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  作者: シグマ君
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神降臨その一

 それは、俺が高校3年生だった時の、ある日の放課後だった。

 隣のクラスを覗くと、ちょうど淳も帰るところのようだ。

 

 淳と俺とは幼馴染で、小学・中学と同じで、更に高校までもが同じ学校。そんなこともあって、互いの家庭環境やらを教わるでもないのに知っている仲。

 淳は4人兄弟の末っ子で6人家族。姉が3人もいるのだ。俺も姉が1人いるが、あんなのが3人もいる淳が気の毒でならない。その影響なのか、喋る言葉が丁寧な淳。初めて会った奴など、おねぇキャラかと勘違いをする。


「淳、帰ろうぜ。今日ってなんか予定あったっけ?」

「あ~シグマ。相変わらず暇な日だったと思うけど」

「そっか、退屈だな~。あれ…なんか騒がしいな。校長室の前か?」

「うん、そうだね。あれ? あれって繁だよね。こっちに走ってくるみたい」



 見ると確かに繁だ。

 この繁という男も、俺とも淳とも比較的仲が良い。随分と派手な短パンとTシャツを着て走って来る。


「ああ、あれは繁だな。何だ、あのヘンテコな格好……」

「バスケのユニホームじゃないの。繁ってバスケ部のキャプテンだって」


 その繁、俺と淳の姿を見つけると、大声で何かを言い始めた。

 この男は声がでかい。それと、中学までは全く別の地域に住んでいたらしく、同じ北海道ではあるものの、俺達とはイントネーションが違う。俗に言う「浜弁」というやつなのだろう。


「おおおおおお! シグマ、淳、なまらやべーーべや。こっち来いって」


 とにかく、「なまら」とか「べや」を連発する男。淳はクソ丁寧な言葉しか喋らないから使う事などないが、俺でさえ、「なまら」など使った事がない。いったいどこの地域での方言なのか。

 

