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  作者: シグマ君
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叱責

 背筋をピンとして正座をしている女性。肩を怒らせ顎を引き、腕は真っ直ぐに伸ばし膝の上に置かれた手はギッチリと拳を握っている。そう、誰が見ても、彼女が怒っていると思うだろう姿勢だ。

 つり上がった眉と膨らませた頬。口も尖んがってるわ。もう完全だ。相当に怒ってる。


「どうしてーー! ちゃんと説明して! 急にあんなことしてーー! だっ、だめなんだからね!」

「い、いや……その…さっきのは…」

「いい!! 聞きたくない! 動かないで! ちゃんと座ってなさい二人とも! 私、怒ってんだからね! 分かってんの! 反省して!!」

「はい…」


 俺もしっかり正座だ。さっき、ちょっとだけ足を崩そうとしたらメッチャ怒られた。そんな俺の隣で、ベロも垂れてる耳を更に下げた情け無い顔でお座りをしている。

 サキちゃんに叱られてるのは俺とベロだ。それが分かっているのか、「くぅぅぅ」などと、喉の奥から変な声を出している。


「そんな声出してもダメ! 私が納得するまで、ちゃんと座って……あ! ダメーーー! そっ、それ……ダメーーー!!」


 神妙な顔でお座りしていたベロ君。何かを見つけたらしく、タタタターって走って行って鼻先をくっ付けてクンクンやりだした。丸まった布だ。可愛い花柄。

 サキちゃんが回転レシーブのように飛び込みました。が、タッチの差でベロが早い。それを咥えて、振向き振向き逃げてゆく。あ……あれって…


 今日に限って膝上のスカートを穿いていたサキちゃん。飛び込んだ拍子にスカートが捲れ上がってご開帳だよ。裏返しになったカエルのような格好で逃げたベロを見てる。


「ダメーーー! 丞之介、何時まで座ってんの! パンツ取り返し……ああああ!! またそんなんなって……」




 1時間くらい前


 バイトから帰ってきた俺は、車庫でお留守番していたベロと一緒に家に入り、晩飯のドックフードを器に入れてあげたところだ。時間は夜の8時を過ぎている。


 今日はバレーボールのサークルに出掛けたサキちゃん。それもあって、バイト帰りにラーメンを食ってきた。

 最近は、どっちかの家で一緒に晩飯を食べるのが当たり前となり、サキちゃんがいないと、家で飯を食べる気になれない。


 ベロも晩飯を食い終わったようだし、掃除機でも掛けましょうか。案外、綺麗好きなんです。

 あれ……ちょっと身体が汗臭いか?


 極端に清潔症ではないのだが、帰って来てシャワーを浴びてスッキリしてから晩飯を食う。それと、朝のシャワーも何時の間にやらクセになってしまい、厳寒期だろうと一日に2回シャワーを浴びる生活です。そう言えば、独身に戻ってから家の風呂って入って無いかも。


 どうしようかな。今日は晩飯も食っちまったし、サキちゃんも来ないし、シャワーやめようかな。でも暇だし、やっぱり浴びることに。


 全身にボディーソープを泡だててゴシゴシやってると、サキちゃんの顔が浮かんできた。


 最近のサキちゃんは凄くエッチだ。俺がシャワーを浴びていると必ず覗きに来る。「ねぇねぇ、シグ君」な〜んて言いながら、用事でもあるようなフリして風呂の扉を開けてくるのだ。そして目をキラキラさせながら俺のヘソ下三寸に視線を向けたままで、何だか支離滅裂なことを言う。魂胆がバレバレ。

 そんなんで、色々とご無沙汰です。今日はサキちゃん居ないし、ちょいとしちゃいましょ。


 左手で壁に持たれて目を瞑り、右手君が一生懸命働いてます。うむうむ……



「シグ君…………あ」

「え……」



 うそ…サキちゃん…見てる?!

 自分の世界に没頭し過ぎてた。いつ来た? なんで? バレーは? ヤバいだろこれは。誤魔化せるか? そうだ、洗ってたんだ。泡だってついてる。……げっ、右手君が働き続けてる。ダメか? バレバレか? いや、まだきっと大丈夫だ。


 暫く開いていた扉が閉められました。見られちまったよ。ひぇぇぇぇぇぇ。


「シグ君に聞きたいことある」

「……」


 再び扉を開けられました。俺は、さっきと全く変わらぬ姿形のままです。辛うじて働き者の右手君は休んでいますが、位置が変わっていません。バカ、離せって。


「シグ君、どーして私を抱かないの! いっつも一人でしてるの!」


 怒ってます。俺の下半身を睨みながら。


「い、いや…いっつもじゃ……」

「こっち来て!」

「まっ、待って……」

「ダメ! 今すぐ!」


 サキちゃんに手を引っ張られ、びしょ濡れのまんまで居間に連れ出された俺。何をどうしたら良いのか頭が働きません。タオルもありません。


「座って!」


 正面にサキちゃんが正座をしているので、俺も正座するが、遮断機が下がらない。


「手で隠さないで!!」

「ひぃぃぃ…」



 指を差して、「どうしてそうなってんの! 話があるんだから何とかして!!」と怒ってる。そんな事を言われて、すぐに何とか出来る♂はおりません。



「今日、サークルで太郎君と静香ちゃんに会った。私にシグ君の事全然聞いて来ないから、変だな〜って思って、私の方から言ったの。今、付き合ってるんだよって。そしたら、凄くビックリしてた。どうして内緒にしてるの? 私と付き合ってるって言えない何かあるの? 全然、エッチもしようとしないし……だからサークルの途中で抜けて帰ってきたら……お風呂で場でしてた。どうして? 私のこと好きだって言ってたのウソなの? もっと好きな人がいるの? その人としてるの?」


