。

 寝ている間に霧が立ち込めた様でマントが濡れてしまった。冷えた身体をさすりつつヒボラが居た方を見る。

 鳥が囀ずり太陽も登ってくる。昨日の事が嘘のような平和な森。足元を見ると戦闘のあとが有り間違いなく事実なのだけれど。


「ヒボラ、朝だよ!」


 黒い塊がごそごそと動きヒボラの顔と腕が出てきた。そのまま懸垂の要領で木の枝に体を持ち上げぶらりと足を投げ出す様に座った。


「おはよう、ノアタ。」


 そう言ってあくびをひとつする。

 ヒボラの挨拶に答えたあと地面へ降り立ち、ウルフの死体を見つけ嫌な気持ちになる。


「ヒダッカは近くに居ないみたいだね。」

「とりあえず集合場所へと向かおうか。」


 きっとヒボラも不安を浮かべたけど僕達はそれを振り払い出発することにした。

 手早く堅パンと水の食事を済ませて二人で歩く。ウルフがいるかも知れないので少し遠回りになったけど夜になる前には集合場所へ着いた。


「ヒダッカは居ないね?」


 僕は落胆を隠せなかった。


「ヒダッカの奴、逃げ足だけは速いからな俺達よりも遠くへ行ったんじゃないか?」


 少しからかう様な調子でヒボラが言う。僕を気遣ってくれている。

 僕もヒボラの気持ちに答えて明るい口調で言い返す。


「そうだね、美味しいもの作ってたら匂いにつられて帰って来るかもね。」


 ごそごそとイェローツリーの実を取り出す。


「おっそんな重いもの持って逃げてたのかぁ?」

「だって勿体ないでしょう?多少潰れてはいるだろうけど。」

「体力バカは違うな……」


 ヒボラは小声で呟いてたけどちゃんと聞こえた。


「バカって聞こえた……じゃぁ食べなくて良いよ。」


 イェローツリーの実は酸味が強くてそのまま食べるのは好みが別れる。けど加熱すると酸味が押さえられとろりと甘くなって僕もヒボラも大好物だった。


「ええぇっ、ノアタ様の鍛え上げられた身体を尊敬しておりますゆえなにとぞ……」


 と、ヒボラが態度を豹変させる。


「ちょっと、わざとらし過ぎて嫌なんだけど……まぁ冗談だし皆で食べたら少しは荷物軽くなるしね。」


 いつもの調子が出てきて色々話しながら食事の準備をした。

 火を起こし小鍋を二つ出して干し肉のスープとイェローツリーのコンポートを作る。

 依頼は染料にする種を持っていけば良いので実は自分達で食べても構わない。

 出来上がった料理を食べ始める。

 ヒダッカが合流しない事については悪い想像ばかりが膨らむのでお互い口には出さない。

 固パンを温かいスープに浸し柔らかくしながら食べた。森の中ではごちそうだし身体も温まる。

 食後にイェローツリーのコンポートを食べる。甘いものを食べて心が少し緩んだ。


「ねぇヒボラ、何でウルフが襲いかかって来たと思う?」

「俺も考えてた。奴等の縄張りで狩りが出来なくなってこんな浅い森に出て来たんだろうが……その理由は?ってなるとな。」

「そうだね、悪い事が起きなきゃ良いけど……」


 今夜も月は明るい。

 だけど森の奥に目を凝らしても何も見ることは出来ない。

 ただ暗闇を増しているようだった。


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