6:お仕事
シエルのお仕事を聞いて驚きました。
何と、魔法使いだそうです。
「獣人国には魔法使いなるものがあるのですね」
「そうだよ」
やっぱり、とてもメルヘンな国です。
「今日はお客さんのところへ行くけれど、ネージュも来る?」
シエルのお仕事、興味あります。
「ぜひ、ご一緒させて下さい」
そう言うと、シエルは頭をナデナデしてきました。頭ナデナデにはやはり抵抗があります。
でも、シエルとの生活には抵抗がなくなってきました。
シエルと手を繋いで、道を歩きます。ここは城下町だそうです。
レンガの道の両側にはたくさんのお店があり、大変賑わっています。ペットを連れている人もちらほら見かけます。
しかし、ゴブリンや、おそらくドワーフのような生き物ばかりでした。人間は勿論いませんし、犬や猫など前世でよく見かけた動物もいません。
しばらく歩くとお城が見えてきました。
「わぁ、大きなお城ですね」
「そうだね、今日のお客はあの中にいるんだ。めったなことでは外に出られない人だから、僕が出向いた」
シエルに連れられて、お城に入りました。石造りの壁や廊下は重厚な雰囲気がします。やはり、ファンタジーの世界ですね。
すれ違う人が畏まってシエルに向かって頭を下げています。シエルは、もしかして偉い人なのでしょうか。
メイドさんの格好をした女の人が案内してくれた先は、豪華な客室でした。
大きな虎の獣人のおじさんと、紅い髪の青年が座っています。あれ、紅い人、耳がありません……。
「シエル、あの人、耳が無いよ?」
こっそりシエルに伝えると、シエルはあれは人間だよと教えてくれました。
私以外の人間、初めて見ました!
「よく来てくれたな、シエル。本当に、迎えをやらなくてよかったのか?」
「はい、お招き頂きありがとうございます、陛下」
虎のおじさんはなんと、この国の国王陛下だそうです。すごい、生で王様を見てしまった。
王様は私に気が付くと、優しそうに茶色の目を細めました。
「可愛らしい人間だな。シエルに飼われているのか?」
「はい……、道で行き倒れているところをシエルに拾われました」
「そうかそうか、シエル、良い拾い物をしたな。綺麗な色だ、毛並みもとても良い」
王様のキリリとしたお顔が、心なしか緩んでいます。
「はい、ネージュはとても可愛いんですよ」
なんと、シエルが王様に向かって私の自慢を始めてしまいました。
……他所で自慢されるのは恥ずかしいので止めて下さい……。
「お前達、儂らは大事な仕事の話があるから、隣の部屋で遊んでなさい」
紅い髪の青年が立ち上がり、私に目配せしました。
「行こうぜ」
シエルが、安心させる様に行ってきなさいと言うので、私は青年に連れられて隣の部屋に移動しました。
ドキドキしますね。
私以外の人間と会話できるのは、とても楽しみなのです。




