表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

リサと自称王子

 面倒臭いのはムリなので手短に話す。

 学校終わって家に帰ったら、自称王子な金髪の何かがいた。

 ちゃんと鍵かけてあったのに、どこから入った。


「誰あんた」

「だから、バナーナ王国のチャーミング王子だと言っている!」

「ケーサツ……」


 不審者出た捕まえてください。

 でも通報するとして、事情聴取とか死ぬほどダルいな……私何もしてないのに、ふざけんなこのコスプレ野郎。外国人ぽいから違和感ないわ馬鹿野郎。降って湧いた災難に絶望しながら、私はポケットに手を入れスマホを取り出す。


「ま、待て娘!」


 野郎が慌てた。


「ぶぶ武器を置け、それは必要ない! 僕は不審者ではないぞ! 身元はこの上なく確かだ、何しろバナーナ国王の実の息子なのだからな! ただ、ここがどこだかさっぱりわからぬ……」


 あたふた言い訳する不審者。

 こっちもあらゆる点がさっぱりわからぬ……。


「ここだけの話、実は僕は今日、こっそり城の物置部屋を探検していたのだ。……本当はダメなのだぞ? やり場に困った魔術具などが、山ほど放り込まれた危険な部屋だからな。しかし、僕は立派な一人前の王子だ! 何の問題もない! 意気揚々と物置部屋を進んだものだ。そして奥へ奥へと行く内に、気がつけばこのような妙ちきりんな場所に出ていた!」

「お引き取りください」


 意味不明だし、ただの馬鹿じゃん!




 ・・・



 自称王子は、一階の和室の押入れから出てきたと私に言った。


「ないだろ」

「本当だ! この薄っぺらい扉を開けたらこの部屋だったのだ!」

「じゃあそこへ入れば帰れるね。さよなら」


 王子を押入れに押し込む。


『うわっ……突き飛ばすことないだろう! 待て、閉めるな、狭い! 暗い! 怖い! ……ヒーン、シクシク……怖いよ、助けてフランソワ……』

「おかしいな……いつまでも声がする」







「帰って。超困るんですけど」


 結論から言うと、自称王子は消えなかった。


「物置部屋からあの扉に辿り着いたのは、確かなのだ。だから、あの扉から帰れないはずがない。しかし帰れなかったということは……ということは……どういうことだ? 帰るにはどうしたら良いのだ?」

「それこっちが聞いてるやつ」


どうしよ? 消えてもらいたい。


「王子様、ちょっと立ってこっち来なさい」

「なんだ? 帰り道を知っているのか?」

「普通はウチに来た人間はここから帰るのよ」


 王子は履いてたブーツを手に持ったまま、ぺたぺたついてくる。

 私は玄関のドアを開けてやった。

 出る。

 閉める。

 さよなら!


『……おーい! 娘!! この扉も物置部屋には通じていなかったぞ!! 開けてくれ! しかも何か暑い! かまどの中のようだ!』


 私は脱衣所で制服を脱ぎ、温めのシャワーを浴びて汗を流した。

 はースッキリスッキリ。

 リビングで水○黄門見よう。




  ・・・



 結論から言うと自称王子は消えなかった。


 ――ドンドンドンドン!


『娘!! 開けてくれ!! 頼む、死んでしまいそうだ!! ものすごく暑いのだ! 頼む! お願い! お願いします!』

「うるさいよぉ……」


 ドアを叩きまくっている音がする。

 近隣住民はもっとうるさいだろう。誰か通報しないかな?


 ドンドンドンドン! ドンドンドンドン!

 ドカッ! ゴッ。ズルズル…………シーン。


 死んだっぽい。








「このように甘く冷たいものは初めて食べる! 美味だ! なんと言う食べ物だ!?」

「バニラバー」

「バニラバー! 素晴らしい! こんなに美味しいものがあるのなら、しばらく城に帰れなくとも我慢できる!」

「返せ。吐き出せ。味覚の記憶を抹消しろ」


 もーやだよー。帰ってよー。

 水戸○門始まっちゃったじゃん。


「わはは! この者たち、変な格好だな!」

「うちらのご先祖ディスってんじゃないよ」

「ところで娘、バニラバーはもうないのか!?」

「あるけどあげない。図々しい自称王子だな」

「自称ではない! 僕は正真正銘、バナーナ王国のチャーミング王子だ!」

「めんどくさいよぉ……」


 善良な女子高生である私は、先ほどうっかり玄関を見に行ってしまった。

 金髪のコスプレ王子がドアの前にうつ伏せで倒れていた。

 閉めようとしたらドアを掴まれた。

 変質者の手指の数センチなんてどうでもいいんだし、頑張ってそのまま閉めればよかった。


 自称王子は根性で家に這い上がってきた。

 何もかも面倒臭くなった私は、リビングのソファに座ってアイスを食べることにした。

 暑いし、もうどうでもいい。ご老公を眺めて涼も。

 物欲しそうな目で見てくる王子に、仕方なくバニラバーを与えたら懐かれた。


「妙ちきりんな土地へ迷い込んで帰ろうにも帰れず、どうしよ困ったなぁと思ったが、それでもお前のような親切な町民の元でよかった! バニラバー最高! 迎えが来るまでお世話になります!」

「今すぐ帰れ」


 絶望!




 そうこうしているうちに○戸黄門は終わり、規定の時間になってしまった。

 テレビを消して玄関へ向かう。


「どうした娘、どこかへ行くのか?」

「私が帰ってくるまでに消えててね」

「無茶を言うな。帰れないことはわかっているだろう!」

「待ってて、マイラブ・ケンタロちゃん。今すぐ行くからね……」

「誰に向かって話しているのだ? ケンタロちゃんというのは誰だ?」


 無視。

 さー、行こ行こ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