12:外泊
「怖い……」
何がというと、現在の私の周りの状況がです。
今、私はご近所のペットホテルに預けられているのですよ。
この世界のペットホテルは前世のカプセルホテルに似ています。しかし、壁の両側がクリアな素材なので隣の部屋が見えます。それが落ち着かないのです。
シエルがお仕事で、外泊ありの出張に行く事になりました。
私はお留守番です。
「シエル……早く帰ってきて下さい……」
ペットホテルには、人間以外のペットも宿泊します。
この世界に人間は少ないので、必然的にゴブリンなどが多く泊まる訳ですよ。
私の両サイド、片側はゴブリンそして、もう片側は…………。
なんと、オーガでした。
「普通、人間の隣にオーガとか入れませんよね! いくら頑丈な壁があるからといって!」
お隣の部屋のオーガは一見、もしゃもしゃの髪の毛と、ぼうぼうのあごひげをはやしたデカいおじさんの風貌です。ちょっと怖い見た目……それだけで済めば良かったのですが……。
彼らは人肉を食べる生物なのです! なんと言うことでしょう! 先程からギラギラした目で私の部屋を覗き込んでいます。
「何故、人間の隣にオーガを配置するのですか!」
このペットホテルの店員には、オーガの知識がないのでしょうか!
ああ! オーガが、部屋の壁を壊そうとガリガリ引っ掻いていますよ! 壊れないとは思うのですが、恐怖しかありません。
もう二度とこんな所には泊まらない! シエルが帰ってきたら強く訴えることにします!
生命の危機を感じ、部屋の隅っこでうずくまっていると、ご飯を取り替えに獣人の男性の従業員さんがやってきました。お隣のオーガのご飯の内容が気になるところですね。
「あれ、人間だ……」
従業員さんは珍しいものを見るように、私の方をジロジロと見てきます。私をこの部屋へ連れて来た女性の従業員さんとは別の人です。尖った茶色の犬耳ですね、尻尾はくるんと巻いています。
犬耳男性は、半泣きになって蹲っているいる私に声を掛けてきました。
「どうしたの? 寂しいの?」
んな訳ないじゃないですか! 良い年こいた大人がそんなことで泣きませんよ!
「…………部屋をかえて下さい」
これはオーガから離れるチャンス! 私の安眠の為にも、生命の為にも、部屋をかえてもらいましょう。
彼は、私と隣の部屋のオーガを見て、納得がいったようです。
「ああ……誰だ? 人間の隣にオーガなんか入れた奴は」
彼はカプセルルームの扉を鍵で開け、プルプル震える私を抱き上げました。見かけに寄らず力持ちですね。
「悪いね。人間なんて来たことないから、従業員も分からなかったんだろう。今日は他に空き部屋はないし、どうするかな……」
男性はしばらく悩んだ末、私を連れてカプセルが並ぶ部屋から出ました。
「今日はうちにおいで、ペットホテルの隣だから大丈夫」
「……いいの?」
私が聞くと、従業員さんは笑顔で頷きました。
申し訳ない気持ちもありますが、オーガの隣は勘弁願いたい……ということで、一晩彼のおうちでお世話になることにしました。




