13:逃亡
2014/6/30 誤字修正しました
犬耳の彼は、レザンさんというそうです。このペットホテルのオーナーさんでした。
おそらく、二十代後半~三十代前半くらいの彼は、前世の私と同世代です。
晩ご飯は彼と同じものを食べました。シエル程ではないですが、まあまあ美味しい料理でした。ごちそうさま。
最近の私は、ペット生活が板についてきました。ダメ人間への第一歩ですね。
レザンさんの部屋は、白を基調とした落ち着いた空間でした。物が少なく、生活感がありません。
寝る場所は黒いソファーをお借りしました。レザンさんはベッドを使えば良いと仰るのですが、シエルと違って他人様ですから、一緒に寝る訳には参りません。
「それでは、おやすみなさいレザンさん」
そう言うと私は横になりました。少し落ち着かないけれど、あのペットホテルよりはだいぶ良い環境です。
すると、レザンさんがこちらへ近づいてきました。
「……レザンさん、どうかされましたか?」
しかし、レザンさんは何も言いません。
何も言わないまま…………私に覆い被さってきましたよ!?
「ちょ……ちょっと! 何するんですか!」
「人間って、可愛いよな…………獣人とほとんど変わらないじゃん……ちょっと試させて?」
レザンさんはハァハァと荒い息をしています。夏のお散歩時のポチオのようです。
そのまま、服を捲り上げられそうになりました……何だか襲われそうな雰囲気です。三十年近く生きてきた私の勘が危険を告げています。
これは、いかん! 逃げねば!
「レザンさん、ごめんなさい!」
私は思いっきり足を蹴り上げました。見事、レザンさんの顎に命中! 顎を押さえる彼を突き飛ばし、ソファーから離れます。
そのまま、部屋を出て玄関のドアを開け放つと、外へ飛び出しました。相変わらず、夜は寒いですね……。
しかし、ボヤボヤしてはいられません。私は、意を決して全力で走り出しました。
レザンさんに本気で追いかけられたら、ひとたまりもありません。なんと言っても、犬の獣人ですからね。足も速そうです。
「とりあえず、家に…………あ、だめだ」
家に帰ろうと思いましたが、鍵はシエルが持っています。合鍵はないので、家に入れません。シエルは人間である私が他の獣人に盗難されることを恐れて、ペットホテルへ預けたのでした。
困りましたね、他に泊めてくれそうな場所、キアラさん……は、お店の場所は分かりますが、ご自宅は不明です。この時間は家へ帰られているでしょう。
あとは…………。
こんなに必死で走ったのは、保健所事件以来ですね。
でも、あの時よりは状況はマシなはず!
「はぁ、はぁ……」
幸い途中で変な輩に見つかることもありませんでした。
「着いた……」
ここなら、夜でも人がいるはずです。
そして、数少ない私の知り合いがいる場所……。
安全性も抜群です。
私は目の前にそびえる城門を見上げました。




