41:ショコラ2
僕は虎の獣人であるアルトに「ショコラ」という名前を貰った。
城の中では自由に動くことを許され、同じ人間であるミエル一家やセゾン、アナナと共に生活している。
僕は家族のいるミエルや、恋人のいるアナナが羨ましかった。
今の世界でも元の世界でも、自分は独りだったから。
純正の人間であるセゾンは、特に独りであることを気にしていないようだったけれど。
両親が居ないなら恋人が欲しい、その恋人と家族になれば良い。単純にそう思った。
でも、セゾンを恋人にするのは、なんだか違う……
彼女は、どこか人間らしくない。
十年経ったある日、新しい人間が来た。茶色の髪の、僕よりも少し年上の女だ。
彼女はアルトによって「ロシェ」と名付けられる。
恋人になってもらうには理想的な人間だったので、僕はロシェと仲良くなり、恋人になってくれと頼んだ。
けれど、ロシェの返事をもらう前にに「ソル」という男が来て……彼が僕からロシェを奪っていった。
ソルとロシェは、そのまま恋人同士になってしまい……それ以来、僕とソルはあまり仲が良くない。
ああ、どうして、こんなにも上手くいかないのだろう。
※
そんなある日、城で人間を見た。
狐の獣人に連れられた、僕と同じ年格好の女の子だ。
「アルト、あれは誰?」
「ああ、シエルの連れていた人間か」
「たぶんソレ」
「ネージュという雌の人間だ、シエルに飼われている……まだ発生して日が浅いみたいだな」
「ふぅん?」
シエル・ラテールという魔法使いは、僕でも知っている。
過去の戦争で活躍し、数年前まではこの国のトップにいた魔法使い。
今は辞職したけれど、たまに城に顔を出している。
冷酷な性格で、人間なんて飼いそうにない奴だったんだけど、人は見かけによらないものだね。
「そのネージュと話してみたいな」
「それはいいな。年も近いし見合いでもさせるか」
でも、見合い相手にミエルが選ばれたので、僕は荒れた。
絶対上手く行きっこないと思うよ、純正の人間って僕らと何かが違うもの。
獣人達はあんまり分かっていないみたいだけれど……
案の定、見合いは上手くいかなくて、途中でソルがフォローに回っていた。
やっぱりね。
ミエルは、初対面で相手に「つがいになって」と迫って振られたみたい。
いくらアルトにそう言われたからって、そんな風にぶっちゃけてしまうのは良くないと思う。
「アルト、僕も彼女に会いたい……」
「まあ、機会があればな」
「いつ会えるの?」
「そのうちな」
「そのうちっていつ?」
その日は意外と早く訪れた。
ネージュが城に保護されたのだ。初めて間近で見た彼女はとても可愛かった。
早く、彼女に近づきたい。
廊下で迷子になっているネージュを発見したので、案内がてら彼女の部屋へ入ってみた。
彼女はつがいを必要としていなかった。僕と同じ独りなのに。
だから、彼女の意思を尊重することにしたんだ。
アナナ達だって恋仲ではあるけれど、まだつがいではないからね。
いい感じに彼女の警戒心も溶けて、仲良くなれた。
ネージュは、こちらの世界の常識を殆ど知らない。真っ白だった。
それなのに、大人ぶろうとするところが可愛い。
彼女はまだ、前にいた人間達の世界に未練があるみたいだ。
何日かしたら、ネージュの飼い主が仕事から帰って来て、彼女は家に戻ることになった。
いつも取り澄ました表情をしていたシエル・ラテールの表情がなんだか緩んでいる。
ネージュを大事そうに抱いて彼女の部屋から出て来た彼を見て、何かが引っかかった。
シエル・ラテールは、ネージュを本当にペットとして可愛がっているのだろうか。
……気に入らない。
「ネージュ、また会おうね」
挨拶する僕に、ネージュは笑って手を振ってくれた。
彼女の中には飼い主に対する疑いは微塵もないらしい。
早く彼女と恋人同士になってしまったほうが良いかもしれない……
僕は少し焦っていた。
タダでさえ人間は少ないのだから、人間は獣人とではなくて人間同士で結ばれるべきだと思う。