 暇だったせいもあり、繁に呼ばれるまま人の少ない廊下の隅に固まり、3人でヒソヒソと喋り始めた。っが、繁の声がやたらとデカイ。


「伸二が連れてかれちまったでや。校長室によ~」


 伸二も仲の良い一人だ。背が185くらいあって、そのせいでバレー部に入っているはずだと俺も知っていた。


「なんでよ?」

「それが、なまらヤベーのよ。伸二の奴、小泉のアソコばガッチリ鷲掴みしたってよ」


 俺と淳はキョトンとしてしまった。


「小泉だって小泉! 知らんのか! バレー部の顧問の小泉先生だってよ! なんですぐ分かんないべな~」


 小泉が誰なのかが、ようやっと分かった俺と淳。


「アソコって…どこよ?」

「はぁぁあああ??!! アソコったら決まってるべや。股ぐらだべ」

「おいおいおい、小泉って…女だろ?」

「うちの学校に男の小泉なんて先生いねぇべや。そうだって、女だ女。だからなまらヤベーって言ってんだべや」

「ババーだろ。独身だったか?」


 それは繁にも分からないようだったが、淳が知っていた。 


「確か結婚してたと思うよ。でも、そんなに歳じゃないと思うな。40代の前半じゃないかな」

「十分ババだろ。伸二の奴、いくら女がいねぇからって小泉はないわ。なんかの間違いだろ。繁、お前って見てたのか?」


 世間を知らない男子高校生にとっては、40を過ぎた女性はオバサンを通り越しババーだった。なんせ、自分の母親ともさほど年が違わないのだから。


「いや…俺はバスケで、あいつはバレーだべ。直には見てねぇけど、みんな言ってたって。伸二が小泉のアソコば掴んだって。これってよ~、一発レッドか?」

「お前、バスケのキャプテンなんだろ。なんで見てないんだよ。役に立たん奴だぞな」

「ぁぁああああ!! 全然、関係ねぇべや」


 とにかく、この「なまら男」の繁は舞い上がっていた。俺も、そんな繁に引っ張られるようにテンションが上がっていたのだが、淳は冷静のようだ。


「太郎は? 太郎ってバレー部のキャプテンじゃなかった?」

「太郎も伸二と一緒に校長室に連れてかれたみてぇだ」

「ふ~ん、とにかく体育館に行けば何か分かるんじゃないの」


 3人で体育館に移動して行った。なぜだか、けっこうな勢いで。



「おい、隅の方に女子かたまってんな。繁、あれってバレー部か?」

「おおおお、バレー部だな。ん? バスケの女子も居るみてぇぇだ」

「きっとあの中に目撃者いるぜ。あ! あいつだ。あのインディアンみたいな女。身振り手振りで何か説明してる」

「インディアン?? あ~、バレー部の2年な」

「繁、お前、あのインディアン連れて来いや」

「俺がか?」

「この3人で、あっこに行けるのお前しかいないだろ」


 繁はふて腐れたようなイヤイヤな素振りで女子の輪に近づいて行ったが、俺は喜んでいると見た。あの男はいいカッコしぃの女好きなのだ。

 ニヤニヤしながらインディアンを説得している。

 俺と淳は体育館の入り口付近でボーーっと待っていた。


「なぁ、淳。あのインディアン……嫌がってるように見えないか?」

「そうだね。隣のワカメちゃんみたいな頭の女子に、一緒に来てって頼んでるみたいだね」

「あ~~、そのワカメにしたって、冗談じゃねぇって感じだ」


 延々とすったもんだが続いてます。


「シグマ、クラスの女子の名前って、全員知ってる?」

「ぁぁああ?? 知らん奴いっぱい居るけど……なんでよ?」

「やっぱり。同級生の女子から自分がどう思われてるか、シグマって知らないの?」

「はぁああ? 興味無ぇぇって」

「恐ろしいらしいよ。シグマの事が」

「恐ろしい? 俺が何やったってよ。大体、なんで淳が知ってんのよ?」

「前にさ~、誰だか忘れたけど、メグミに喋っているの聞いた事があるんだよね。メグミってシグマの彼女でしょ」

「メグミに? ああ、まだ付き合ってるけどよ」




 淳の説明は、こうだった。


「ちょっとメグミ~、あんたシグマと付き合ってんだよね」

「うん、そうだけど?」

「マジで怖くない? シグマってさ~」

「なっ……全然」

「ふ~ん、そうなんだ…」

「なんで?」

「みんな言ってるよ。シグマに話しかけたら、なんか殴られそうだって。怖くて話しかけれないって」



 淳の説明は以上だった。


「はぁぁぁああああああああ??? みんなって誰よ? 俺がDV野郎だってか! っざけんな!」

「同級生の女子ですら、そうらしいって事。あそこにかたまってるのって、全部が2年生と1年生じゃないのかな」

「俺がここに居るから、あのインディアンは怖がって来ないってのか?」

「女子って噂好きだからね。それに情報網も凄いよ」

「知るかよ、そんなもん。あ…やっと来やがった。腐れインディアンが~」

「シグマ、話しを聞けばいいだけなんだからさ~。……あれ、2人で来たみたい」


 二人の女子が、「っちわーーっす」と言いながらペコっと頭を下げる。俺は、「ちょっと聞きたい事あるから、こっち来い」と歩き始めていた。

 場所を変えようとしたのだが、振り向くと誰も付いて来ていない。さっきよりも下がった気がする。


「メグミ先輩に言いつけます!」


―――と、インディアン。明らかに顔が強張っている。元からなのかもしれないが。ワカメの方は、「うっ…うっ」と、今にも泣き出しそうだ。


「は? 言い付けますって……な…なにを?」

「私、メグミ先輩と仲良しなんです!」


 なぜか俺を睨みつけている。


「意味が分からん。……何言ってんだ? 俺の事知ってんのか?」


 二人ともが大きく頷いている。そして、インディアンが更に続けた。ちょっと震えた声で。


「叩いたら、みんなに言いふらします!」

「なに~~…っざけんじゃねぇぇぞ!」

「ひっ…」


 大きく飛び上がった二人。更に、俺から離れるように下がってもいた。


「シグマ、止めなって。怖がってるよ」

「あのね~~、君たちね~~。誰から俺の噂を聞いたのか知らないけどさ。生まれてこのかた女に手を挙げた事なんか一度も無いんですが。叩かれた事は数えきれないけどな」


 インディアンが、「マジっすか?……みんな言ってますけど」と言うと、ワカメまでもが我が意を得たりと、「うちの学校って不良グループいるじゃないっすか。シグマさんって、あの人達と仲悪いっすよね。誰ともツルまないのに手を出せないって有名っす」。更に、聞きもしないにインディアンがまた喋り始めた。


