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50:フラジエ

 私の飼い主、虎の獣人のアルト陛下がお亡くなりになった。

 以前から彼の容態は悪化する一途だったが、あっという間に逝ってしまわれた。


「悲しいわ……」


 陛下によって与えられた自分の部屋で、私は悲嘆にくれるとともに不安に身を引き裂かれそうになっていた。

 ——私達は、これからどうなるのかしら

 その心配ばかりが、心の中を占拠している。ただ、悲しんでばかりいられないのが辛い。


「陛下、私はどうすれば良いのでしょう……あなたを失って、私達家族は平穏な暮らしの保証がなくなってしまいました」


 思い悩みながらも、一旦部屋を出て長年親しんだ城の内部を歩いて回る。

 じっとしていると、どんどん気持ちが沈んでいってしまう気がした。

 廊下に沿って少し歩くと、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 声に釣られてそちらへ歩いていくと、あると陛下の弟君であるバリト王弟殿下……いや、新国王陛下が財政担当の大臣と話し込んでいる最中だった。

 バリト陛下は白い虎の獣人、彼と話しをしている大臣は象の獣人である。


「それでは、人間達の処遇はどうします」

「今は、隣国との問題もあり人間達に構ってばかりはいられない。国民に負担を強いる可能性がある以上、我々が人間を沢山飼い続けるなどという贅沢な真似を続けるわけにはいかない」

「では、今いる人間達はどうするおつもりですか」

「……それぞれに新しい飼い主を見つけ、引き取ってもらう予定だ。ああ、娘が一匹欲しいと言っていたので、その人間だけは娘が貰い受ける」

「かしこまりました。そのように、手配しましょう」


 ——なんてこと!

 私は柱の影に隠れ、彼等の話を聞いてしまった。

 バリト陛下は、私達を他人に引き渡すおつもりのようだ。

 私達は三人家族。一家離散なんて、考えられない! 考えたくない!


「もう、私はあんなことは懲り懲りなのよ……」


 冷たい床に蹲りながら、遠い昔……前世を思い出す。



 前世の私は、専業主婦。

 若くして結婚し、土木系の仕事をしている夫との間には一人の息子がいた。妊娠が発覚した上での学生結婚だった。

 けれど……

 私達は、若すぎた。本来なら、学業に専念している年齢だ。

 青春を謳歌出来る年頃なのだ。


 同い年の友人達は、自由に楽しそうに遊んでいる。

 夫はそれらを傍目に見ながらの、仕事付けの日々に耐えられなかった。

 ……結果、私たちは離婚した。


 若さゆえの勢いで、駆け落ち同然で家を飛び出したものだから……今更親元には戻ることは出来ない。

 私の、過酷なシングルマザー生活が始まった。

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