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46:怪奇現象?

 私は、台車の隙間からこっそりと様子を伺っています。

 ブランさんとノワールさんが、驚いていました。

 看護士の女性は今にも倒れ込んでしまいそうなくらい動揺してシエルを見つめています。

「な、何故……シエル様」

 今の窓ガラスの件は、もしかしてシエルの仕業なのでしょうか。

「どうして、魔法使いだからネージュと関わるなって君なんかに指図されなきゃならないのかなぁ」

 うう、怖い。

 私は台車の中で身を縮めました。今のシエルの声や表情は、彼が私にオシオキする時のソレに近いです。

 いえ、それよりももっと、何と言うか怖くて悪意に満ち満ちている様な気がします。彼の金色の目は冷たく光っていました。

「で、ですから……偉大な貴方様の名誉の為にも、人間との必要以上の接触は」

 今度は部屋の灯りが全て消えました。地震でもないのに家具がガタガタと小刻みに震えています。怪奇現象!

 今はまだ昼間だから良かったですが、夜にこれをやられたら迷惑極まりないでしょう。

「これ以上、僕のネージュを侮辱してみろ。即座に城の魔法使いを辞職して、この国を出て行ってやる」

 シエルの言葉に、看護士の女性の顔面は青く変色しています。ブランさんとノワールさんまで焦った表情をしています。

「何なら敵国についてあげてもいいよ」

 彼の言葉に、シエル以外の獣人達が固まってしまいました。

 


「おいおい、そこまでにしてやってくれ」

 入口から声が掛かり、全員がそちらを振り返ります。

「シエル、あんまり女性を怯えさせてはいけないぞ」

 ああ、この声……王様ですね。彼の声がかかると同時に、怪奇現象は静まりました。ああ、怖かった。

 しかし王様、こんな場所にまで出向いて来て下さるなんて、体調は大丈夫なのでしょうか。つい昨日までベッドから起き上がれない状態だったのに……。

 突然の国王の登場に、看護師の女性や兵士のお二人は緊張しているのか、居心地が悪そうです。所在無さげに立っています。

「陛下……」

「お前が辞職する事については儂が口出しできる事ではないが……脅しの材料に使うのはどうかと思う」

「なら、ここのくだらないルールを撤回して下さい。今直ぐに!」

 シエル……王様相手なのに、強気な態度です。

「ルール?」

「人間をこの部屋に入れないなどと言うふざけたルールですよ。僕のネージュを雑菌扱いするなんて……今すぐこの場所を吹き飛ばしてやりたい」

 いや、雑菌とまでは言われていませんよ? 衛生面で問題があると言われただけで……。

「それは……」

 人間好きの陛下は複雑な表情を浮かべています。

「ネージュをこの病室に入れてはいけないというのでしたら、僕は即刻家に帰ります。仕事で何日も彼女に触れなかったというのに、戻って来てまでこの仕打ち!」

「うーん……」

 王様は困っています。当然です、こんな事で個人の我が儘を許していたらキリが無いでしょう。

 シエルの無事も確認できた事ですし、私は引き下がった方が良いのかもしれません。


 王様の返事がでないうちに、シエルは立ち上がろうとしました。

 看護士の女性が慌てて止めようとしますが、シエルはそんな彼女を無視しています。

「帰る」

「おい、待て。シエル」

 考え込んでいた王様が、顔を上げてシエルを見ました。

「ここに人間を入れる事は出来ない、それがこの場所のルールだからだ。だが、ネージュと共にいたいというのなら彼女の部屋を使えば良い。治療に必要なものはそちらに運ばせよう」

 ええっ。良いんですか、本当に良いんですか? こんな形でシエルの我が儘を通してしまって……。

 さっきから見ていましたが、我が儘言いたい放題していますよこの人?


「そう、ならネージュの部屋に移動しようかな」

 やはり立ち上がろうとするシエルを、今度はブランさんとノワールさんが止めました。

「シエル、立てないのに無理するな」

「そこの看護師、担架持って来い。俺達でコイツを運ぶ」

 看護師は尚も渋った表情を見せていましたが、三人には逆らえなかったのでしょう。大人しく担架を手配しています。

 彼女が担架を手配している隙に、ブランさんが台車を部屋の外へ押し出してくれました。私はモゾモゾと台車から這い出ます。

 そうしているうちに、病室に担架が運び込まれ、シエルを乗せて私の部屋へと移動します。

 ついでに王様も担架で運ばれていきました。やっぱり、体調が悪かったのに無理をされていた様です。

 シエル事件の連絡が彼に行った所為で、態々出向いて下さったのでしょう。

 病室を出た看護士の女性は、私に気が付くとこちらを睨んできました。私は無意識にシエルの側で身を縮めます。

「ん? どうしたの、ネージュ」

 先程までとは別人の様な、慈悲に溢れた声でシエルが私に話しかけました。

「こっちにおいで? 僕の上に乗って?」

「わっ」

 シエルが魔法を使ったのでしょうか。私の体が空中に浮かび上がり、担架の上へと運ばれます。先程と同じ様に、シエルの上に乗ってしまいました。

「ふふ……ネージュ、可愛い」

 シエルは満足そうです。

 私の後ろではブランさんとノワールさんが、何かもの言いたげな表情でシエルを眺めていました。

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