18:子人間
どうして私は部屋に彼を招いてしまったのでしょうか。
何故、毎回年下の人間に押され負けているのでしょうか……。解せぬ……。
現在、私は自分の部屋でショコラとお茶しています。お茶もお菓子もメイドさんが用意してくれました。
今日のお茶とお菓子は、あっさり目のストレート紅茶と、フルフルのベリームースです。
「ひどいよね。アルトもソルも、ミエルを推すなんてさぁ……僕に黙って……」
ショコラは先日のお見合い相手にミエル少年が選ばれた事に拗ねているようです。
恨みがましい目でこちらを見ないで下さい。その件に関しては、私はノータッチですよ。城の住人組に文句を言って下さいね。
「……私は、今は誰ともつがいになる気はありません」
通じるでしょうか……ミエル少年には全く通じなかったけれど、正直な気持ちを話しておきました。
曖昧な態度をとるのは、相手に失礼ですからね。
ショコラは少し考え込む様なそぶりをしてから、こちらを向いて言いました。
……何故か、とてもいい笑顔で。
「そっかぁ、実は僕もなんだ。まだ誰かとつがいになるなんて、考えられなくて……」
「……え? あ……そうなんですね……」
よかった……ホッとしましたが、少し拍子抜けです。
彼が、ミエルをつがいにするか私に質問した時に見せた表情は気のせいですね。拗ねていたのも単純に王様に選ばれたかったというだけなのでしょう。
私ってば自意識過剰でした。お恥ずかしい。
彼にその気が無いと分かったので、肩の力が抜けて自然体で話す事ができるようになりました。
「びっくりしましたよね、急にお見合いなんて言い出されて」
「うん……アルトが子人間を欲しがっている事は、前から知っていたんだけどね。ソルとロシェの夫婦をせっついていたし」
「……子人間?」
お茶とお菓子の乗っているテーブルを挟んだ反対側でショコラが目を細めました。
「そう、君は何も知らないんだね? 生まれたてみたい……」
失敬な! 私より年下のショコラに言われたくはありませんよ。いくらペット暦が長いからと言って、人生の先輩に上から目線とは何事ですか。
「子人間を知り合いに配布して、人間愛好家仲間を増やしたいみたい……」
「……ソル達にとっては迷惑以外の何者でもありませんね」
子人間が欲しいからといって、ソル夫婦にせっつくなんて余計なお世話としか言いようがありません。やはり王様の事をオッサン呼びをしても許されますよね。
それに、出来た子供を二人から取り上げて、他人に渡すだなんて……。それを知っていて、ソル夫婦はあえて子供を作ろうとしていないんじゃないですか?
「フラジエは子供を三人産んだけど、アルトはミエル以外は取り上げて、知り合いの貴族達に譲ってしまった」
「ひどいですね……って、ミエルはフラジエさんの子供なのですか?」
「あれ、知らなかった?」
「……初耳です。朝ご飯の時には言われなかったので……」
ミエルはあの夫婦の最後の子供らしいです。一度取り上げられそうになったものの、ミラネさんとフラジエさんの必死の訴えに王様が折れたとか。
やはり、働かずに獣人のペットとしてヌクヌク生きる生活には、それなりの代償があるのですね。
この世界の、人間に対するブリーダー思考には抵抗がある私です。




