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  作者: シグマ君
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最終章その3

 時計は9時15分を回った。ユイから電話がきて、もう30分にもなる。公園に着いてからは15分が過ぎた。


 この林、何処まで広がってる? 奥行きも深いし幅も広い。方向感覚が狂う。こっちじゃないのか? ふざけやがって、何のための林なんだ。


「ユーーーーーーーーーーーーーー! 声を……」


 気のせいか? 木の枝を踏んだような音が聞こえた気がする。歩くのを止めて、じっと神経を張りめぐらせた。

 暫く待ったが音がしない。どうした? ユイじゃないのか? なら、クソ野郎か。こっちの出方をうかがってるのか? 誰だ? どっちだ? ユイなら声を出すはず。野郎、そうかい、なめんじゃねぇぇぞ。

 膝に余裕を持たせるように僅かに曲げ、静かに息を吐きながら腰を決めた。いつでも飛び出せる。再び枯葉を踏む音。


 居る。


 誰かが居るのは間違いない。どうやら左前方から足音を忍ばせて歩いているようだ。頭を下げ、前のめりの姿勢で待った。もっと来い。一撃で決めてやる。



「どこ……シグマ………シグマなの?」



 なに……ユイか? 俺は大きく息を吐き出していた。


「そうだ、俺だ。シグマだ」


 じっと耳をすませた。

 ザクザクと枯葉を踏む足音が近づいて来る。走っているのか? 何か言っているようだ。


「どこだ? ユイ、こっちだ、分かるか?」


 走って来るのがなんとなく見える。ユイか?! とにかく暗すぎる。両手を前に突き出しながら走って来るのが分かった。


「危ない、走るな!」


 そんな俺の声など聞こえないのか、何かに躓いて飛び込んできたユイ。慌てて受け止めて抱き上げた。


「ユイ ………お前……」


 首にしがみつくユイの身体は酷く冷たく、そして激しく震え、唸るように泣く。

 カーッと頭に血が登り、俺の手足も震えていた。


「どこだ!」


 俺と会えて気が緩んだのか、満足に口をきく事が出来ないユイが震える手を伸ばし指で示している。ユイが出て来た方角だ。案内させた方が早いか? 危険か? どうする?


「相手は2人なんだな?」


 首にしがみつくユイが嗚咽を漏らしながらも何度も頷いている。連れて行くしかないか……駐車場から離れ過ぎてる。ここで一人で待たせる訳にもいかない。


 デカイ奴だと言ってたな。隙を突けば2人が相手でも負けるはずがない。ユイを庇いながらでも大丈夫だ。



「歩けるか? 一緒に行くぞ」



 地面に降ろしたユイが、両手を俺の腰に回して離れようとしない。そんなユイの肩を抱きながらゆっくりと林の奥へと向かった。


「大丈夫か?」


 歩きながら何度もユイの顔を覗き込んで聞くが、前を見据えて、震える唇を噛みながら無言で頷く。口を開けば泣き出してしまう自分を分かっているのか、必死に堪えている。それでも溢れる涙を止める事が出来ずに、顎から滴り落ちているのが俺の手にあたる。



「暗いな………結構歩いた……何か見えるか?」



 首を横に振ったユイだが、急に身体をビクっと強ばらせ足を止めた。


「見えたか?」


 俺の体温を確かめるようにピッタリと身体をくっつけ、そして指を差した。

 その方角に目を凝らすが何も見えない。暗いせいもあるが、俺は目が悪い。運転免許は眼鏡使用なのだが、眼鏡が嫌いで、まず掛けたりしない。クソっ、近視の自分に腹が立つ。


 じっと見ていると何かが動いているのが辛うじて分かった。20〜30メートル先か?


