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32:ギャップ

 怖い……、回れ右!

 私はその場から離れることにしました。

 どこかで時間を潰して、またこの場所へ戻れば二人はいなくなっていると信じて。


 しかし困りました、兵士達は訓練中や仕事中だし……ここから他に行ける場所と言えば、囚人がとらわれているという牢獄くらいですが、そんなところには用はありませんし、近寄りたくありません。

 悶々としながら石畳の上を歩いていると、兵舎の近くに白い木のベンチを発見しました。

 ちょうどいいです、しばらく座って休憩しましょう。そのうち、アナナさんも移動されるでしょう。


「あ、ネージュ! こんな所にいたんだ……」

 ベンチに座ってぼんやりしていたら、声をかけられました。

 さっきまで私のいた城のある方向から、ショコラが手を振りながらこちらに歩いてきます。

「ショコラ! 探してくれていたのですか?」

 何か用があって、彼が私を探していたなら、申し訳ないです。

「あ、違うよ? 用事とかじゃなくて、喋りに来ただけ」

 落ち込んだ私の様子を見て、ショコラが慌てて言い足しました。

「そうなのですか……。ところで今、ショコラは城の方向から来ましたよね」

「うん、それがどうかした?」

「……城の入り口付近で、アナナさんに会いませんでしたか?」

 ショコラは、若干言いにくそうに答えてくれました。

「あー、兵士の上に馬乗りになってた……、ネージュ、もしかしてアレ見たの?」

「……馬乗りになっているところは見ていませんが……何か言い合っているようでしたので」

 ということは、彼はあの横を堂々と通ってきたのでしょうか。見かけに寄らず、ショコラは案外たくましい性格なのかも知れません。


 ショコラは、以前の中庭のときと同様に、私の隣に腰掛けました。

 ……やっぱり今日も、距離が近いです。

「今、アナナは荒れているんだよ……だから、気にしなくて大丈夫」

「荒れているとは……?」

「あの兵士に、飼って欲しいって迫ってるみたい」

「え……?」

 どういうことか分からず、首を傾げるとショコラがクスリと笑います。

 思わず彼を見たら、空色の瞳が私をじっと見つめていました。


「可愛い……」

「へ? なっ……あ……」

 突然の彼の言葉に、私の顔が急速に熱くなっていきます。急に変なことを言うから……。

 そんな私の様子を見て、ショコラは面白そうに目を細めました。

 彼もミエルもソルも、この世界仕様でイケメンです。その気が無くても、ドキドキしてしまいます。

「ごめんごめん、そんなに驚かないで。さっきの話だけど、アナナとあの兵士は恋仲なんだ」

「はぁ……」

 びっくりしたではないですか。あまり年上を揶揄わないで頂きたいものです。

 アナナさんと鹿の獣人兵さんについては、実は知っています。私も一度、中庭で逢い引きの現場を見ておりますから。


「今、城の人間達は新しい飼い主を捜してる」

 私はハッとしてショコラを見ました。まさか、城の人間は王様の病状を知っているのでしょうか。

「新しい飼い主というのは?」

「アルトは今病気にかかっていて、もうあまり長くないんだ。僕は前から知っていたけれど、先日談話室でアナナが彼が吐血するところを見て大騒ぎしたことで、城の人間全員がアルトの病気と寿命のことを知ってしまった……」

「そう……ですか……」

 王様、病気のこと隠していたのに……。

 そして、アナナさんは穏やかそうに見えたのに意外と激情型の性格みたいですね。


「アルトは今、『自分が倒れる前に』って、人間達の新しい飼い主を探そうとしているんだ……で、アナナはさっきの兵士にその話を持ちかけたみたいなんだけど、兵士の方が怯んで及び腰になってる」

「……どうして? 恋仲なら、その兵士がアナナを引き取ればいいのに」

「人間は下っ端の一兵士が持つようなものじゃないからね……こっちでは超希少な高級品扱いだし。たぶん、人間を——それも王の飼っていた人間を引き取るっていうのにビビっているんじゃないかな」

「ビビるようなものでもないと思うんですけどね——」

「そうだね。あれはやりすぎだけど、アナナの気持ちも分かるよ」

 そう言って、ショコラはまた私に微笑みかけました。

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