15:城のペット
「ネージュ!」
「わわっ」
朝一番にミエル少年が部屋に駆け込んで来ました。
「アルトに聞いたよ! お城に来ていたんだね、逢いたかったぁ!」
前回、ソルから色々誤解を解いてもらったはずなのですが、やはり話が通じなかった様ですね。ものすごい勢いで飛びつかれ、ベッドに尻餅をついてしまいました。
「……おはようございます、ミエル。あと二日間、お世話になります」
「ずっと此処に居ればいいよ」
「いや、そういう訳には……」
「どうして? どうして? ねえ、どうして?」
出ました、質問ラッシュ。朝からこれはきついですね。
「やめなさい、ミエル。彼女が困っているでしょう?」
またまた、ナイスタイミングで助けが現れました。
「ロシェ? どうして此処に居るの?」
初めて見る人です。背の高い綺麗な女の人で、明るい茶色の髪を後ろで一つに結んでいます。年はソルぐらい……あ…………!
もしかして、ソルの奥さんではないでしょうか?
「どうしてって、あなたを止めにきたのよ。ソルを女性の部屋に入れる訳にはいかないからね」
「あの……」
ロシェと呼ばれた女性は、私の方を向くとはにかんだ様な笑みを浮かべました。
「はじめまして、私はロシェといいます」
「あ、はじめまして。私はネージュです、二日間このお城でお世話になります」
「ええ、陛下から聞いているわ」
彼女は、ミエルを部屋から追い出すと、支度を手伝ってくれました。
王宮に住む人間は皆豪華な洋服を身につけています。ソルは黒色の、物語に出て来る騎士の様なキラキラした服装でしたし、ミエルはソルと同じ形で白い服を着ていました。
ロシェも、例に違わず深い緑色の上品なドレスを着ています。
私の服は王様が手配して下さったようです。ありがたや、オッサンと言ってゴメンナサイ。
用意された服は、鳶色の可愛らしいドレスでした。淵には白いレースが付いています。同じ色のリボンをロシェさんが髪に結んで下さいました。
「ありがとうございます、あの、ロシェはソルの奥さんですか?」
「そう、私がソルの妻」
ロシェは照れくさそうに視線をそらしました。ソルの言っていた通り、美人で優しそうな奥さんですね。
支度が終わると、彼女は人間用の食堂へ案内してくれました。
食堂には、城の人間達が集まっていました。八人、勢揃いです。
王様と同じ年くらいの五十代の夫婦に、四十代くらいの穏やかそうな女性、二十代前半くらいの女の子、十代後半くらいの男の子、あとはソルとロシェとミエルです。
私はロシェとミエルの間に座りました。
全員に挨拶すると、皆さん自己紹介をして下さいました。
「私はミラネ、妻はフラジエだ。二人共、野良だった」
五十代のご夫婦です。ミラネさんは紳士な雰囲気の上品なおじさまです。フラジエさんは少し大人しめの清楚な奥様です。
「私はアナナです、私も野良よ」
アナナさんは、四十代のふくよかな女性です。藤色のドレスがよく似合っています。
「セゾンよ……私は『純正』……」
この女性がもう一人の純正みたいですね。カナリア色のウエーブがかった長い髪をしています。とても気怠そうです。
「僕はショコラ。宜しくね、ネージュちゃん?」
チョコレートブラウンの髪の少年が意味有りげな視線を送ってきました。この人がミエルが言っていたもう一人ですね。




