19:夜行性
ショコラとお茶した後、私は一人で中庭に向かいました。
中庭への道のりは部屋の近くに居たメイドさんにきちんと確認しましたよ!
寒い季節ですが、王宮の中庭は綺麗に手入れされていて、沢山の花が咲いています。お散歩し甲斐がありますね。
今日は、とてもいい天気です。
「あ……」
あそこに見えるのは、四十代のふくよかな人間女性。名前は確か、アナナさん?
生け垣の向こうで、鹿の獣人の男性とお喋りしているアナナさんを発見しましたよ。楽しそうですね……。
その場をすぐに離れれば良かったのに、グズグズしていた私は余計なものを見てしまいました。
突然、獣人男性がアナナさんの手を取り、彼女にキスしたのです。アナナさんは頬を染めてキスを受け入れています。
「ごめんなさい……」
いけないものを見てしまった気がして、私は慌ててその場を後にしました。
とても気まずいです……。
お庭の散策は、また今度にしましょう。
それにしても、やはり人間と獣人の種族を超えた恋は成立するものなのでしょうか。
ペットホテルのレザンさんも、アナナさんと鹿の獣人男性も……そういうことは気にならないのでしょうか。
この世界の常識が分かりません。しかし、こんなことを聞きにくいです。
…………やはり、聞くなら、人間の女性の方がいいですよね。
私はロシェさんの部屋を訪ねました。女性で一番相談しやすかったからです。
なんとなくですが、セゾン嬢はそういう知識自体がなさそうな気がします。
しかし、生憎ロシェさんはお留守のようでした。仕方ない、今度にしましょう。
疑問は募る一方です。
お昼ご飯を食べた後、部屋に戻りました。
※
「……きて……起きて」
ユサユサと私の体が揺すられています。
「ん……もう少し、寝る……」
「起きて」
今度はさっきより激しく体が揺れました。流石に目が覚めます。
散歩から帰ってきて、いつの間にか部屋で眠ってしまったようですね。夕食を食べ損ねてしまいました。
「……起き……ましたよ」
ゆっくりと起き上がります。
ベッドサイドに立っているのは、二十代前半の純正人間、セゾン嬢でした。
「新入り……、やっと起きた?」
「セゾン? おはようございます……いまは夜ですよね?」
辺りを見ると、暗いです。
おそらく、メイドさんがつけてくれたのでしょう。蝋燭の明かりでなんとか周辺が見渡せます。
「遊ぼう、新入り」
「……深夜ですよね、今」
思い切り昼寝をしてしまったセゾン嬢は、眠れなくなってしまったみたいです。
だからといって、私の部屋に来なくてもいいのに。
「お城を案内してあげる」
今からですか? それも真っ暗な中ですか?
「あの、暗いですし明日の方が……」
「明日まで待てなくなったから、案内してあげる! 来て! 来て! 来て!」
んん、このやり取り、どこかの誰かさんを彷彿とさせます。
「でもですね、足下も見えづらいですし……万が一転んで怪我でもしたら……」
この世界は、夜じゅう明かりのついている日本とは違うのです。夜は真っ暗なのが当たり前。
城なので一応、明かりはついているのですが、私は夜の病院や学校が好きではありません。もちろん夜の古城もです。
「いいから……行こう、新入り!」
セゾン嬢がぐいっと腕を掴みました。転げ落ちないように、慌ててベッドから下ります。
「わわっ……」
掴まれていない方の手で、近くにあった燭台を持ち、セゾン嬢に続きます。
「ミエルとショコラも居るよ……さっき、この部屋の前で会ったの……」
人の部屋の前で何をしているのだか。ここの住人は夜行性なのでしょうか……?
……昨日の夜、私が城に来た時は皆寝ていたはずですよね?




