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  作者: シグマ君
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卑屈

 サキちゃんの家での晩飯です。四角い食卓に座る順番は何時も早い者勝ち。

 俺の隣は勿論……ユイですた。真向かいは、今日こそは…姐さん。サキちゃんは、何時ものように斜め向こうで、遠いわ。


 しかし、何時もながら、このメンバーでの飯は長い。俺は既に食い終わってウィスキーを飲んでいるのだが、いやいやいや、なんて言うのか、まぁまぁまぁ、よく喋ること喋ること。まるで、何年ぶりかで会った友達と、積もる話も云々かんぬんって感じだわ。


 ますみさんが台所に立った途端、ユイが俺とサキちゃんの事を根掘り葉掘り聞き出そうとします。真っ赤な顔で必死に防御しているサキちゃん。


「サキちゃん、シグマとチューってどんな感じー?」

「そっ、そっ、それは……普通だよー。うん、普通」

「普通じゃ分かんない。……ねぇねぇねぇ、舌って絡ませるんでしょ?」

「シタ!! からっ、からっ……どっ、どうだったかなーー……アハ、アハ……アハハハハ」

「エッチしちゃった?」

「ひっ……」

「あーー! サキちゃん、セックスしたんだ!」


 こいつは、どんだけストレートの玉投げたら気が済むんだ。全く防御出来ずにトイレに退散してゆくサキちゃん。ユイが追いかけて行きます。

 ますみさんが戻ってきた。


「ヒッヒッヒッヒ、ついにやったかい。そうかいそうかい、うんうん。それで?」


 似た者親子だ。


「それでって……」

「400字詰め原稿用紙20枚。いや、30枚だね。事細かに描写したら50枚はイケるか?」

「なっ、何を書けって言うの?」

「どんなポジションでー、どっから攻めてー、敵はどう抵抗してー、でも、身体は正直でしたってのを、事細かく文字に起こすの。後でじっくり読んでやるから」


 暫くして満足気な表情で戻ってきたユイ。その後ろから来たサキちゃんは俺を睨んでる。なんで助けてくれないの。と、その目は言っております。悪いけど二人でやって欲しいわ、叔母と姪なんだからさ。俺は俺で大変なんだから。君の姉が困ったちゃんで。


「シグマ、サキちゃんの事どんだけスキ?」


 げっ……ユイまで俺に食いつくか。サキちゃんは、ヒッヒッヒって顔だよ。

 俺が口ごもっていると、「ほらほらほら、純真無垢な子供の素朴な疑問だよ。ちゃんと答えてあげなきゃ」と姐さんが煽る。ちょっとちょっと、貴方の娘はどう見ても小悪魔です。純真無垢って天使のような子供に使う言葉でしょ。


「へ〜〜、シグマも赤面するんだ。サキちゃんはいっつもだけどね」


 ほらほら、これが天使の吐く言葉か? 普通にセックスって言葉も口に出すし。俺だってあんまり使わないだろ。


「シグマ、はーやーくー」

「こっ、言葉じゃ……あれだ」

「あれって何?」


 くっそー、憎たらしいチビだぜ。


「だからね、言葉にしちゃうとさ……なんて言うのか、陳腐になるって言うか……言った本人でも、なんか違うよなって感じって………分かるか? 分かれ!」

「ぜーーぜん分かんない。でも今日はこれくらいで許しちゃる。可哀想だから」


 あははは……許してくれましたよ。可哀想だとか言って。中学2年生に。俺も、自分がこのての話が苦手だって初めて知ったわ。情けねぇぇ。



 ようやっと長かった夕飯も終わり、今度は何故だか体重の話しに。女の人って、皆んな自分のこと太ってると思ってんのかね? ユイまで体重を気にしてるみたいだ。そのユイ、「シグマ、体重なんぼ?」と聞いてきたが、ここ一年くらい体重計に乗った記憶がない。


