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2:保健所

「はぁ……はぁ……」

 何だったのでしょうか?野良人間て。

 路地に逃げ込んで息を整えていると、後ろから何かが降ってきました。

 バサリ……。

「何これ……糸……じゃない…………網?」

 えええ!?

 なんで?どうして私の上から網なんぞが降ってきたのでしょうか?

「捕まえたぞー!」

「んんっ!?」

 緑色の作業着のような、同じ制服を着ている獣人達がこちらへ走ってきます。彼らはまじまじと私を見つめて言いました。

「本当に人間だ……」

「どうしてこんなところに……逃げ出してきたのか?」

「首輪も鑑札も無い……とりあえず、保健所へ連れて行こう」

 首輪? 鑑札? 犬や猫じゃあるまいし。

 疑問に思っていると男の一人が網ごと私を抱え上げて、荷馬車に乗せました。抵抗しましたが、網が体に絡まって身動きが取れません。


「お嬢ちゃん、少し揺れるけど、辛抱な」

 一緒に乗り込んだ獣人のおじさん(たぶん牛?)が話しかけてきました。話しながら、私の体に絡まった網を外してくれています。

「保健所ってどういうことですか? 私はそこへ連れて行かれるのでしょうか?」

「飼い主のいないペットが収容されるところだ。心配いらないさ、人間は貴重だからすぐに引き取り手が見つかるよ」

「人間が、ペット?」

 この世界では、人間が犬や猫と同じってことなのでしょうか?

「お嬢ちゃん、前までどこにいたんだ?」

「え?」

 普通に家で暮らしていて、普通に会社で働いていたはずですが……。

「人間って言ったら、普通は愛玩動物だろう? 俺らに近いし、言葉も通じるし、従順で力も弱いし可愛らしいからなあ」

 よく分かりません。ペットが人間とは一体……。

 私は混乱しました。こんなことが許されるのでしょうか。

 でも、このままだとペットにされてしまいそうなことは分かりました。よし、逃げよう。

 丁度、体に絡まっていた網も外されたので、私は荷馬車から飛び降りると一目散に逃げ出しました。

「あ、おいっ! こら!」


 私は振り向きませんでした。よく分かりませんが、ペットなんてまっぴらごめんなのです。引き取り手が見つからなくてガス室行きなんてもっと嫌なのです。

 複雑な路地を抜けて、どこに向かって走っているのか分からないまま街を駆け抜けました。人気の無い道を選んで、ただひたすら疾走しています。

 気が付けば、だいぶ遠くへ来ていて、夜になっていました。走りすぎて、もうボロボロです。体が動きません。

 お腹すいた、足痛い……、帰りたい……。こんな訳の分からない場所に放り出されて、私は一体どうすれば良いのでしょうか。

「うっ……ううっ……」

 情けないことに、路地の片隅にうずくまって私は泣いてしまいました。不安で涙を抑えることが出来なかったのです。

 しばらくすると、泣きつかれた私は浅い眠りに落ちました。


 明け方、私は寒さで目を開けました。

「寒い……え、雪降ってる?」

 そらからハラハラと舞い降りてくるのは、まさかの雪です。通りで寒いはずです。

 私はボロ布一枚しか着ておらず、寒さで歯がガチガチ鳴っています。

「こんな場所で凍死なんて、シャレにならない」

 シャレにならない事態……なのですが、何だか眠たくなってきました。これ、ヤバいやつかもしれません。

 民家を訪ねようにも、人間だと保健所に引き渡されそうだし……。あ、ダメだ……寝る……。

 私は目を閉じました。

「あれ、君……大丈夫?」

 誰かの声が聞こえる気がするけれど、眠くてそれどころじゃないのです。ああ、寒さでもう全身の感覚もない……。

「……にん……げん……?」

 すみません、頭が朦朧としていて何を言っているのかよく分かりません……意識が遠ざかっていきます……。

 私はそのまま意識を手放しました。

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