「先生も怖がってるって……まともに喋れるのってメグミ先輩だけだって……す…すんませんです、怒らないで…」


 二人の女子が頭を下げてます。それも深々と。俺たち三人は仰け反ってしまった。


「やめてくれ。とにかく謝るな。体育館の全員がこっち見てるって。……そんなに怖いのか…俺の事が」


 二人が大きく頷いてます。


「なんでよ? 繁なんてバスケのキャプテンらしいけど、怖くねぇのか?」

「全然。優しいっす」

「はぁぁああ?? この変態なまら男がか?」

「えーーーーーーーー、ヘンタイなんっすかーーー! キャッキャッキャッ」

「シグマ! 俺がなんで変態よ。ふざけんなよ!」


 俺と繁がもみ合うのを淳が割って入り、三人ともゼーゼー状態。

 とりあえず、落ち着いてインディアンの説明を聞くことに。



「有紀が小泉に説教されてたんっす。有紀ってバレ―部の2年なんすけど。小泉の説教ってクドクて長いんっす。有紀もキカナイから、よけい終わんなかったんだと思うんっすけど。そしたら、伸二先輩が小泉の後ろから、そうっと近寄ってきて……ちょっとワカメ、あんた小泉の代わりやってよ。私、伸二先輩の代わりやるから」

「ええええええ…どうすんの?」

「こう。腰に手をあてて、少し足を開いて。……そうそう」


 ワカメの後ろから、そうっと近寄ったインディンが1メートルほど手前で屈んだ。そして右手は…そう、ボーリングの投球フォームのように後方に振られ、その反動で後ろからワカメの足の間に入り込み、グゥワシッっと。



「ギャッ!!」



 見ていた俺たち男三人が飛び跳ねた。

 後ろから股の間に手を突っ込まれ、股間を掴まれているワカメ。咄嗟に内股となり腰を引いている。そして股間を掴んでいるインディアンの右手をしっかりと掴んでいた。顎を突き出しながら。

 こういう事をされると、どんなリアクションをするのか初めて見た。かなり滑稽だ。

 俺と淳は勿論だが、バスケ部のキャプテン繁も、自分が掴まれたように腰を引き、瞬きも忘れたように見入ってしまった。


 インディアンが続ける。


「そう。そして、グィッグィッって引っ張ったの。私の方に」

「ヤダヤダヤダ、ちょっとーーーヤダってーーーーーーーーーー!! あ…」

「そうそう、こんな感じで前に倒れたの、小泉も。そしたら伸二先輩は、こうやって~~、どうだどうだ、この野郎って、腕をピストンさせたんっす」

「ひーーーーーーーーーイタタタタタタタ……強く掴み過ぎだって。放してーーーーーーーーー!」

「あれ…抜けない。手ぇ掴んでるっしょ。股だってそんなに閉じたらとれないって」


 これがどうにも抜けないときた。条件反射ってヤツなのか、絶対に股を開かないワカメ。結局、俺たち男三人がワカメの足を開かせて。足4の字固めのようだ。

 やられたワカメは怒り心頭だ。


「ちょっとーーーーーー! インディアンって何なの! おっかしんじゃないの! 普通はマネでしょマネ。なんでほんとにヤル訳? それも男子の前で」

「この方が、わかり易いっしょ」

「ふざけないでよね! 冗談じゃないって! インディアンのも掴ませてもらうから」

「いいよ…じゃ~」


 正面からでした。

 やはりボーリングの投球フォームのように右腕を後方に振り、その反動で、グゥワシッと。やられた方は内股になり、腰を引いて顎を上げている。やはり掴んでいる相手の右手を押さえながら。


「あ…ちょっとちょっと…そこマズイって…指ば立てないで!」

「私だって、そうなってたからね。こうやって、こうやって…されたからね」

「違うってーーー! そこまでやってないって……あーーー指!」


 インディアンも正面から掴み返した。さすがに俺たちは男三人は慌てた。バカだ、こいつら。


「もう止めれって、もういいって」



「痛ぇぇぇぇ! つねってる、つねってる。爪食い込んでるーーーーー!」

「イヤーーーーーーーー! 捻じってるってバカーーー! そこダメーーーーーーーーーーー!」


 もうどうでもいい。


「放っておこうや、これ以上、関わり合いになりたくねぇよ」

「おいおいおい、ちょっと待ってくれや。俺がこいつら呼んできたんだべや。なまらやべーって」


 繁が体育館を見渡している。そしてエヘラエヘラと愛想笑いを振りまきながら掴み合う女に怒っている。


「やーーめーーれーーーー!! やべーーってよ。ちょっとコラ、離せって」


 髪の毛を振り乱した女子二人が、ようやっと離れました。そしてインディアンが言ってます。


「これは、誰にも内緒にしてください。絶対っすよ」

「はいはいはい。じゃ~バイバイ。でもよ、あっちの方で君たちのお仲間さん、不思議そうに見てるぜ」



 女子高生ってどうかしてる。あの二人が特別か~?

 男の前でアソコ掴み合うかね…普通。なんだが下品だ。それを俺が言うかって一人突っ込みを入れながら、体育館を後にした俺でした。


つづく―――

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