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  作者: シグマ君
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3人デートの約束

 来月の後半あたりからは稼ぎ時だ。

 実は、今も学生さんの俺。去年の後期から休学中なのだ。秋口からは、いくつかの技術系の資格を持っている俺にとっては、働き口に困らない季節。けっこう収入も良い。

 稼ぎまくって、来年度には復帰の予定だ。


 両親は健在で別の街―――俺も高校まで住んでいた街にいるが、家出同然というか、カンドウってやつ。

 アネキはけっこう気に掛けてくれている。おそらく、親父から頼まれているのだろう。

 どこかで親父とは仲直りしなければならないのは分かってはいるが、俺も離婚してしちまったし。そもそも、結婚自体を勝手にやってしまったもんで、タイミングを図れなくなった。まぁ、なるようになるか…。



 温泉事件から二日目の夜。


 携帯に電話が掛かってきた。

 お! 姐さんの家電からだ。誰だろう? 姐さんか? ユイか? それとも…ムフフフフ…サキちゃんだったりして。でも珍しいな。どうして携帯からじゃないのかな?


「はい、シグマ…………です」

「出るのおっそーーーーーーーーーーー!切ろうかと思ったーーーーーーーー!……ですって何? 変だよ」


 中坊からでは、あまり嬉しくない。


「ユイか…」

「あーーーーーーーー、声のトーーン落ちた! 誰を期待してんの?……サキちゃんだ!」

「そ…そんなことないって」


 こいつはあなどれない。気を抜いて喋ったら墓穴を掘る。


「ふーーーーんだ! サキちゃんと、ちゃんと仲直りしたの?」


 いきなり直球ど真ん中。「お…おおおお…もともと仲良しだからよ~」っと、かろうじて打ち返すと、「ウッソだねーーーーーーーーー!」ときた。「なな…なんでよ?」と、完全に中坊のペースにはまってしまった。…抜け出せん。


「うふふふふ…サキちゃんね~~」

「な…何?」

「ヒ・ミ・チュ」


 クッソ~、完全に遊ばれてる。


「あのな~、なに勿体ぶってんだか…べ~つに~いいけどよ~」

「ヒッヒッヒッヒ。かわいそうだから~、内緒で教えてあげる」

「フムフム」

「温泉に行った日の夜さ~、サキちゃん、シグマにモシモシしたでしょ」


 なぜ知っている? うかつに返事は出来ない。


「ふふふふふふ、誤魔化したってダメだもーーーん。知ってんだからねーーーーー! サキちゃん、自分の部屋でコソコソ電話してたけど~~、次の日にね~、サキちゃんお風呂入ってる隙に~、携帯の履歴見ちゃったんだもーーーーん」

「お…お前…サキちゃんにバレてないのか?」


 受話器を持つ手に力が入っちまったぜ。きっと鼻の穴も膨らんでいると思う。


「うちの方がズル賢いもん」

「あ…あ~~…それは間違いないな…」

「あの日はシグマにしか電話してないの調査済なんだも~ん」


 この中坊は大したもんだわと、力が抜けてゆく。


「それまではね~、すっごく落ちてたの、サキちゃん。もう、慰めようもないくらい」

「そうなの?」

「うん。でもね、電話終わったらね、ようやっと茶の間で晩御飯食べてた」

「え……サキちゃんからの電話って、けっこう遅い時間だったけど、あれから晩御飯?」

「うん、ママリンがね、いつもの時間に晩御飯だよ~って言っても、いいって食べなかったの」


 サキちゃんが可哀想になってきた。俺が原因だけど。


「っで、電話の後は元気になってモリモリ食べてた。すっごく嬉しそうだったさ」

「ほんとに? ほんとか?」

「うん、キラキラしてた。サキちゃんって、ほんとカワイイさ」

「そっか……ところで、今、なんで家電から掛けてんだ?」

「スマホ使い過ぎて、ママリンに没収されてんの」

「今、傍に誰も居ないのか?」

「ふっふっふっふ、だいじょうV」


 もうちょっとサキちゃんの事を聞きたい。ちょっと探りを入れましょう。


「サキちゃんってさ~……カワイイからモテるんだろうな~」

「うん、モテルと思うよ。お人形さんみたいで、めっちゃカワイイもん。でもさ…うふふふ…知ってんだも~ん。内緒だけどぉぉ」


 なんだなんだ、この展開は?


