オズウェルと未来と手紙と
オズウェルは茶色い小箱の蓋を開いた。
中には色褪せた一通の手紙、そして白黒写真。
写真には一人の男。きついつり目はこちらをにらみ、髪は白髪混じり。
分厚い眼鏡の彼は、とても20歳とは思えない。
10年前の自分の姿にため息をつくと、オズウェルは手紙を開く。
神経質そうな、美しい字である。
『俺はオズウェル、20歳の数学者だ。好きなものは数学。
こんな未来の自分に対しての手紙も、正直馬鹿らしいと思う。書くことは特にない。
最後に一つだけ。嫌いなものは、人間だ。』
オズウェルは手紙を丁寧に箱にしまうと、涼しそうな青の便箋を手に取った。
お気に入りの鉛筆を便箋に走らせては、消しゴムをかける。
字はどこか、温かみを感じるものだった。
『私の名前はオズウェル、二児の父である。妻と料理屋を営んでいて、毎日が楽しい。今回は書くことがあるな。
まず、結婚した。三年前だ。そして子どもが二人。妻は日本人である。10年前の私が嫌っていた、人間と結婚したのだよ。
出会いを話してやろう。簡潔に言う。私は彼女に一目惚れした。
ありえないか?馬鹿らしいか?でも私は一目惚れの存在を、証明してしまったよ。
10年前とはもう別人だ。私は彼女を経て、変わった。自負するよ。
別に、数学が嫌いになったわけじゃない。しかし私は、この生き方を選んだんだ。
10年後のあなたへ。あなたは今、満足していますか?まだ料理屋をやっていたら、嬉しいです。
そして私の愛するものは、人間です。
今は亡きクリスタ先生に、感謝を。』
オズウェルは何度も読み返しては、頷いた。
昨日撮った写真を机から出し、手紙と一緒に箱にしまう。
そして箱を元の場所に戻すと―
「パパァ!ゴハン!!」
階下から、娘の舞奈の声だ。
微かに漂う焼き魚の匂いに、オズウェルの腹の虫が鳴く。
「今行く!」
オズウェルは改めて、幸せを感じていた。
お粗末過ぎて笑えますね。
問題の10年間の話を書ければよかった。