 身を屈めてユイの目線に合わせ、肩に手を置く。声を出せずにボロボロ涙を流しながら見つめてくるユイの顔が、息が掛かるほど傍にある。酷く震えながら何かを俺に伝えようとしていた。



「シッ……シ……グマ……ぁ…ぁ……ヤッ……テ」



「おお、やってやる」



 まだ細っこくて胸も平らなユイの身体をぎっちりと抱く。すると、何故だか俺の首筋に歯を立ててきた。


 ユイを残して前に進む。慎重に歩いた。暗すぎる。


 見えてきた。僅かだが声も聞こえる。



「ガキのくせして気取るんじゃねぇぇ! 減るもんじゃあるまいし、遅かれ早かれ誰かとヤるんだよ!大人しくしろや!でなきゃ痛い思いするだけだぞ!」



 周りが少しだけ明るくなった。上を見ると月が見える。さっきまでは曇っていたのか。

 視線を戻すと、太い木に寄り掛かるようにしている男が見えた。女の子に後ろから両手を回し、身体を弄ってやがる。その女の子は怯え過ぎて動けないのか、抵抗しているようには見えなかった。ただ、なすがままにされている。


 もう一人の男はどこだ? さっきの声はもう一人の奴だろ。女の子も、もう一人居るはずだ。どこだ? どこに行った? 草の上……もみ合ってるのか?


 12〜13メートル先だ。捕まえた女の子に夢中で俺には気付いてはいないようだ。月が隠れなければ走れる。

 空を見上げると、雲が流れて月を隠そうとしている。次の瞬間、俺は走っていた。


 草の上でもみ合ってる奴は後回しだ。待ってろ、まだ突っ込まれるんじゃねぇぞ。俺は一気に距離を詰めながら声を掛けていた。


「よう!」


 何事かと、惚けたような男の顔がハッキリと見えた。胸を押さえながら左に逃げる女の子。

 咄嗟の事で動けない男。当たり前だ、逃がしてたまるか。そいつの横に大きく右足を踏み込む。鋭角に曲げた左膝がそいつのストマックにめり込んだ感触。ドンピシャで体重が乗った。

 太い木を背負って立っていた大馬鹿野郎。ダメージを逃す事も出来ずにゲロを撒き散らしながら崩れ落ちる。

 こんなもんで済むと思うなよ。俺は苦しみもがく男の右腕を掴んでいた。そのまま肩を極めて外してやった。男は俺の足元で激しく暴れているが、息が吸えないせいか叫び声も上げない。ついでに顔面を蹴り上げる。きっと鼻も折った。


 草むらで別の女の子に覆い被さっている奴が首を捻じって俺を見上げていた。ズボンとトランクスが片足にしか穿かさっていない。汚ねぇぇケツが出ていた。

 下になった女の子は、スカートが捲れ上がった姿で下半身を弄られてはいるが、必死に抵抗していたのだろう。下着を脱がされてはいなかった。よし、よく頑張ったな。


「その薄らぎたねぇぇケツ、とっとと仕舞えや」


 下になっていた女の子と目が合った。慌てて抜け出して逃げてゆく。

 男は立ち上がろうともがいているが、片足のズボンと下着が邪魔で起き上がれない。まるでバカだ。哀れなほどにマヌケな男が仰向けになってズボンを穿こうとしている。


「なんだそれ? さきまでは立ってたんだろ。ほら、どうした? 立たせてみろや。どんだけのもんよ? 情けねぇぇくらい縮こまってるぜ。手伝ってやろうか?」


 そつの両足首を掴んでおもいっきりV字に広げると、筋がどうかなったのか、口を「オオ」と言うように開いて上半身を跳ね起こしてきた。両手で縮こまったモノを隠すように覆っているが、お構いなしに膝を落としてやった。ちょっとジャンプまでして。


 こいつも声にならない声を漏らし、海老のように身体を丸めてのたうち回り始めた。ついでに右手の小指と薬指を掴んで、あらぬ方向に曲げてやる。


 声も出せずに苦しみもがく二人の男。そいつらのベルトで両足を縛り、シャツも脱がして、それで後ろ手に縛り上げた。亀甲縛りなんてのは出来ないが、いろんなバイトをしてたおかげで、縛り上げる事ぐらいは手際良くできる。


 俺はそいつらを見下ろす。涙と鼻水でグチャグチャな顔で何かを言っているようだが、今更、何だ? 俺に殺されると思っているのか命乞いをしていた。ダメだ、こいつら見てたら自分を抑えきれなくなりそうだ。どうしようもなく腹が立つ。ふっと、押し殺した泣き声がする方を振り向くと、草むらに膝をついて、互いの頭を抱くようにして泣いている二人の女の子が見えた。ああ、そうだった。俺の身体から力が抜けてゆくのが分かった。


