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26:家庭訪問

「……あのオッサン……」

 リビングのソファに座ったシエルが不機嫌そうに眉根を寄せました。

 シエルの言うオッサンというのは彼しかいません! 王様からのお手紙ですね。

 私は暖炉の近くに沢山のクッションを置いてゴロゴロしています。ここが一番暖かいのです。

 シエルのお手製のカラフルなクッション達は、元の世界で言うモロッコ風の柄です。

「今度は何のお仕事ですか?」

 今回もお城への呼び出しでしょうか? 王様からの手紙は、お仕事の依頼ばかりなのです。

 シエルが手招きするので、暖炉の側から立ち上がり、彼のいるソファへ向かいます。シエルの手前で立ち止まると、案の定、抱きしめられました。

 最初の頃は、彼の行動にビックリしましたが、今ではもう慣れっこです。ペットになって、私の羞恥心は無くなっていく一方です。

「いい子だね……今回は仕事の依頼ではないよ」

 そう言っている割には憂鬱そうですね。心配です、何か厄介なことを頼まれたのでしょうか?

「城の人間がうちに遊びに来ると言っている……」

「……決定事項なんですか?」

 行ってもいい? ではなくて、行く! と断言するなんて、流石王様です。

 シエルは私を抱きしめたまま、頭を撫でてきます。シエル曰く、こうすれば「癒される」そうです。私にはよく分かりません。

「ところで、城の人間が全員来ると言うことなのですか?」

「流石にそれは無理だと思うよ? 一人って書いてある……セゾンって子」

「……ああ……」

 自由人の彼女ならやりかねない。ここに来たいと王様に訴えたのでしょうか……。

「まあ、雄じゃないだけいいかな……」

 シエルのお父さん発言ですね。

 私は、セゾンにまた会えると言うことで、少しワクワクしています。



「ネージュ! 来たよ!」

 予告の通り、セゾンがシエルと私の家に遊びにきました。彼女の後ろには護衛らしき獣人兵の皆様。

 王様の大事な人間の護衛と言うことで、セゾンは彼らに厳重に警護されていました。兵隊さん達にとってはいい迷惑ですね……セゾン本人は全く気にしていないようですが……。

「セゾン、お久しぶりです。元気にしていましたか?」

「元気」

 見た目年齢はセゾンの方が年上ですが、中身は私より年下なので、つい妹に接するような感じになってしまいます。

 取りあえず、家の中に入ってもらうことにしました。

 セゾンを警護していた獣人兵達は、彼女がこの家にいる間も家の周りを警護しているそうで、外に待機しています。

 シエルも家の中でセゾンを出迎えてくれました。私一人だと心配だなんて……今日も過保護ですね。

「この人、ネージュの飼い主?」

「そうです。シエルはとても素晴らしく、優しい飼い主です!」

 ついつい力が入ってしまいました。

 私もシエルの過保護ぶりを指摘できませんね……でもシエルは私にとって自慢の飼い主なのです。

 自慢の飼い主だなんて……この世界に馴染んできている証拠でしょうか……。最初はもっと抵抗があったはずなのに……。

 私の発言に、シエルが頬を緩ませています……。

 落ち着いた物腰とは反対に、尻尾がすごい勢いでパタパタと動いているところを見ると、喜んでくれているのでしょうか……。


「ネージュ、私、お見合いするっ!」

 テーブルへと案内した瞬間、セゾンが仰天発言をしました。王様が例の件を実行したようです。

 確かに、以前そんなことを言われていましたが、こんなに早く王様が動くなんて思ってもみませんでした。

 シエルが目を丸くしています。


「セゾンがですか?!」

 思わず聞き返してしまいました。興奮している彼女を宥めて椅子に座らせます。

「ネージュが失敗したから、次は私!」

 うん、正直ですね。私は失敗した訳ではないのですがね。

「ミエルやショコラとお見合いするのですか?」

「違うよ? ……んーと、セレアル侯爵? の所にいる人間。ミエルのお兄さん……アルトが純正同士の方が上手くいくからって言ってた」

「……そう、ですか……セゾンはそれで良いのですか?」

 彼女は恋愛とか、そういうものにあまり興味がなさそうに見えます。シエルが用意してくれたプリンを早速頬張っています。

「うん、良いの! アルトがそう言っているから!」

 ミエルと同じようなことを言いますね、飼い主の言うことが絶対だと思っているようです。

 でもそう言いつつも、セゾンは少し不安そうに見えます。伏せられた長いまつげの下で瞳が揺れています。

 純正の人間は野良よりもかなり飼い主に従順なのかもしれません。


「王様ってば、そこまでして子人間が欲しいなんて」

「アルト陛下は人間の保護に力を入れているからね。繁殖もその一環なんだろう」

 シエルが教えてくれました。

 保護と繁殖、良いことのはずなのに、いざ自分たちの身に降り掛かると微妙であります!

 そんなもん、放っておいてくれ……と言いたいですが、同族が全くいなくなるというのも寂しい気もします。難しい……。

「ネージュ、お願い……私のお見合い……付いてきて」

「へ?」

 見合いに付いてきて? って私がセゾンのお見合いに押し掛けるってことですか?

 シエルを見ると、複雑そうな顔をしています。ええ、私も同じような顔をしていることでしょう。

「怖いの……」

 そんな可愛らしい姿で瞳をウルウルされたら断れないじゃないですか!

「もし、王様の許可が出れば……同行します」

 思わず答えてしまいました。

 彼女はこれが言いたいがために、今日、私の家を訪ねてきてくれたようですし。

 私の答えを聞くと、彼女はホッとしてようで、幾分か落ち着きを取り戻したようです。出されたお茶を無心で飲んでいます。

「私、アルトに言ってみる!」

 元気に宣言するとセゾンは満足したようで、しばらく他愛のない話をした後、城へと帰っていきました。

 嵐のようですね。

 シエル、そんな微妙な顔でこちらを見ないで下さい……。


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