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38:アナナ2

「ここは地獄なんだろうか」

 まるで檻のような部屋に入れられた私は一人呟いた。少なくともここは私に取っては天国ではない。

 ここまで来る道のりの中で私が見た景色は、全く知らないものだった。

 ここは日本ではないどこかだ。もしかすると地球ですらないのかもしれない。

 人々が皆変な獣耳を付けている変な場所。


 檻に備え付けられている鏡に映った自分を見て、なんだか違和感を感じる。

「少しだけ若返っている?」

 鏡には冴えない顔の女が映っているが、肌が十歳程若返っているようだ。

 シミやそばかすが消え、豊麗線も少しだけ薄くなっている。


 それからしばらく、私は檻の中で暮らした。

 食べ物にも飲み物にも困らない生活は、ここに来る前の事を思えば恵まれている。

 檻の中とはいえ、清潔で冷房も完備されているようだ。冷暖房機器は見当たらないのだが、快適な温度だった。

 一日一回、風呂にも入れるし、洗面所もトイレもベッドある。


 たまに、緑色の作業服を着ていない獣耳がやってきては、檻の中の私をジーっと観察して行く。

 一体なんなのだろうか。

 話しかける訳でもなく、世話する訳でもなく、ただじっと私を見て帰って行くのだ。気味が悪い。

 私を観察する人間は毎回違った。親子連れだったり、若いカップルだったり、壮年の男性だったり……様々だ。


「それで、引き取り手は見つかったのか?」

「いや、まだだ。やはり見た目がな……城へも連絡を入れてみるか」

「ブリーダーに引き渡すか……」

「いや、ブリーダーも見目の良い人間を欲しがる。優良な業者に引き渡すのは難しいだろうな」


 作業員がよく分からない会話をしている。

 私はどうなってしまうのだろうか、このまま一生檻の中なのだろうか。

 これは、前世でろくな生活をして来なかった私への罰なのだろうか。



「外へ出ろ」

 ある日、緑色獣耳野郎が、風呂以外の目的で半月ぶりくらいに私を檻の外へ出した。

 獣耳は首に巻かれた鉄の輪から伸びた鎖を乱暴に引いて歩いて行く。

 どこへ連れて行かれるのだろうか。

 少しの恐怖があったが、諦めの感情の方が多かった。

 ここは私の住んでいた世界ではない。この異世界では、私は自分の意思では何も出来ないのだ。


 小さな六畳くらいのスペースに連れて来られた私は、辺りを警戒した。

 中央にテーブルが一つ、簡素な椅子が四つ。

 緑色の服の獣耳が二人と、高級そうな制服に身を包んだ兵士風の獣耳二人が座っている。

 私は、そいつらの前に引き出された。

「これが、例の人間です。未だに引き取り手が見つからなくて」

「珍しいな」

「何ぶん、見目が悪いですからね……性格も生意気だし」

 まったく、失礼な獣耳野郎だ。

 そんなこと態々言われなくても、とっくの昔に自覚している。

「このまま処分というのもな……」


 兵士風の綺麗な服を来た獣耳のうちの一人が私に近づいてきた。

「なんで? そんなに言うほど、悪くは見えないけどな」

 鹿のような耳、頭の上には角も生えている。あれで突き刺されたらひとたまりも無いだろうな。

「なかなか愛嬌のある顔だよ」

 そう言うと、その獣耳の男は多少肉付きが良くなった私の腕を掴んだ。

「なにすんの! 離して!」

「この人間、城で貰い受けるよ」

 キーキー喚く私を無視して、男は書類のようなものにサインした。

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