 ユイが駆け寄って行く。何かを言っているようだが、「あーーーーーー!」と言う叫び声にしかなっていない。二人の女の子に覆い被さるように抱き付き、しゃくり上げ、唸りながら三人で固まっている。


 遠くで聞こえるサイレンの音。遅いわ。


 立ち上がったユイが俺を見ている。笑い掛けてあげると、物凄い勢いでーーー飛ぶように身体ごとぶつかってきた。俺の胸を噛みながら泣くユイを抱きしめる。


 二人の女の子がフラフラと立ち上がって近寄って来る。大きく頷いてあげた。


 死ぬほど怖かったのだろう。息が吸えないほどのーーー遠吠えのような叫び声を上げて俺の身体に爪を立てる三人の女の子。


 もう大丈夫だ。もう、怖いことなど起きない。もう大丈夫だから、うんと泣いたらいい。何故だか、俺の目からも涙がこぼれ落ちていた。


 どれくらいの時間が過ぎたんだろう。サキちゃんが、二人の男の子と警官を連れて走って来る。


「ゆっちゃん……」


 ユイがサキちゃんの胸に飛び込んで行く。その背中はまだ震えて続けていた。





 俺は警察署に居る。

 被害者の親達も駆け付けて来ていた。

 警官は、聞きにくい事を三人の女の子に確認している。顔を伏せて震えながら首を横に振る女の子達。俺にも聞いて来た。


「間に合った。未遂で助けたから、その子達を婦人科に診せる必要はないよ」


 加害者の一人は肋骨骨折と右肩の脱臼。鼻もやっぱり折れたらしい。もう一人は右手の小指と薬指の骨折と睾丸強打でナンタラカンタラ。治療が優先されて取り調べはまだだ。


 俺は別室に呼ばれ、私服刑事から問いただされた。


「やり過ぎだ。本当に素手でやったのか? 武器を持ってたんじゃないのか?」

「素手だよ」

「あんた、まさか空手やボクシングはやってないだろうな?」

「まさか。子供の頃に剣道やったくらいだって。何でそんな事聞くの?」


 苦々しく吐き出すようにその刑事が言う。


「過剰防衛で訴えられるぞ。あんたは無傷だが、向こうは重傷だ。分かるか? 中学生の女の子達の親御さんが、レイプ未遂で訴えると思うか? 世間に娘を晒す事になるんだぞ。好奇な目を向ける心ない人もいる。被害届が出るとは思えないんだ。実際にレイプされたって、被害届が出なけりゃ何も出来ない。被害者が手を挙げてくれれば、相手は二人だ。ただのレイプじゃない、輪姦だ。合意だったなんて逃げ道は無いが……被害届が無いかぎり、事件にはできないんだよ。せいぜい、殴られた男の子への暴行だけだ。それにしたって、あんたの暴行の方が遥かに強烈だ………参った。とりあえず、今日は泊まてってもらうからな」



 部屋の外で怒鳴り声がする。


「なんで丞之介が悪者にされるの!! おかしいでしょ! ちょっとお巡りさん、何とか言って! どうなってんの! 法律ってそうなの! よく調べて! そんなバカな話しがあるわけないでしょ! お願い、もっとよく調べて!!」



 サキちゃんの声だ。泣きながら叫んでるようだ。


 俺はどう言う訳か、妙に冷めていた。ムキになって自分の正当性を訴える気にならない。なんだか眠い。

 俺を部屋に残して出て行った刑事。一人ボンヤリと考えていた。


 いいよ、サキちゃん。俺、聞かれたらハッキリ言うつもりだ。殴り掛かった時、何を考えていたか。殺意に近い感情があった。少なくとも半殺しにしようと俺は飛び込んで行った。

 そして、のたうち回ってるあいつら見下ろして、ザマーみろって思ってた。

 きっと、なるようにしかならない。だから、もういいよ。


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