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リサとプリンス・チャーミング

「いいですか。もし一瞬でも帰れそうな予感がしたらすぐにここ開けて飛び込むように」

「ハイ」


 偏屈と言った件で軽くシメたあと、チャーミンを和室に連れて行った。

 手伝わせて布団を敷く。

 なんで私がこんなことを。めんど死しちゃぅょぉ……。


 ふすまアタックの繰り返しを命じお風呂場に行く。

 シャワーを浴びて戻り、やっぱりまだいたチャーミン(がっかりだよ)を連れてまたお風呂場に行く。シャワーの使い方を伝授するためだ。死にそう。


「これが石鹸。ここ押すとこっからお湯出てくる。これバスタオル。着替え。不明な点は」

「何がわからないかがわからない!」


 バカの典型ですね。

 では実践あるのみ。ファイト!


 キッチンに戻り、冷やしておいた麦茶を飲む。

 ぷはーうまいわー。

 さて、憧ほどにはやらないとして、まぁ普通に出された宿題くらいはやっとくか。めんどいけど。

 ダイニングで問題集とノートを広げた。


 ……………………。


 あいつ遅くね?




 ・・・



 嫌々お風呂場を見に行くと、チャーミンは脱衣所にいた。

 さっきのままの格好で目を閉じ微笑み、軽く両手を広げ突っ立っている。

 なんだろう。銅像ごっこ? 電池切れたのかな?


「もしもし」


 不気味すぎて声をかけた。

地球アースを感じてるのだ」とか言われたらどうしよう?


「……? ……うわっ! まだ一枚も脱いでない!?」


 チャーミンは目を開けてびっくりしていた。

 聞いても不気味だった。なんなんだよ。


「着替えを待っていたのだ!」

「なるほど。王子だし人に服脱がしてもらうのが普通の生活だったと」

「その通りだ! いつもはフランソワがぱぱっと着替えさせてくれるのだ!」

「フランソワどこにいるの?」

「もちろんバナーナ王国の王城、王子たる僕の部屋にいる。フランソワは僕専属の召使いだからな!」

「ここには?」

「いない!」


 じゃあオートじゃ脱げないよ。




 ・・・



 チャーミン王子は着ているものを脱ぐのにおよそ30分、シャワーに10分、お父さんのパジャマに着替えるのに30分を要した。

 私は宿題も全部終わり、珍しく英数の予習まで完璧にしてしまった。どうしてくれる。

 ダイニングの入り口に、首にバスタオルを巻きつけたチャーミンが立った。

 信じられないボタンの掛け違え方をしている。


「リサ、髪を乾かす魔法をかけてくれ!」

「ないわ」


 この王子本気で魔法の国っぽいとこの王子なの?

 それとも頭が園児なの?


「ド……」


 言いかけた音がため息に変わる。ダメだ……ドライヤーと言うだけの気力が残っていない。

 僅差の体力で補うしかない。

 棒立ちのチャーミンのバスタオルを引っ張り、ばっさーっと頭にかぶせる。


「うわぁ何をするっ!? ああ、水気を拭いているのか!」

「そう思ったなら少しくらい屈めよ」


 ゴシゴシゴシゴシ

 あ~~~これがケンタロちゃんならな~~~~~!


「イタッ! 痛い! うわっ……ヒィィ」


 私ってこんなにも面倒見いい。本当に感謝してほしい。


 手を止めると、チャーミンがヒィヒィいいながら頭を上げた。

 タオルの下から半泣きの顔が覗く。

 これくらいで泣くんじゃない。男の子でしょ!


 ……それにしてもこの王子、無駄に睫毛が長い。ほほー。

 碧い目が涙で潤みきらきら輝いている。

 魅惑的チャーミングなんてふざけた名前だ。

 でも馬鹿みたいなコスプレをしていなければ、ある意味似合っているのかも。ダサいけど。


「ひどい……もっと優しく、腫れ物に触るように扱ってくれないと」

「それ言うなら壊れ物ね」


 綺麗な顔してるだろ。

 ウソみたいだろ。

 ポンコツなんだぜ。




 ・・・



 寝よう。


「二階には絶対上がって来ないでね。もし一瞬でも帰れそうな予感がしたらすぐにここ開けて飛び込むように」

「それさっきも聞いたぞ」


 言うさ何度でも帰るまで。

 チャーミンを和室に閉じ込め、二階の部屋に行く。

 ベッドに横たわる。

 あー、ドッと疲れが。


 コンコンコンコン


『リサ、リサ』


 幻聴が聞こえる。無視して寝よう。

 ドアの鍵はかけたし朝までぐっすり。オヤスミー。


『リサってば…………シクシク……フランソワ……パパ上……ママ上……シクシク……』

「部屋の前で泣かないでようざい」


 うっかりドアを開けた先では、チャーミンが廊下に座り込んでしくしく泣いていた。


「シクシク……リサ、僕は枕が違うと眠れない……」

「驚いた、なんて繊細なやつなんだ」


 これまであんだけああだったのに、そこ?

 アンビリーバブル……。


「どんな枕がいいの」

「もっと……大きくて、ふかふかで……色は白かフランボワーズ色、羊の形をしていて顔はニコニコしている方がいい」

「我儘か」

「……リサ、あの可愛い人形たちはリサのものか!?」


 ふと顔を上げたチャーミンが、私の部屋の出窓にずらっと並べられたぬいぐるみたちを指差した。

 あれらは全て、父が私の誕生日に買ってくれたものだ。


「ニコニコしていて可愛らしいな!」

「私には全く解せないけど」


 父の購入基準は「顔が笑っている」という点だった。

 目をニコニコ虹型にした動物たち。

 私は日頃ニコニコ笑う動物に囲まれて寝ている。この恐怖がわかるだろうか?

 父は「優しそうで楽しそう」と言ったけど、狂気しか感じない。


 私がぬいぐるみが好きとか欲しいと言ったことは一度もないし、やんわり遠慮したりはっきり断ったりもしたが、プレゼントが変わることはなかった。

 一年経ったら忘れてる。


「リサ……とても、とても悪いのだが……あの動物の人形を、少し僕に貸してくれないか……? みっ……いや、一つでいいから!」

「どれでも好きなだけ持ってきなさい」

「えーほんと!?」


 チャーミンはニコニコしたウサギに突進していった。

 ロバとリスも腕に抱え、ものすごく幸せそうに戻ってくる。


「ありがとうリサ! 心優しい町民よ!」

「じゃあおやすみ」

「わかった! 良い夢を!」


 初めて需要と供給のマッチが実現した。

 ぬいぐるみたちも浮かばれるだろう。

 私はチャーミンを追い出してドアを閉め、眠った。

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