「65ぐらいじゃないかな」


 サキちゃんが俺の脇腹をサワサワしながら、「それって細いの? 太ってないのは知ってるけど」と言っているが、そこ弱いんだから触んないで欲しいんですけど。


「シグマ、腹筋割れてる?」


 俺の唯一の自慢が身体なのです。甘い物が好きな割りには燃焼が良いのか脂肪がつかない。それと、腹筋運動と腕立てはクセになってまして、最近はサキちゃんを背中に乗せて腕立てをやってます。ユイに「ほれ見ろ」とシャツを捲って腹を見せてやると、


「うわっ! カッケーーーー!! 何個に割れてんの? 1つ、2つ、3つ 、上から4段も数えれるじゃん。スッゲーーー!」

「えーーー! なんか凄い……」


 そう言ったサキちゃんの顔を、俺も姐さんも「え?」って表情で見た。いっつも俺がシャワー浴びてると覗きにくるクセして、いったいどこ見てたんだよ。ユイも、「セック…」って言いかけて、慌てて口を閉じていた。さすがに母親の前では言えないらしい。


「シグ、ちょっと触らせて。あら……堅い。へ〜〜、驚き。私のお腹、プニュプニュしてんだよね。どうやってんの?」


 サキちゃんも、「そんなに堅いの? 私にも触らせて」と、サワサワしている。

 俺の腹筋運動は極めてシンプルです。柱に頭を付けて仰向けに寝ます。そんで、その柱を両腕で掴んで、肩で逆立ちをするんです。そのまま身体を真っ直ぐにピーんと伸ばしながら、ゆっくりと息を吐きながら、垂直になっていた身体を下ろしていきます。その時、お尻が先に落ちて身体が「く」の字にならないように注意です。そして、お尻と足が床ギリギリのとこで止めるのです。これを10セット繰り返す。これってメチャメチャにキツイから、すぐに筋肉を追い込むこと間違いなしだし、腹筋、背筋、胸筋全部に効く。マシーンを使う必要も無ければ、ジムに通うこともない。


 俺の説明を聞いた三人の女が、さっそくやってますが、「ぐっ、ぐぅぅぅぅ……」と、完全に息を止めて、顔を真っ赤に踏ん張ってはいるが、一度もできずに挫折です。ああ、これって女の人にはムリか。ユイが、ちょっと惜しかったが、ゼイゼイ荒い息を吐いて床に伸びてる姐さんとサキちゃん。


「ママりんとサキちゃんって、体重なんぼ?」


 その言葉に、母親と叔母が跳ね起きました。


「ダメ!」

「言えない!」


「サキちゃんの身体って、女らしいと思うけどな〜」

「私はどうよ!!」

「おおおお……姐さんもだって。うんうん、間違いねぇぇ」



 ヘルスメーターに乗ることに。3人の女どもは異様にハイテンションだ。聞くと、普段このマシーンに乗るのはユイだけらしい。なんでよ? 体重気になるなら乗るだろ。この女性の心理ってヤツは、まるで理解できん。


 姐さんとサキちゃんは、替わりばんこにヘルスメーターを片足でチョンと触っては、目をギラギラさせてキャーキャー言ってる。

 結局、乗るには乗るのだが、一人で乗るのは死んでも嫌だと、2人いっぺんに乗ることになった。どうやら、計りたいのは間違いなさそうだが、不思議だ。


 でも、2人で乗ったら、メーター振り切っちゃうんじゃないかと思ったら、デジタル式でした。これって、200キロでも300キロでもOKか?


