プロローグ
先程までしつこく降っていた雨がやんだようだ。
濃い霧が立ち込めて身動き出来ずにいた、見たことの無い大きな木のうろへ逃げ込んだのは昨日の朝の事だ。
直後に大量の雨が降りだし先程まで降り続いていた。
うろは大人二人が立てる程の広さだった。
火を起こし暖を取る余裕は流石に無かったが雨が降りだす前に逃げ込めたのがせめてもの救いだった。小さな干し肉を何度も噛み締めながら飢えを凌いだ。固く焼き締めたパンも残り少ない。
「ここはどこだ……」
男はうろから顔を出し森の様子を伺う。
溜息をつきつつ油断無く周囲の気配を確かめ外に出てみる。
体の強ばりをほぐしながら来たと思われる方向を振り返って見るが見覚えが無い場所だ。
「はぁ……何で……」
考えてもしょうがない。
男は身体に異常が無いのを確認して進む方向を決める。
道無き森の中へ歩き出す、足下はぬかるみ滑る。
注意しつつも先を急ぐと冷えきっていた体が暖まり汗が出てくる。
「っ!?」
がさがさと遠くで葉が揺れている。
音を立てずに矢をつがえ弓を引き絞りつつ正体を見極める。
「バジャーか。」
素早く射ると手応えが有った。
続けて2発矢を射ると動きが止まった。
「よしっ」
これで飢え死には免れたなと思いつつ獲物へ向かう。
雨が止んでバジャーも餌を探しに出てきたのだろう。
そこで狩人の目にとまるとは運が悪かった。
素早くナイフを取り出し処理をしていく。
「脂が乗って旨そうだ」
食べられる部分を剥ぎ取り肉を包むのに適した葉っぱを森から見繕い包んでいく。
皮は売れば幾らかにはなりそうだが荷物を増やせないため諦める。
簡単に穴を掘り持っていけない部分を埋める。
臭いに釣られて大型の動物が集まってこないようにする為だ。雨を含んだ土は柔らかい。手や道具を清めまた歩き出す。
その後小さな泉を見つけ充分に喉を潤し水袋にもたっぷり補給できた。
あとは乾いた場所で火を起こし肉を食べたいものだ。
「ふうっ」
ひとまずの食料確保ができるとまた不安が頭をもたげてくる。
何でこんな事になったのか。
森は男にとって危険では有るが生きる糧を与えてくれる所だったはずだ。
馴染み深くどの時期にどの場所へ行けば欲しいものを見つけられるか。
そんな知識はしっかり身に付いていると自負していた。
何年も森へ入り糧を得てそして町へ帰ってこれた。
なのに、今はどこを向いても見覚えが無い場所なのだ。
「はぁ……」