「サキちゃんと、うちってね…ウッシッシッシ…仲間なの」

「仲間?」

「ひっひっひ、バージン」

「……あのね~」

「ひーーみつ。うちとサキちゃんのね」

「お前、直接聞いちゃったの?」

「うん、聞いちゃったの」

「分かったから、それ以上しゃべるな」

「ふあ~~~~~い」


 電話の途中で俺は溜息をついていた。

 この中坊の叔母って役割は大変だ。マセちゃってHな事に興味深々だもんな。母親に聞けない事でも、若い叔母には聞きたくて聞きたくてウズウズしてるんだろうな。

 真っ赤な顔でユイとちょっとHな会話をしているサキちゃん。なんだか目に浮かぶ。真剣な表情で喋ってんだろうな。



「シグマ、次の土曜日、空けといてね」

「土曜日? なんだった?」

「花火大会! うちと~サキちゃんと~シグマの3人で~、デーーーート!」

「そっか! 花火大会か! 分かった、一緒に行こうぜ! 終わったら飯でも食いに行くか」

「うん、行くーーーーーーーーーー! お寿司がいい」

「ママリンは?」

「なんか、じいちゃんとこ行くからムリなんだって」

「そっか、6時くらいに車で迎えに行くな」

「わーーーった、じゃーーねーーー、チュッ」



 チュって……。いいや、そんな事は気にならない。すっごく楽しみだ。

 3人のデートってどうなんだろう。でも、ユイが居た方が会話に困らないはず。うん、それは間違いない。女の子に対して間が持たないとか焦ったりはしないけど、相手がサキちゃんだったら別だ。すっげー意識してしまうのが目に見えている。ぎこちなくなっちまって、ロボットみたいになりそうだ。2人っきりはムリだな。


