52:ミラネ
現在、私は僅かばかりのプライドと格闘していた。
私の前には、うさぎ耳の獣人と猫耳の獣人の若い女性が、菓子を手に取ってキャッキャと楽しそうに笑っている。
そして、彼女達はあろう事か、その菓子を私の前に差し出したのだ。
「うふふ、可愛い人間ちゃんね。はい、あーん」
私は困惑していた。
何が悲しくて、娘ほどの年の獣人の少女達に「あーん」をされねばならないのか。
※
話は、半月ほど前に溯る。
私達一家は元々、国王陛下の飼い人間だったが、彼の死後に城から出されてしまったのだ。
次の王となった元王弟殿下は、質素倹約を信条とする真面目な男だった。
亡くなった国王陛下が飼っていた人間達は、一人を残して城から出されることとなったのだ。
ショコラだけは、王弟の娘に気に入られたため、城に残った。
しかし、ソルとロシェの夫婦は、城から出されて国営の医療施設のセラピー人間として病院で暮らすことを余儀なくされた。
私達の家族も、国営の巨大な娯楽施設、「ワンダフルーランド」へと追いやられてしまったのだ。
その娯楽施設の中にあるペットカフェなる場所で、私達家族は暮らしている。
ペットカフェには、私達の他にも既に人間が三人いた。
息子のミエルほどの年の少女が二人、少年が一人だ。
しかし、いずれも純正の人間のようで、このような扱いにも抵抗を感じていないようだった。
私達の仕事は、この場所を訪れる人間を構ってやることである。
それなりの入場料を払わないと入れない場所なので、タチの悪い客はいない。設備も高価なものだ。
食事は三食出されるし、風呂にも入れる。基本的に、自由に過ごしていて構わない。
本当のところ……仕事だって、真面目にしなくても咎められないのだ。
娯楽施設に遊びくる獣人の相手をしなくても、「仕方ない、ペットの機嫌が悪かったんだろう」ということで、お咎めなしなのである。
城と同じで、ぬるま湯のような暮らしだった。
「前世とは大違いだ……」
「あらぁ? この人間ちゃん、おやつが欲しくないのかしら。お腹がいっぱいなのね」
「じゃあ、おやつは後回しにして……撫でてもいいかしら?」
二人の女性は、相も変わらず、私の側に張り付いて離れようとしない。
なにも、こんなオッサンの相手をしなくとも……
そう思うが、獣人達の感性は人間とは掛け離れているらしい。
獣人以外の「ペット」の年齢は、気にならないようなのだ。
「はいはーい、人間ちゃん、いい子ですね〜」
「ナデナデしますよ〜?」
私は、過去に思いを馳せ、現実逃避を試みた。




