リサと自称王子
面倒臭いのはムリなので手短に話す。
学校終わって家に帰ったら、自称王子な金髪の何かがいた。
ちゃんと鍵かけてあったのに、どこから入った。
「誰あんた」
「だから、バナーナ王国のチャーミング王子だと言っている!」
「ケーサツ……」
不審者出た捕まえてください。
でも通報するとして、事情聴取とか死ぬほどダルいな……私何もしてないのに、ふざけんなこのコスプレ野郎。外国人ぽいから違和感ないわ馬鹿野郎。降って湧いた災難に絶望しながら、私はポケットに手を入れスマホを取り出す。
「ま、待て娘!」
野郎が慌てた。
「ぶぶ武器を置け、それは必要ない! 僕は不審者ではないぞ! 身元はこの上なく確かだ、何しろバナーナ国王の実の息子なのだからな! ただ、ここがどこだかさっぱりわからぬ……」
あたふた言い訳する不審者。
こっちもあらゆる点がさっぱりわからぬ……。
「ここだけの話、実は僕は今日、こっそり城の物置部屋を探検していたのだ。……本当はダメなのだぞ? やり場に困った魔術具などが、山ほど放り込まれた危険な部屋だからな。しかし、僕は立派な一人前の王子だ! 何の問題もない! 意気揚々と物置部屋を進んだものだ。そして奥へ奥へと行く内に、気がつけばこのような妙ちきりんな場所に出ていた!」
「お引き取りください」
意味不明だし、ただの馬鹿じゃん!
・・・
自称王子は、一階の和室の押入れから出てきたと私に言った。
「ないだろ」
「本当だ! この薄っぺらい扉を開けたらこの部屋だったのだ!」
「じゃあそこへ入れば帰れるね。さよなら」
王子を押入れに押し込む。
『うわっ……突き飛ばすことないだろう! 待て、閉めるな、狭い! 暗い! 怖い! ……ヒーン、シクシク……怖いよ、助けてフランソワ……』
「おかしいな……いつまでも声がする」
「帰って。超困るんですけど」
結論から言うと、自称王子は消えなかった。
「物置部屋からあの扉に辿り着いたのは、確かなのだ。だから、あの扉から帰れないはずがない。しかし帰れなかったということは……ということは……どういうことだ? 帰るにはどうしたら良いのだ?」
「それこっちが聞いてるやつ」
どうしよ? 消えてもらいたい。
「王子様、ちょっと立ってこっち来なさい」
「なんだ? 帰り道を知っているのか?」
「普通はウチに来た人間はここから帰るのよ」
王子は履いてたブーツを手に持ったまま、ぺたぺたついてくる。
私は玄関のドアを開けてやった。
出る。
閉める。
さよなら!
『……おーい! 娘!! この扉も物置部屋には通じていなかったぞ!! 開けてくれ! しかも何か暑い! かまどの中のようだ!』
私は脱衣所で制服を脱ぎ、温めのシャワーを浴びて汗を流した。
はースッキリスッキリ。
リビングで水○黄門見よう。
・・・
結論から言うと自称王子は消えなかった。
――ドンドンドンドン!
『娘!! 開けてくれ!! 頼む、死んでしまいそうだ!! ものすごく暑いのだ! 頼む! お願い! お願いします!』
「うるさいよぉ……」
ドアを叩きまくっている音がする。
近隣住民はもっとうるさいだろう。誰か通報しないかな?
ドンドンドンドン! ドンドンドンドン!
ドカッ! ゴッ。ズルズル…………シーン。
死んだっぽい。
「このように甘く冷たいものは初めて食べる! 美味だ! なんと言う食べ物だ!?」
「バニラバー」
「バニラバー! 素晴らしい! こんなに美味しいものがあるのなら、しばらく城に帰れなくとも我慢できる!」
「返せ。吐き出せ。味覚の記憶を抹消しろ」
もーやだよー。帰ってよー。
水戸○門始まっちゃったじゃん。
「わはは! この者たち、変な格好だな!」
「うちらのご先祖ディスってんじゃないよ」
「ところで娘、バニラバーはもうないのか!?」
「あるけどあげない。図々しい自称王子だな」
「自称ではない! 僕は正真正銘、バナーナ王国のチャーミング王子だ!」
「めんどくさいよぉ……」
善良な女子高生である私は、先ほどうっかり玄関を見に行ってしまった。
金髪のコスプレ王子がドアの前にうつ伏せで倒れていた。
閉めようとしたらドアを掴まれた。
変質者の手指の数センチなんてどうでもいいんだし、頑張ってそのまま閉めればよかった。
自称王子は根性で家に這い上がってきた。
何もかも面倒臭くなった私は、リビングのソファに座ってアイスを食べることにした。
暑いし、もうどうでもいい。ご老公を眺めて涼も。
物欲しそうな目で見てくる王子に、仕方なくバニラバーを与えたら懐かれた。
「妙ちきりんな土地へ迷い込んで帰ろうにも帰れず、どうしよ困ったなぁと思ったが、それでもお前のような親切な町民の元でよかった! バニラバー最高! 迎えが来るまでお世話になります!」
「今すぐ帰れ」
絶望!
そうこうしているうちに○戸黄門は終わり、規定の時間になってしまった。
テレビを消して玄関へ向かう。
「どうした娘、どこかへ行くのか?」
「私が帰ってくるまでに消えててね」
「無茶を言うな。帰れないことはわかっているだろう!」
「待ってて、マイラブ・ケンタロちゃん。今すぐ行くからね……」
「誰に向かって話しているのだ? ケンタロちゃんというのは誰だ?」
無視。
さー、行こ行こ。