 時計を見ると10時ちょっと前。

 暇だ。レンタルビデオ屋でも行ってくるか。マッドメンは全部観ちゃったし、何か面白いのあるかな。あ! 確かグリーってのが面白いって聞いたな。

 そそくさと立ち上がり玄関に向かうと、それまで床に丸まって目を閉じていたベロが顔を上げた。いつもは垂れている耳も、ちょっと持ち上がったような。


「何勘違いしてる? 寝る前のオシッコは、まだ早いだろ」


 散歩と言う言葉は、間違っても言えない。言ったら最後、こんな夜中だろうが、結局、行かされるハメになる。

 あれ…また携帯に電話だよ。

 その電話は高校の時の同級生―――バレー部のキャプテンだった太郎からだ。


「もっしーーー」

「おう、太郎だけど。シグマだよな? なんだか機嫌いいな」

「そうか。っで、どうした?」

「今、居酒屋に居るんだけど来ないか。静香も一緒なんだけどさ~」

「へ~、太郎と静香って何時から付き合ってんのよ?」

「ぁぁああ? バレー部のOB同士だって」

「静香もバレー部だったか?」

「お前ってよ~、ほんと何も知らんヤツだよな。OBでさ、卒業後も場所借りてバレーやってんだって。今、その帰りよ」

「そっか。暇だし行くわ。静香と会うのって何年ぶりだ?」



 30分後に居酒屋に到着。

 入り口でキョロキョロしてると、襖を開けた奥の個室から手を振ってる。


「あんがい早かったな」と太郎。


 この店はタッチパネルで注文を入れる仕組みのようだ。ビールを中ジョッキで入力していると、静香の視線に気が付いた。マジマジと俺の顔を見ている。


「な…顔になんか付いてるか?」

「ふ~~ん、……シグマ、久しぶり。考えてたんだけど、卒業いらいだね」

「ああ、きっとそうだな。二人はちょくちょく会ってんの?」


 静香の表情が何となく硬い。久しぶりだから緊張してるのか? あれ…高校の時って静香と喋った事ってあったっけ? 確か2~3年の時は同じクラスだったはず。違ったかな。


 そんな静香の表情に気が付かないのか、太郎が呑気に喋っている。


「こっちの街に住んでるバレー部のOBでサークル作ってんだよな。けっこう人数居るんだぜ。ほら、お前の初恋のサキ先輩。あの人も今年からこっちの街に引っ越して来たらしくて、たまに顔出すようになったんだぜ」


 サキちゃんってバレー部だったの? 確かに背は高いけど知らなかった。ちょっとマズイかも。


「えええええええええええええええええええ!! シグマの初恋!! サキ先輩がーーーーーーー!!」

「な…ちょっと…いくらなんでも驚きすぎだろ。……太郎、言いふらしてる訳じゃないだろうな」

「今、急に思い出したんだって。大体、高校の時って、お前、ずーーとメグミと付き合ってたろ。卒業後は、いつの間にか別の人と籍入れちゃったし。お前の顔見ながらサキ先輩の話ししたら、思い出したんだって」

「そっか…静香、誰にも言うなよ」

「ふーーーん、大体さ~、サキ先輩って2っつ上なんだからさ、シグマの事なんか知らないんじゃないの」


 何だか俺に対して一物を持ってるような言い方だな。ちょっと話題を変えたい。


「と…ところでよ~……あら…あらあら…その~…クラス会だ! やってんの?」

「何その変な言い方。毎年やってるって。シグマなんて見たことないけどね」

「へ~、B組は全然だな。お前たちのクラスって毎年かよ」


 あまり覚えていないが、俺と静香はE組だ。どうやら毎年クラス会とやらを行っているらしい。そんなE組が太郎は心底羨ましそうだが、そんなもんなのかね。


「うん、毎年しっかりやってる。シグマ、なんで一回も来ない?」

「え…あ~、案内って来てたかな~……でも仲の良かったヤツって居なかったような…」

「案内行ってるはず。ちょっとシグマ、あんた私の顔ちゃんと覚えてんでしょうね!」

「な…何言ってんだよ、覚えてるって。同じクラスだったんだから忘れる訳ないって」


 おおおおお、静香の事は分かる。こいつ鋭いな。名前と顔が一致しない女子って大勢いるわ。


 さっきから俺を品定めするような目で見ている静香が、何かを思いついたように、「ちょっとリカ呼んでもいい?」と聞いてきた。


「ああ、俺はいいけど、シグマもいいだろ。お前たちって同じクラスだったよな」


 俺は当たり前のように「いいぜ」と言ってはみた。リカ? 名前は聞いたことあるけど顔が思い出せない。同じクラス? まじかよ。



「あーーリカ~、今、居酒屋で太郎と一緒なの。ちょっと出ておいでよ。珍しい人も居るからさ」


 俺を見ながら携帯で喋っている静香。

 リカ…リカ…リカ…ダメだ、思い出せない。まさか、会っても分からないって事は無いだろ。


「うんうん、来れる? なら早く来なって……え? ふふふ、それは会ってからのお楽しみ。………うん待ってるね」


 どうやら、リカと呼ばれる同級生も来るらしい。待っている間とりとめのない会話が続き、20分くらいがあっと言う間に過ぎていった。その間も、静香は暇さえあれば俺の顔を見ている。いったい何なんだ。


 ようやっとリカが現れ、開口一番―――


「ああああああああああああああああああ!!シグ…マーーーーーーーーー!!」


―――だった。


 


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