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嘘吐き少年  作者: 小島もりたか
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終章

 結局、ウリアもマリアも二人の嫌疑が解かれるまでスターフィールの家に滞在してもらうことにした。

 ウリアの瞳はまだ深く沈んだままだが、それは仕方がないことだろうとライトは二人に見つからないように小さく溜息を付く。

 昨日から色々なことがありすぎて、頭が酷く重く感じる。明日からまた学校が始まると思うとさらに気が滅入るが、お気に入りの友人に会えると思うと、少し嬉しかった。

 ライトはマリアとウリアを連れて、リビングに入った。


「ただいま帰りました」


 部屋を見ると、珍しく父と母が二人揃って昼食を食べていた。一番奥に大婆様も座っている。ライトの姿を確認すると、母は少し意外そうに瞬きした。


「お帰り。もう見つかったの?」


 そして後ろのマリアを確認して、何度も母は瞬きをした。街中で久しぶりに合う友人を見つけたように、母は何度もマリアの姿を確認する。その光景のせいか、マリアも落ち着きがない様に思えた。

 やがて母はマリアに駆け寄った。


「もしかして、あなたマリア? なんでそんな姿になってるの?!」

「え……?」


 マリアはあどけない少女の様に小さく首を傾げた。


「あー、そうよ、マリアは私のこと覚えてないんだわ……」


 母は一人だけやたらと興奮したように何度も前髪を掻き上げる。そんな母に父がのんびりと声を掛ける。


「マリアさんがどうかしたのかい?」

「ドラコ、あなた何度も直接会っていたでしょうに、何で気がつかなかったの?」

「何にだい?」

「マリアのことよ。学生時代、何度も四人で一緒に遊んだでしょ?」

「……これはどういう状況なのでしょう?」


 マリアが途方に暮れたようにライトを見た。正直、ライトも困惑していた。


「分からないです」


 そして父までもが、驚き、マリアに駆け寄った。


「もしかして、え、あの、マリア・ウォルトンかい?」

「そうよ、ようく思い出してみなさいよ。確かにマリアの魔力でしょ?」

「確かに……。マリア、何故君はこんな姿になって王子の召使を……?」


 マリアは困ったように、母と父を手で制した。


「お待ちください。確かに私は昔ドラコ様と何度もご一緒したことはありますが、ご婦人はどうしても思い出せません。人違いではありませんか?」

「待ってくれ、様付けは是非とも止めてくれないか?」

「いえ、一介の召使にその様なことはできません……」


 マリアが視線を逸らすと、父はマリアの両肩を掴んだ。


「友人と分かった以上、私は友人にそんな言い方はされたくない。……気がつくのが遅れてしまって申し訳ないが……」

「……ドラコさん」

「マリア、君はどうしてそんな姿になったんだ?」


 マリアは小さく首を横に振る。懸命に涙を堪えるせいで、言葉が発せられない様だった。

 横から母が割り込んで、今度は母がマリアの両肩を掴んだ。状況に付いていけないウリアがマリアの隣でキョロキョロとしているのがライトにはおかしかった。


「私はそんな姿許さないわ! あなたが断ろうと、何としてでも元の姿に戻すんだから!」


 父に対して以外にこんなに誰かに執着する母をライトは見たことがなかった。


「これから家を借りるだけでもご迷惑なのに、更にこれ以上ご迷惑をおかけすることはできません」

「マリア!」


 感極まった母はマリアをきつく抱擁した。


「ごめんね、マリア。私が傍にいなかったせいで……あなたが大変な時に何も助けることができなかったのね……」

「え……」


 一筋、マリアの頬から涙が流れだしたのをライトは見逃さなかった。涙は一滴落ちた後は、ダムが決壊してしまったように止めどなくマリアの目から溢れ出す。


「あれ、なんで……?」


 マリアも自身の目から流れ出る涙に困惑している様だった。


「ごめん、マリア。一人にしてごめん」

「どういう、こと……?」

「私があなたの私に関する記憶を失念させたの」

「あなたの記憶?」

「私の名前はソル。ソル・スターフィールド。昔は、ソル・ヌーベースと名乗っていたわ」

「ソル――?」


 マリアの瞳が僅かに煌めく。マリアは何度も母の名前を反芻する。そうすることで、記憶の奥底から母の物を呼び起こしている様だった。


「私が知っているあなたは、いつも所在がなさそうで、素晴らしい才能も持っているのにいつも自信がなさそうだった。――でも、もうそれも大丈夫そうね」


 母が優しく微笑んだ瞬間、マリアが母を熱く抱擁した。力強く、もう二度と逃すまいとするような抱擁。


「ソル――!」


 母も優しくマリアを抱きしめ返す。


「思い出した。全部思い出した! なんで失念させてしまったの? なんで消えてしまったの?」

「ごめんなさい、マリア。そうするって決めていたの」


 マリアと母は何度も問答を繰り返した。

 所在なさ気にウリアがライトに近づき、問い掛ける。


「すまない、状況についていけないのだが……」


 ライトは小さく溜息をつく。なんとなくウリアにそう言われそうな気はしていた。


「マリアさんの日記の内容覚えてる? 二〇〇一年十二月一日の日記」


 ウリアは小さく首を横に振った。これも想定の範囲内だった。ライトは日記の内容を諳んじる。


「二〇〇一年十二月一日

 あと約一カ月でトエル国とはしばらくお別れになる。

