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29:反抗期

 シエルの機嫌が悪いです。

 私は寝室の壁際という際どいシチュエーション(ただし色気はゼロ)で、シエルに詰め寄られています。

 元はと言えば、私が余計なことを言い出したせいなのですが。


「どうして、そんなことを言うんだい? セゾンのお見合いを見て、気が変わったの?」

「そうではないのです! お見合いではなく、普通に人間を引き取ると言う方向でですね……いえ、駄目だと分かっていますし、言ってみただけです」

 駄目だ、だんだんと言葉尻が萎んでいきます。


 王様の言葉を聞いて、彼の力になりたいと思ったのですが……上手くいかないものですね。

 悪化する一方だという王様の病状を伏せつつ、城の人間を引き取る相談をシエルにしたいのですが。

 うん、無理! シエルが不機嫌過ぎる!

 難易度が高すぎて私にはどうにも上手く伝えることが出来ませんでした。ごめんね王様、やっぱりシエルに直接言って下さい。

 だって、さっきからシエルが怖いんですよ!


「ネージュがそんなに、ふしだらな子だったなんて……」

「ふ、ふしだら?」

 どこがどうなったら、そんな答えに行き着くのですか!

 以前、二人は弟や友達のようなものだと説明したのに!

「僕だけじゃ不満なの?」

「違っ……」

 何だか夫に浮気を責められている妻になった気分ですよ。

 人助けをしたいだけなのに、あんまりです。


「やっぱり……一人で外になんて出すんじゃなかった」

「大げさな、私は子供じゃないんですよ? シエルと同じくらいには大人なのです!」

 もう、三十路に近いのですから。

 同伴者がいるのに、シエルと離れての外出が禁止されるなんて、納得いきませんね。

「なお悪いよ!」

 ……って……え?

 なお悪いとはどういうことでしょう? 私が大人であり且つ一人で外に出ることが都合が悪いと?

 何故?


「シエル……? それは、どういう」

 でも、頭に血が上っているらしいシエルは私の問いかけに気付いてくれません。

「ネージュの僕以外との外出は全部禁止するから。あと、心配だから外に出る時にはリードを付けるよ」

「なっ……リード?」

 ひどい! 私が繋がれるのが嫌だと知っているくせに!

 そもそも、彼が何故こんなにキレているのか分かりません。大人で冷静な私も、さすがに頭に血が上ってきましたよ。

「シエルの馬鹿! リードで人間を繋ぐなんて変態です! 最低!」


 私達は、出会って初めて喧嘩をしました。



「いーやーでーすー……ぐえっ!」

「抵抗しても無駄だよ。ホラ、行くよ」

 私は怒っているのです。素直にシエルの言うことなんぞ聞いてやりません。


 シエルの家の柱に無様にしがみつく私と、私の首輪から伸びるリードを手にしたシエル。

 先ほどから二人は攻防を繰り広げています。

「嫌です! こんな格好で街を歩くなんて! どんな羞恥プレイですか! ……ぐえっ!」

 私はリードをつけられた状態で柱にしがみつき、外出したくないと抵抗していました。

 いくら羞恥心が薄れてきたとはいえ、リードで引っ張り回されるのはごめんなのです。


 グイグイとリードを引っ張っても柱から離れない私に溜息をつくと、シエルは私を強制的に引き剥がしに掛かりました。

「わああっ! 脇! 脇は止めて下さい! 毛細血管が……ぐえっ! あっ!」

 突然つるりと手が滑り、あえなく私はシエルに柱から引き剥がされてしまいます。魔法を使われたようです。

 まったく、外見銀髪美少女にあるまじき声を出してしまいましたよ。

 


 最悪です。

 いつも通りの食材の買い出しが、羞恥と屈辱み塗れた悪夢の行軍になるなんて。

 リードを付けられた上で、手を繋いで歩くってどうなんですか。リードいらないじゃないですか。

 石畳の上を歩く足取りは重く、シエルとの間に流れる空気も重いです。

 シエルはリードを付けたことで落ち着いたみたいなので、私が一方的にキーキー喚いているだけなのですが。


「ネージュ、リードが気に入らないのは分かるけど落ち着いて」

「じゃあ、外して下さいよ。こんなことするなんて、見損ないました」

「駄目。ネージュが心配なんだよ」


 何だか変な方向に過保護が加速していますね。大人しくしていれば、そのうちリードを外してくれるでしょうか。

 自分でもリードを外してやろうとしたのですが、何故か首輪と同じく繋ぎ目が見つからないんですよね。

 ピンク色の首輪の横から長く伸びるリードは首輪と一体化しているように見えます。


「……こんなもの付けなくても、私は逃げたりしませんよ?」

「ネージュ……」

 シエルは、外を歩いている最中だというのに、ふわりと私を抱きしめました。

「ごめんね、ネージュがいなくなってしまうんじゃないかと思ったら、不安で……」

「私はシエルの側にいますよ。追い出されない限りは」


 この世界に来て、行き倒れていた私を拾って世話をしてくれたのはシエルですし、その後も家にいても良いと言ってくれました。

 右も左も分からなかった私が、その言葉にどれだけ救われたか。

 シエルは何を不安がっているのでしょうか。


「なら、安心させて? ネージュが僕のものなんだって」

 抱きしめた腕の力を強められます。

「シエル? 私はシエルのペットですよ? 他所の子になるつもりはありません」

 そう言いつつも、私はほんの少しの違和感を覚えました。

 これは、いつもの父親過保護モードの延長線上ですよね? シエルは家族として私を心配してくれているのですよね?


 私は急に不安になりました。

 今の心地よい関係を崩したくありません。

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