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54:打診

 なんだか、シエルの元気がありません。

 昨日、お城からのお使いが来てから様子がおかしいのです。


「嫌だな……魔法使いとして、隣国との戦争に行って欲しいと言われたよ」

「お仕事ですか?」

「そう。僕はね、前に起きた戦争で、沢山の獣人を殺して英雄と呼ばれていたんだ」


 その言葉を聞いた私は、城でのシエルの扱いや、獣医さんが彼のことを知っていた事実にようやく納得がいきました。彼は、この国では有名人だったのです。


「でもね。実は、もう誰かを殺すことはこりごりなんだ。情けないでしょう? 英雄が聞いて呆れるよね?」


 そう言って、シエルは自嘲するような笑みを浮かべます。それは、見ていて痛々しくなるような表情でした。

 きっと、前の戦争で酷い目に遭ったのでしょう。

 けれど、周囲は英雄である彼の弱さを認めない。彼もそれを分かっていて、今まで皆の期待通りに動いていたのだと思います。


「そんなことはありませんよ。それが普通の感覚です」

「戦争が終わった後、あのオッサン——陛下もそう言っていたな。けど、実際そんなことは許されないよね」


 シエルは、苦しそうな溜息をつきます。

 そんな彼を見た私は、思わず声を荒げてしまいました。親心ならぬ、ペット心です。


「許す許されないは関係ない! あなたは、いちいち他人の許可を得て生きているのですか!? シエル、嫌なら無理をしないでください! やめたければ、やめればいいのですよ。シエルを縛るものなどなにもありません……それは、自分の心や命を犠牲にしてまでやり遂げなければならないものなのですか? 苦しみしかない場所に身を投じねばならないほど大事なものなのですか? 死んでしまっては、元も子もありませんよ? シエルは優秀な魔法使いですから、きっと転職先は見つかります。時には、逃げても良いのですよ?」


 前世で自分が味わったからこそ言えることです。

 私は、変なプライドから仕事を辞めるという選択肢を避けて同じ職場に居続け、体調を崩して心を病んで……自分を守る方法を調べもせずに、一生懸命同じ場所にしがみついた結果があの最後でした。

 シエルには、私と同じになって欲しくありません。

 無責任な言い分なのは百も承知です。でも、今の私はペット。無責任な生き物なのだからいいのです。


「ネージュ……」


 シエルは、なんだか今にも泣き出しそうでした。

 彼は、私を膝に乗せて優しく頭を撫でます。


「ありがとう、ネージュ」


 私の一方的な意見で、シエルの選択が決まることはないと分かっています。

 けれど、辛そうにしているシエルを見て、そう言わずにはいられませんでした。

 私はシエルに向き直ると、同じように彼の頭を撫でました。

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