予兆 二人の能力者
第三章 予兆
卓はじっとその子を見つめた。母親譲りで赤茶かかった髪の毛の卓の一方で、その子は黄土がかったブロンズである。
「俺は青波台から来たんだ。」
と卓が言うと、その子は卓とは違う別のものを見つめる顔をした。
「へぇ、そうなんだ。どうりで見たことないと想ったよ。」
「ねぇ、君は死出山の子なの?」
「うん、生まれた時からずっとそうだよ。」
ひょっとしてその子だったらあの桜の木を知ってるかと思った卓はこう言った。
「ねぇ、桜の木って知らない?」
「桜の木?ああ、小学校の校庭にあるあれか」
「案内してくれない?」
その子は頷くと、山をするすると降りて行った。死出山を知り尽くしているのかその足に迷いはなかった。卓は必死に追い掛け、校庭に着いた。
少年は桜の木をじっと見つめた。
「ねぇ、君はどうして桜の木を探してたの?」
卓は考えこんでこう返した。
「ちょっと、色々あってな。」
「ふ〜ん、そうなんだ。」
その子は足元を見ていた。
「この木の下には死体が埋まってるんだ。」
卓も土を見たが、特に変わった事は無かった。
「どうしてそれを知ってるの?」
「何度か掘り返した事があるし、言い伝えもあるから。」
「言い伝え?」
その子はこう語りだした。
「この木の下に死体を埋めると、もう一度その人に会えるって話だよ。最も僕はやったことないけど。」
「へぇ、そうだったのか。」
卓がそう言って足元を見ると、木の根にメモが挟まれていた。それも知ってるだろうと思って、卓はその子の方を見たが、いつの間にか居なくなっていた。
仕方なく卓はそのメモを拾った。その時、メモから黒い気が噴き出して卓の首や腕に縛り付いた。
気が遠のく中で、何処からか声がした。
(どうして、私ではなくあの子を……)
卓は自らを失いそうになった時、背後から気配がして聞き覚えのある声がした。
「卓、良いからそれから手を離すんだ!」
その人のお陰で卓はなんとかメモから手を離す事が出来た。
「卓、大丈夫か?」
見るとそこには父親である瞬が立っている。
「お父さん!」
瞬は卓の顔を見るとホッとしてため息をついた。
「全く、心配かけて…」
卓は安心したようだったが、さっきの子といい、あの黒い気といい、分からない事が多かった。
「お父さん、あれは一体…?」
「あれは卓の…」
その時、二人の前にさっきの子が現れた。
卓は驚いた。その子は目の前の父親そっくりだったからだ。
「お父さん、あの子は…」
「やっぱりな」
「えっ…?」
瞬はその子の目の前に立った。
「あれは、昔の僕だ。きっと卓の力が強くなってるから現れてるのだろう。」
瞬が手をかざすと、その子は光の粒子になって消えていった。
「お父さん、俺の力って…?」
「卓君!」
その時背後から帽子を持った優月と亮也が走って来た。
「卓君のお父さん、どうしたんですか?」
瞬は一息置いて、こう言った。
「二人にも伝えておくべきだろうか、実は卓には普通の人には無いある能力を持っているんだ。」
「卓に能力が…?」
瞬は真剣な口調でこう言った。
第四章 二人の能力者
「僕は強力な霊感と極度の霊媒体質というものかかるんだ。
風見家の長男でなおかつ一度死にかけた事がある人…、『風見の少年』と呼ばれるものは何かしらの能力を持つとされている。」
「卓君も『風見の少年』なんですか?」
優月がそう聞くと、瞬は頷いた。
「ああ、そうだよ。卓の能力は物や場所の記憶を読む能力なんだ。」
「俺にそんな能力があったなんて…。」
確かに心当たりはある。五歳の時、海水浴で卓は岸の方まで流され、死にかけた事があった。そして、たまに何かに触れると、何処か痛みを感じたり、意識が飛んだり、見覚えのないものが見えたりした。
「特に死に関するものである程、力が強くなるらしいな。」
卓は優月の手に入れる持っている帽子を見た。
「これ?なつめちゃんの帽子だけど…」
「俺が触れたら、記憶が読めるのかな…」
卓はそれに触れた。すると、突然意識が闇に突き落とされるような感覚がした。
そして…、闇の中からある景色が見えた。帽子を被っている少女と一回り大きい少年がお互いの顔を見合わせて笑っている。
そして頭上には桜が舞っていた。
「卓君?」
優月にそう言われ、はっと我に帰った卓は一同を見た。
「うん…、見えたよ。でも全く関係ないものだった。」
「そっか…」
瞬が今更ながらこんな事を聞いた。
「どうして三人は死出山に来たのか?」
「あ、俺達実はある事件を追っているんだ。」
「へぇ、そうだったのか。」
そして四人は人が帰らぬ町になった死出山の夕焼けを見ながら、駅へと戻って行った。
…一方その頃、夜の青波台では飲み屋が軒を連ねていた。その一角にある店で友也は、向井先輩と一緒に飲んでいた。
友也はある新聞の一ページを広げて見せた。
「この事件で死んだ人、僕の同級生なんですよ。」
「そうか…、」
友也はビールのジョッキを飲み干した。
「今まで関わりがなかったのに…どういう訳か気になりまして。」
向井先輩はなにも言わずにそれを見つめていた。
そして、皿が片付けられると、向井先輩は席を立った。
「さてと、僕は帰るよ。家の兄弟達が心配になってきた。」
「あっ、お疲れ様です。」
兄弟、という言葉で友也はふと兄とその息子達の顔が思い浮かんだ。
「久々に、顔を出しに行くか。」
そして、一人夜の町を帰って行った。