 外での生活について教えてくれるドラコさんにお礼をしなければ。ドラコさんに「昔に比べてだいぶ自信が持てるようになってる」


   と言われたことはかなり嬉しかった。

 ドラコさんは一時期抜け殻の方になっていたことがあったけれど、

今はとても幸せそう。ルーナさんに感謝しなければ。

 私もいつからだろう、気がついたら心にぽっかりと穴が空いている。

 とても会いたい人がいる気がするのに、それが誰か、いや、その気持ちが

本当であるかも確認することができない。

 恐らくこれはドラコさんと同じ現象なのだろうけれど、確証がない。

 私は早くその人を思い出したい」


 ウリアが隣で日記の内容を暗記していたことに感嘆していたが、それは無視した。


「つまり、あの日の日記で書かれていた『その人』は、私のお母様のことだったのよ。だからマリアさんは、自分の夢、将来、若さ、娘だけでなく、親友も失っていたことになるのね……」


 ――これはトエル国一だわ……。


 ライトは思わず額に手を当てた。ウリアもやっと意味が分かったらしく、小さく息を呑んだ。


「でも、少なくとも二つは還ってきた……」

「そうね」


 娘と親友は今日取り戻したのだ。


「しかし何故マリアから自分の記憶を消す必要があったのだ?」

「記憶は消してないし、マリアさんだけじゃないわ。お母様は小さい頃からスターフィールド家の当主になるつもりだったらしいから、きっと一人前になる前の自分については全てトエル国に残さないようにしたのよ」

「じゃあドラコとはどうやって……?」

「さあ? お父様も力が強いから、もしかしたら何かのきっかけで自力で思い出したって所じゃないかしら?」


 父と母の出会いについてはあまり聞いたことがなかったので、ライトも予想の範疇でしか答えられない。

 母とマリアの嗚咽が室内に響く。

 大婆様が二人の様子を優しく見守っているのが、横目で見えた。


 ウリアを一旦部屋に連れてから廊下を歩いていたところで、ハイネンと会った。徹夜明けのせいか、目はまだ眠たそうだ。


「やあ、問題は解決したようだね」

「お陰さまでね」

「レイを探してるサングウィンも昨日から連絡が途絶えてるらしいし、一気に解決だね」

「お父様が見つけたら連絡するなって言ってるのよね? ――案外早く見つけたわね」

「レイにしては珍しいヘマでもしたんだろうね」

「みたいね。まあ、大方の場所は見当ついてたけど」

「なんで?」

「共有図書に、昨日からかなりの日本の漫画が入ってるわ」

「それは早速確認しなければ」


 ハイネンはニヤニヤと嬉しそうに笑んだ。ハイネンは前々から日本の漫画に興味があったのだ。

 ライトは薄々思っていたことを問い掛ける。


「そういえば、ハイネンお兄様はウリエルが女の子っていつから気がついていたの?」

「うーん、月に出た時かな。でも最初はちゃんと男の子だったと思うんだ」

「……そこまで身体を見てるなんて」

「いや、一応余所者には警戒するのは普通でしょ?」

「そうだけどさぁ……」


 今までハイネンより遥かにウリエルとは邂逅してきたのに、ハイネンの方が先にウリエルの本当の性別に気がついたのは悔しかった。


「まあ先入観もあるだろうし、マリアさんの力で普段は本当に男の子だったんだろうね」

「そうなんだろうけど……」

「それで、ライトはいつ告白してあげるの?」


 ライトはぎくりと肩を上げた。見上げるとハイネンが意地悪く笑っている。


「いや、そうなんだけどさぁ……」

「たぶんこれからずっと暮らすんでしょ? なら早めに言ってあげないと、後になると色々と拗れると思うなあ」

「そうだけどっ」


 語気を荒げるライトをハイネンは面白そうに見つめる。ライトはトビトにも似たような笑い方をされていたことを思い出した。


 ――くそっ、トビトも気がついてたんだ!


 更にプライドに傷がつく。

 そんなライトを残し、ハイネンが手を振りながら自室に戻っていく。


「とりあえず早く言ってあげなよ、『本当は男の子です』って」


 ライトは悔しさのあまり地団太を踏む。


「くっそー!」

「ちゃんと女の子らしく。性別で嘘をつくのが嫌なら、学校で落ちこぼれを演じていないでさっさと上級魔法士になればいい」


 ハイネンの素っ気ない言葉がライトの心を余計にかき乱した。

<後書き兼、反省部屋>

 最後まで辛抱強くお読み頂き、誠にありがとうございました。


『金色の魔法使い』に引き続き、一応、某大賞に応募したブツなのですが、もしかしたら痛々しかったかもしれませんね(今でも痛々しい……?


 自分的には結構思い入れが強く、応募作品で一話完結であるべきが、二つともどうしても一話で綺麗に纏まっていないのが一次選考を通過できない要因の一つでもある気がします。

(次回応募するときは、もっときれいに一話完結を目指したいと思います)


 投稿時に一部修正したのが呪文です。表現の仕方が逆になっていました(///ω///)

 改めて読み返すと、何と言いますか、色々とダメな部分が見つかり過ぎて、「一次選考通らないのも納得だわ」という気持ちになりました(笑)


 一応、ラノベに投稿したのが『金色の魔法使い』と『嘘吐き少年』の二つになりますが、今後も投稿して選考通らなかったらバンバン晒し上げていこうと思います(笑)

 なのでもしも気が向いたら、ご指摘・ご助言して頂けると、もの凄く勉強になりますので、是非宜しくお願い致します!


それでは、またのご機会にお会いできることを心待ちにしております。

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