1:獣人の国
気が付いたら、私は獣人が沢山歩いている国にいました。
今も私の周りには、動物の耳や尻尾を生やした変な人間が沢山歩いています。とってもメルヘンです。
「ここ、どこ?」
レンガ作りの家が立ち並んでいます。どこかの街だとは思うのですが……。
「ヨーロッパ?でも、一昔前の景色みたいだし、変な人達が歩いているし……」
取りあえず立ち上がって周辺を歩いてみることにしました。
立ち上がろうとすると、自分の手が泥だらけになっていることに気が付きました。手だけじゃなく、足も泥にまみれています。
着ている服もボロボロで黒ずんでいて汚いです。私、こんな服着ていましたっけ?
「取りあえず、手を洗いましょう」
近くに用水路が流れていたので、手を突っ込んで洗うことにしました。
「あれ?」
澄んだ用水路の水に、知らない女の子が映っています。ぱちくり。
私が瞬きすると、水に映った女の子も同じように瞬きしました。
「これ、私なの?」
泥だらけで、全体的に薄汚れていますが、銀髪に白い肌でくりっとしたピンク色の瞳の、おとぎ話で見る様な可愛らしい女の子です。
「えええええええええええええええええ」
何ですか、この可愛らしさは!年齢も十代に若返っているようです。私の面影はどこにも残っていません。
そこまで来て、思い出しました。私は一度死んだのだと。
※
私はアラサーOLと呼ばれる生き物でしたが、残業続きで過労死したのでした。
ブラックと噂されるIT系企業で、朝から日付が変わるまで働いていました。
安い給料でほぼ泊まり込みで毎日仕事をし、休日出勤なんて当たり前。ですが、私は真面目に一生懸命働いていたのです。
その会社が全てで、他の会社に移るという選択肢は思い浮かびもしませんでした。
最後の方は精神的にもかなりキていて、体の不調は勿論、独り言を言ったり、動植物に話しかけたり、我ながらかなり危ない人間になっておりました。
事務所でも、ガレージで寝ている社長の犬に話しかけたことがあります。
「お前は寝てばかりでいいねぇ」と。本気で羨ましかったのです。
犬に話しかけた日、私は久しぶりに自宅に帰って寝て、そのまま目を覚ましませんでした。
※
そうして、気が付けば今の場所に立っていたのです。
とりあえず、現状把握しなければ。近くにいる獣人に、この場所について聞いてみることにしました。言葉は通じるのでしょうか。
「あの……」
たまたま近くを通りかかった獣人の女の人に声を掛けてみます。
茶色の熊っぽい耳と尻尾があるマダムです。
その女性は私を見ると、驚いたようにあんぐりと口を開けました。
「に……にんげん」
言葉は通じるようですね、でも何だろう。熊のマダムはとても驚いています。
次に彼女が言った言葉は衝撃的なものでした。
「野良人間よーーーーーー!!!誰か、捕まえてーーーーーーっ!!!」
「えっ?」
野良って何ですか、野良って……。このまま立ってたらヤバい感じでしょうか?
私は、動揺しつつもその場を逃げ出すことにしました。