3:保護
温かい……。
パチパチという音が聞こえます。心地いい温かさです。
「んん……」
寝返りを打とうとしたら、体が動きません。もう一度頑張ってみたけど、やっぱり動きません。
「んんん……」
私は、うっすらと目を開けました……。
「会社……行かなきゃ……朝……だし」
モゾモゾと起き上がろうとして、私は違和感に気付きました。目の前に暖炉があります。なんで?
「……ぇ?」
次に自分を見ました。体を可愛らしいキルティングの毛布でぐるぐる巻きにされています。身動きが取れない原因はこれですか!
毛布を引きはがそうとすると、毛布の外側に更に人の腕が巻き付いているのに気が付きました……。
そこで一気に私の目が覚めました。
「ふげーーーーーーーー!!!」
何処だここ、何だこの状況。そうだ、私変な獣人の国に来てしまって……。
保健所行きの荷馬車からから逃げ出して、疲れて眠ってしまって、うぉっ。
突如、視界がぐるりんと反転しました。
目の前に現れた金色の瞳が私をじーっと見つめています。
「起きたの?」
私は言葉が出ずに固まっています。本当に状況がよく分からないのです。
とりあえず、目の前の人を観察してみました。綺麗な金色の瞳に、今の私と同じ銀髪のイケメンお兄さん。頭の上には同じく銀色の耳が付いています。
「犬? オオカミ?」
「……キツネ」
失礼しました。彼は狐の獣人のようです。
狐のお兄さんは、私と毛布に巻き付けていた腕を緩めると緩慢な動作で起き上がりました。
「朝ご飯、食べれる?」
何だか分からないなりにも、うなずいておきました。昨日から何も食べておらず、お腹がすいていたのです。
お兄さんはてきぱきと料理を始めました。卵やお肉を焼く良い匂いが漂ってきます。
私もゆっくりと起き上がりました。
「出来たよ」
お兄さんがテーブルに座って手招きするので、私は暖炉の側から立ち上がり、そちらへ歩いていきました。
素朴な木のテーブルの上には、トーストしたパンとサラダ、ベーコンと目玉焼きを乗せたプレートが乗っています。とても美味しそうです。
「うわあ、これ全部頂いても良いのですか?」
「君の分だよ」
私はお礼を言うと、ペロリと目玉焼きを平らげトーストを頬張りました。うん、美味しい!
何だか、お兄さんが緩んだ表情でこちらを見ています。
「君、どこの子? 野良なの?」
気が付いたらこの世界にいたのでよく分からりませんが、私は飼われてはいないはずです。泥だらけで服も薄汚れていますし。
……ということは野良なのでしょうか?あのおばさんも野良だと言っていましたね。
「それとも、捨て人間?」
何ですか。その、捨て猫みたいな呼び方は。この世界には捨て人間なんて生き物もいるのでしょうか?
「……よく分かりません……」
「じゃあたぶん野良だ、珍しいね。普通は見つけ次第すぐに捕獲されるはずなんだけど……」
私はビクつきました。保健所に通報されてしまうのでしょうか。
「気が付いたら昨日、この世界にいたのです。前いた場所には獣人なんていなかったし……私……あの、保健所には引き渡さないでください、お願いします!」
保健所に引き渡されたくない一心で、思わず前世のことまで口に出してしまいました。信じてもらえるのかな。
「じゃあ、やっぱり野良だね。人間は自然発生するそうだから」
人間って、自然発生することになっているんですか?謎だらけです。
……ということは、私の他にもこの世界へ飛ばされた人間がいるということですか?
「あの……」
「大丈夫、君が嫌なら保健所には引き渡さないから」
お兄さんはプレートの上の朝ご飯を完食した私に言いました。
ごちそうさまです。
「でも、行く当てないんでしょう? 昨日は路地裏で凍えていたよね」
やっぱり、このお兄さんが連れてきて暖めてくれたんですね。命の恩人です。
「あの……あなたが助けて下さったのですね……ありがとうございます」
「どういたしまして」
お兄さんはニッコリ笑うと、おもむろに私の手を取って言いました。
「君さ……、うちの子にならない?」