36:なれそめ
「ねえ、だったらさあ……」
不意にショコラが言いました。
「何ですか?」
「……僕と付き合ってみない?」
「へ?」
確か、ショコラは番になる気はないと以前言っていたはずです。
「ショコラ……でも……」
「急に番になるなんて、勿論言わないよ。付き合ってもいないのに番になるなんて、前の世界に比べたらおかしいもんね」
「あの……」
私が混乱しているのが分かったのでしょう、ショコラが引いてくれました。
「ま、すぐに返事ちょーだいとは言わないから、考えといてよ……」
そう言うと、ショコラは立ち上がり、部屋を出て行ってしまいました。
後には、呆然としている私だけが残っています……。
「告白されたのなんて、何年ぶりでしょうか」
柄にも無く、焦ってしまいました。初めてでもないのに、情けない事です。
ショコラは、番には興味が無いようでしたので、完全に油断していました。
不意打ちの破壊力ってすごいですね。しばらくソファーの上から動けませんでしたよ。
※
翌日、図書館に向かう途中で、珍しい人に声をかけられました。
「あ、アンタ。ちょっと今話せる?」
前の方からアナナさんが歩いてきました。
一瞬、昨日の修羅場が頭をよぎりましたが、私には馬乗りになる事は無いでしょう。大丈夫。
そのまま、アナナさんの部屋へお呼ばれしました。
アナナさんのお部屋は、何と言うか……汚部屋でした。
特にこだわりのなさそうな簡素な家具がちぐはぐに乱立しており、床一面に衣類が散乱しています。
机の上にはアクセサリやお菓子が所狭しと並べられており、ベッドの上は物置と化しています。
かろうじてソファーの上が空いています。
メイドさんは、あまりの汚さにこの部屋の掃除を放棄してしまったのでしょうか……。
「座って座ってー」
昨日とは打って変わり、今日はご機嫌なアナナさん。
勧められるまま、私はソファーに座りました。
「ねえねえ」
「何でしょうか?」
「聞いたわよ、アンタ獣人に恋をしているんだって?」
「……はぇ?」
何だか変な噂が一人歩きしているようですね。昨日もショコラに聞かれましたし……。
犯人の目星はついておりますよ。ロシェ、今度あったら覚悟して下さいね。
「シエルとは飼い主とペットの関係でしかありませんよ?」
「またまたぁー」
ここにもいました、人の話を聞かない人が。
「隠さなくても良いのよ? 私も同類だから! 私、獣人と付き合っているの」
「はぁ……」
知っています。修羅場もばっちり見てしまいました。
「彼とね、近々一緒に暮らす事になったのよ……」
昨日の問題は解決したのですね。上手くいって何よりです。
「で、獣人の恋人と同居するにあたり、アドバイスとかない?」
「……あどばいす……」
困りましたね。私とシエルは恋人同士ではないので、何もアドバイスできることなんてありませんよ。
このままではいけないので、話題を変える事にしましょうか……。
「アナナさんと獣人の恋人は、どのようにして出会ったのですか?」
狙い通り、アナナさんは勢い良く恋人とのなれそめを教えてくれました。
「私、十年前にこの世界に来たのよ、外見年齢は三十代半ばってところかしら……ここの世界に来てすぐに保健所に捕まって城に引き取られた……そのとき私を迎えにきたのが彼だったのよ」




