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52:ミラネ

 現在、私は僅かばかりのプライドと格闘していた。

 私の前には、うさぎ耳の獣人と猫耳の獣人の若い女性が、菓子を手に取ってキャッキャと楽しそうに笑っている。

 そして、彼女達はあろう事か、その菓子を私の前に差し出したのだ。


「うふふ、可愛い人間ちゃんね。はい、あーん」


 私は困惑していた。

 何が悲しくて、娘ほどの年の獣人の少女達に「あーん」をされねばならないのか。



 話は、半月ほど前に溯る。

 私達一家は元々、国王陛下の飼い人間だったが、彼の死後に城から出されてしまったのだ。

 次の王となった元王弟殿下は、質素倹約を信条とする真面目な男だった。

 亡くなった国王陛下が飼っていた人間達は、一人を残して城から出されることとなったのだ。


 ショコラだけは、王弟の娘に気に入られたため、城に残った。

 しかし、ソルとロシェの夫婦は、城から出されて国営の医療施設のセラピー人間として病院で暮らすことを余儀なくされた。

 私達の家族も、国営の巨大な娯楽施設、「ワンダフルーランド」へと追いやられてしまったのだ。

 その娯楽施設の中にあるペットカフェなる場所で、私達家族は暮らしている。


 ペットカフェには、私達の他にも既に人間が三人いた。

 息子のミエルほどの年の少女が二人、少年が一人だ。

 しかし、いずれも純正の人間のようで、このような扱いにも抵抗を感じていないようだった。


 私達の仕事は、この場所を訪れる人間を構ってやることである。

 それなりの入場料を払わないと入れない場所なので、タチの悪い客はいない。設備も高価なものだ。

 食事は三食出されるし、風呂にも入れる。基本的に、自由に過ごしていて構わない。


 本当のところ……仕事だって、真面目にしなくても咎められないのだ。

 娯楽施設に遊びくる獣人の相手をしなくても、「仕方ない、ペットの機嫌が悪かったんだろう」ということで、お咎めなしなのである。

 城と同じで、ぬるま湯のような暮らしだった。


「前世とは大違いだ……」


「あらぁ? この人間ちゃん、おやつが欲しくないのかしら。お腹がいっぱいなのね」

「じゃあ、おやつは後回しにして……撫でてもいいかしら?」


 二人の女性は、相も変わらず、私の側に張り付いて離れようとしない。

 なにも、こんなオッサンの相手をしなくとも……


 そう思うが、獣人達の感性は人間とは掛け離れているらしい。

 獣人以外の「ペット」の年齢は、気にならないようなのだ。


「はいはーい、人間ちゃん、いい子ですね〜」

「ナデナデしますよ〜?」


 私は、過去に思いを馳せ、現実逃避を試みた。

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