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嘘吐き少年  作者: 小島もりたか
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序章

 新鮮な暗闇の中に一本の巨大な木と青年が立っていた。その巨木は夜空を照らす月のように自身の葉を薄らと黄金色に輝かせている。また青年の肩ほどまで伸ばされ、一つに束ねられた髪も、巨木の光に共鳴するかのように仄かに黄金色に輝いていた。

 青年の足元にある空色をした草原が、青年が取り巻く風でさわさわと揺れる。巨木の光の届かない遠くでは、疎らに生えているケケラバイルという植物の花弁が昼間蓄えた陽光を発散し、星のように瞬いていた。

 巨木の向こう側――頭上でも、人々の営みが星のように輝いている。


 無音に支配された世界で、ただ輝きだけが星のように広がっていた。


 ふいに青年の身体が音もなく浮き上がり、巨木の枝に手を伸ばした。手にしたものは巨木と同じ輝きを持つ、林檎だった。青年は掌程の大きさのそれを優しく枝からもぎ取り、何のためらいもなく口にする。


 しゃりん


星屑が砕けたような音が空間に吸い込まれる。


 しゃりん、しゃりん


青年が果肉を咀嚼する度に音が響く。


 しゃりん、しゃりん、しゃりん


青年は無表情で林檎を食べる。


「――」


 青年はある一枚の葉っぱが気になったようだ。再び手を伸ばし、林檎と同じく掌程度の大きさの葉を一枚採った。淡い黄金色の光を放つその葉には、いくつも光らない個所があった。点や線でできている黒い箇書は、文字の様だった。巨木の葉の多くには文字が書いてあったが、青年の気を引いたのは、ただその一葉だけだった。

 青年は自身が採った葉の文字を見て、一つ微笑んだ。そして足元を見る。巨木の光がかろうじて届く範囲の場所に、白い壁をした一つの建物があった。


「まだまだ元気なんだろうな……」


 青年の苦笑いが混じった独り言は、巨木にだけ届いていた。

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