 まずは、姐さんがユイをおんぶして乗った途端。


「ギャアアアアアアアアア!! みっ、見るなーーーーーーーーー!!」


 飛び降りました。険しい表情で肩で息をしている。サキちゃんは、手で口を押さえて姐さんを見ている。真剣だよ。

 俺は、ちょっと笑いそうになったけど止めた。笑える雰囲気じゃない事を一瞬で理解した。笑っちまったら、相当にヤバかったぜ。

 次は俺とサキちゃんだ。モジミジしてヘルスメーターと俺を交互に見ているサキちゃんを、一気に抱き上げた。


「あっ……ちょっとシグ君……」

「あああああああああ!! お姫様抱っこ! ズリーーーー! ウチもーーーーーーー!」


 ユイが後ろから飛び付いて、俺の首にぶら下がった。


「グッ……グッ……グルジイ………くび……くび……」


 暫くぶら下がっていたユイがやっと離れたけど、サキちゃん降ろすの勿体無いな。「シグマ! 次、ウチ! ウチも抱っこ!」と、ユイが追いかけてくる。サキちゃんをだっこしたままでの鬼ごっこが始まる。


「ちょっ、危ない、落ちちゃう〜〜」


 などと言いながら、俺の首に抱きついて来たサキちゃん。ひっひっひっひ。

 そんなドタバタの最中に電話が鳴り、プンプンに怒ったユイが、


「……はい……はい……そうですが……あなたは? お名前言って」


 振り向いたユイがサキちゃんを呼ぶ。「サキちゃん、会社のKさんって男の人から……」って。Kさんってアイツだよ。由美ちゃんの元彼だ。そんでもって、奈緒と一緒の時、偶然、会っちまった奴だ。

 居間に置いてある固定電話。サキちゃんの背中が見える。


「まただ。またアイツだよ。バッカじゃないの!!」

「ユイ、しーーーーーっ! 電話、聞こえちゃうでしょ」

「聞こえるように言ってんだもん。だって、今って何時? 夜の10時過ぎだよ。いっつも、この時間に掛けてくるし」

「まぁ、確かにそうだけど………仕事の関係なんでしょ。きっと」

「前からサキちゃん嫌がってたもん。ウチ分かるんだもん」

「……」

「ウチ、ちょっとしか喋ってないけどぉぉ、あの喋り方って、超ゲロって感じーー」


 30分くらい喋っているサキちゃん。一度もこっちを振り向こうとはしない。


「はい……いえ、もうそんな……はい……はい……ありがとうございます。……え?……お食事ですか? それは、前にも言ったはずです。……違います。誤解されたら困ります。はい……ええ………そんな事は気にしないでください」


 なかなか電話を切らせてくれないようだ。

 聞いていられない。俺は、昔から、こんなシチュエーションに弱い。顔に出てしまうのだ。そんな時の俺を、誰かに見られるのも死ぬほど嫌だった。

 何も言わずに居間を出て行く俺を、ますみさんとユイの視線が追いかけて来る。ダメだ。そんな女々しい自分が、どうしようもなく嫌いだ。


 台所の換気扇のスイッチを入れ、タバコに火をつけたが、居間での声がまだ聞こえる。サキちゃんが電話で喋っている声が。

 居た堪れない。なんで俺は台所に来ちゃったんだ。ユイもますみさんも、俺のピリピリした雰囲気を感じ取ったのか、台所に顔を出そうとしない。吸っていたタバコが灰に替わった。居間に戻ろうか? でも、どんな顔すりゃーいいんだよ。普通の顔、出来るのか?

 2本目のタバコに火をつけていた。サキちゃんの電話が終わったようで、ますみさんと喋っている。


「なんか、仕事でトラブル?」

「う〜うん、違う」

「話の断片しか分かんないけど、サキ、食事に誘われてるの?」

「え……」


 口ごもっているサキちゃんの様子が目に浮かんだ。俺、ここに居ない方がいいのかな。ユイの大きな声が響いてくる。


「サキちゃん、そうなの? お食事に行こうって言われてんの?」

「うん………何度もお断りしてるのに」

「行ってないんだよね?」

「一回だけ……行った。でも、それだけ! それからは全部断わってる」

「なんでーーー!! サキちゃん、アイツのこと嫌いなんでしょ! 分かるもん! それなのに、なんでデートするの!」


 ユイの怒ったような声が聞こえ、ますみさんが、そんなユイをたしなめているようだ。


「サキの上司なの?」

「違うセクションの人」


 マズイ。俺は帰った方がいい。胸が苦しいし、物凄くイラついてる。帰りたいのに、帰ることが出来ない俺は、身体を動かす事も出来ずに3本目のタバコを咥えて下を向いて居た。

