表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/57

39:アナナ3

 ガタゴト揺れる馬車(ただし引いているのは普通の馬ではなく、羽が生えている白馬)に乗り、またしてもどこかへ連行される私。

 もうどうにでもなれ。


「怖がらなくても大丈夫だ」

 向かいの席に座っている鹿男が私に話しかけてきた。もう一人の獣耳は、馬車の外で白馬を操縦している。

「別に。今更、何も怖がっていないけど?」

 私の生意気な言葉に気を悪くすることもなく、男は話を続けた。

「それは良かった。新しい家は環境も良いし、あんたもきっと気に入るさ」


 馬車は大きな門をくぐり、石造りの建物の手前で停車した。

「手を……」

 鹿男が、まるで西洋の騎士のように洗練された動作で私の手を取り、馬車から降ろしてくれた。

 そんな扱いをされたのは初めてだ。

「これから陛下に謁見するけれど、緊張しなくて大丈夫だからな」

「へい……か?」

 ヘイカって……「陛下」って意味……?

 よく分からないまま、鹿男に大人しく手を引かれる。何故かこの男の手を振り払う気にはならなかった。

 ここは城なのだろうか。大きな石造りの建物、重厚な家具や扉。

 その中でもひと際大きな扉の前で、鹿男が立ち止まった。


 陛下と呼ばれる男は虎耳で、穏やかな笑みを浮かべている大きな男だ。

 醜い私をみても、その表情は曇らない。

「よく来たな……ほう、なかなか変わり種の人間だ」

 この世界のルールでは、虎耳が鹿耳を食べたりはしないのだろうか。


 その後、私には、きれいな部屋があてがわれ、毎日きちんとした食事をとることができるようになった。

 他に人間を紹介されたが、私以外の人間達は皆美しい。

 緑色獣耳野郎の言葉は、正しかったのだ。


 鹿男は城の兵士だった。たまたま王のお使いで、私を迎えに来たらしい。

 運がよかった。

 あのままでは私に引き取り手はなく、安楽死にはならないものの、悪質な飼い主の手に渡っていたかもしれない。

「あんた、私はこれからどうなるの?」

 私は鹿男に向かって質問した。

「どうもならないけど? ここで暮らしていけば良いんだよ」


 生活に必要な者は全て与えられるけれど、勝手に城から出ることは許されない。

 まるで着飾った家畜のようだ。こんな生活、反吐が出る。


 私は度々脱走しては鹿男に連れ戻された。

 そうして……献身的な彼に絆され、そのうち恋仲になった。


 陛下の寿命は長くないらしい。

 私を引き取る事に躊躇していた鹿男だが、やっと決心してくれたみたいだった。

 彼が引き取ってくれなければ、私に引き取り手なんて現れやしないんだ。

 


「ずっと誰かに打ち明けたかったのかもしれないわ……でも良かった、この世界で私は幸せになれたから」


 アナナさんは近々城から出て行くそうです。

 鹿の獣人兵と一緒に住むことになったらしいのでした。

 お幸せに。

 お城も寂しくなりますね。王様の様態も心配です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