51:フラジエ2
毎日が苦しい。
シングルで幼い子供を抱え、正社員の職に就くことは不可能に近い。
家も中々借りることが出来ず、やっとの思いで借りられたのは駅から遠い解体寸前のボロアパートだった。
当然、都心からも離れていて便利が悪い。
私はいくつかのバイトを掛け持ちして働いた。
朝と昼は近所のスーパーの総菜売り場。夜は隣の駅にあるスナックで働く。田舎の時給は安い。
子供は五歳だが、保育園に入れる余裕なんてなかった。
昼は家で留守番をさせる。食事は作り置きだ。
夜は早めに寝かしつけてから出勤する。
私の体力は、限界に近づいていた。
毎日休む暇もなく働いても、生活は苦しいままだ。
自分と同じ年頃の女の子達が、家からほど近い四年制大学に通っているのが羨ましい。
本来なら、私もあの場所にいたのかもしれないのに。
自分一人なら何とでもなるだろう……しかし、今は子供がいる。
ときどき、酷く子供を邪魔に思う時がある。疲れて帰ってきた時などにぐずられると尚更だ。
けれど結局、愛する我が子を見放すことは出来なかった。
施設になんて、預けたくない……
結果、私は過労が原因で倒れた。
私の子供は……息子は、どうなったのだろうか。
後悔の念がこみ上げる。
私はもう、あの場所に戻り息子に会うことは出来ないのだ。
どうか、どうか無事でいて欲しい。元気に育って欲しい……
それだけを願った。
※
こちらの世界で、私は再び三人の子供に恵まれた。
しかし、こちらでの人間の立ち位置は獣人のペット……
一番目と二番目の子供は、他所の家に貰われていった。
三番の子だけは……と陛下に訴え、なんとかミエルだけは手元に置くことが出来た。
この子は、この子だけは絶対に手放したくない!——
私は柱の影に隠れながら、強く祈った。
陛下が亡くなられた後も、家族全員が一緒に暮らせることを……
もう二度と、離ればなれになるようなことが起こらないように。