 サキちゃん、こっちに来ないで欲しい。今の俺を見せたくない。だが、足音が近寄って来ている。


「シグ君……」

「……俺……ちょっと用事思い出した。帰る……」

「え……ちょっと……ゴッ、ゴメンなさい」


 止せ、謝るな。

 俺は、灰皿に火のついたタバコを押し付けていた。


「このまま帰っちゃうの……いやだ!! 怒ったまんまで帰らないで!!………お願い」

「……」

「シグ君、こっち向いて。私をちゃんと見て」


 下を向いたまま、顔を上げられなかった。ユイとますみさんが2階に行く足音が聞こえる。


「シグ君、怒ったら……私、どうしていいのか……ゴメンなさい」

「いや、違う。謝らないで。サキちゃんが悪い訳じゃないし、俺、サキちゃんに怒ってないから」

「でも……ずっと下向いて、こっち見てくれないし、凄くピリピリしてる」

「嫌なんだ、自分自身が。人に見られたくない。だから帰る」


 サキちゃんの横をすり抜け、玄関へと向かった。

 まだ付き合って間もない。もしかしたら、これでダメになるかも。俺が原因だ。サキちゃんは全く悪くない。きっと、こんな気難しい俺に嫌気が差すはずだ。


「待ってって!! 丞之介、帰んないで!! こんな夜遅くに、男の人から電話が来たから怒ってるんでしょ。シグ君来てるのに、それなのに……一時間もその人と喋ってたから……それに……前に街で2人で食事してた人だから。でも、何でもないんだよ、好きなのシグ君だけだもん」


 背中に聞こえるサキちゃんの声は泣いていた。


「知ってる。サキちゃんは悪く無い。原因は俺。どうしようもないんだ」

「どういう事? どうしようもないって……なんのことなの?」

「上手く言えないし、言いたくない」


 振り向こうとしない俺にイラついたのか、サキちゃんが回り込んで正面に立つ。


「ズルイ! そんな言い方されたら……私……私……どうしたらいいの!!」

「うん、きっとズルイ。俺も嫌いなんだ、こんな自分が。気にしないで……ちょっと頭冷やして来るから。見ないで欲しい。悪いけど一人にさせて」

「嫌いだなんて………私、丞之介のこと嫌いだなんて言ってない……」


 ああ、ダメだ。サキちゃんと言い合いなんかしたくないのに、どんどん会話がおかしな具合になってゆく。俺は吹っ切れていない自分を思い知った。言えないのだ。サキちゃんに対して、素直に自分の気持ちをぶつける事が出来ない。それと、もう一人の俺の囁きがずっと聞こえる。



 ほら、言わんこっちゃない。お前みたいな過去を持ってる奴は、そもそも面倒なんだよ。自分でも分かってんだろ? 彼女にはお前じゃダメだ。もっと、簡単な男じゃなきゃ、彼女を疲れさせるだけだ。釣り合わないって事は、こう言う事なんだよ。出来るのか? お前のグチャグチャな思いを彼女にに伝える事が出来るか? お前の性格じゃ無理だろ。言えないんだよ。それでも彼女が分かればいいさ。分かる訳がないだろーが。普通、誰だって分からないことなんだから、分かれって求める方がムリってもんだ。それくらいは、バカなお前にだって分かってるはずだ。もう、彼女を苦しめるな。とっとと消えろ。彼女を自由にしてやれ。

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