 目にいっぱい涙を溜めて、唇を震わせている。


「ちっ、違う……違うんだ。今だってサキちゃんのこと想像して……」

「え……」

「あ………」


 暫く、二人とも言葉が出ません。


「……想像して…するなんて、すっごくエッチだ!!」

「そっ、そんな〜……サキちゃんしてないの?」

「えっ……そっ、そりゃ〜………私だって大人だもん……するよーー…いいの! そんなこと全然関係ないの! 私のことなんてどーーーだっていいの!……そんなことよりー、本当に私の事が好きなのか聞きたい!」

「大好き」

「………どれくらい?」

「世界中の誰よりも一番好き」

「ム〜〜………だったら、なんで太郎君に私と付き合ってるって内緒にしてたのーー?」



 いや、そうだよ、俺のせいだ。俺が中途半端なせいでサキちゃんに恥ずかしい思いをさせちゃったんだ。

 ダメだ、サキちゃんの顔をみれないや。


「シグ君……なんとか言って! 下を向かないで!」

「ごめん……ほんとごめん」

「丞之介!! それってズルい! 謝ってなんか欲しくない! 太郎君って丞之介の友達でしょ? その友達に私の事を言えない理由が聞きたいの 。どうして? ちゃんと言ってくれなきゃ分からないしでしょ」



 サキちゃんが言ってる事はもっともだよ。だけど、それを説明するのって苦手なんだよ。自分の胸の内をーー弱い部分を人にさらけ出すことが出来ない。


「怖かったんだ…」

「怖いって……何が?」

「上手く言えないけど……今も怖い」

「それじゃ分かんないでしょ。いいから全部言って!」



 俺は思っていたことを口に出した。ほんとに初めてだった。人に自分の弱さを曝け出すのって勇気がいる。とてもじゃないけど、顔を上げることが出来ない。


 俺は一度結婚に失敗している。言わばバツイチだ。それ自体は恥ずかしいことだなんて思ってはいない。だけどサキちゃんみたいにキラキラしている人には、バツイチの男じゃ不釣合いだと、もう一人の俺が囁いてる。お前じゃダメだ。お前みたいな奴じゃ、彼女は恥ずかしくて誰にも紹介なんか出来る訳ねぇだろ。身の程を知れって声が聞こえる。


 太郎や静香に、サキちゃんが俺の彼女なんだって自慢したい。ずっと前、それこそ小学校の時の初恋の人が、今の俺の女なんだって。でも、出来なかった。

 静香がサキちゃんに言うだろう。「サキ先輩、シグマと付き合ってるんですか? 何時からです? どうやって知り合ったんですか?」って。太郎もきっと言う。「サキ先輩は知ってたんっすか? シグマの野郎の初恋って、サキ先輩なんですよ」って。

 その都度、困った顔で返事も出来ないサキちゃんの姿が、どうしても目に浮かんでしまう。

 そんな事を、詰まりながら、つっかかりながら俺は口に出していた。


「シグ君、どうして……バカーーー!!」


 そう怒鳴って立ち上がったサキちゃんが泣いていた。そして、玄関から飛び出して行く。なぜかベロも。



「サキちゃん、待って! 待ってくれ!…………あっ」



 追いかけようとしたのだが、頭からつんのめってしまった。足の感覚がゼロだ。全く何も感じなければ、力を入れることも出来ない。正座をしていた時間が長過ぎて、足が痺れた。

 よりによって、こんな時に俺の足は何なんだ。

 四つん這いで感覚が戻るのを待っていると、来ましたよ感覚が。


「うぎっ………ひっ…………」


 何て言ったら良いのか、とにかく感覚が戻ってくる時のジンジン感は言葉では言い表せない。四つん這いで床に頭を擦り付けて耐えるしかない。



「之介丞! どうして追っ掛けて来ないの! 丞之……え? ちょっとシグ君、どうしたの?」

「ワンワンワン」


 サキちゃんが何故だか戻って来て、蹲ってる俺を見下ろしている。ベロも一緒だ。


「う〜〜、足……足が………痺れちまって……」

「足が痺れた??」


 また飛び出して行くんじゃないかと、まだ立ち上がる事も足を触る事も出来ない俺は、必死に右手をサキちゃんの方に伸ばしていた。


「キャ! 痛ーーーっ!」


 伸ばした右手が何かを掴んだ。見ると、サキちゃんのパンツを足首までズリ下げていた俺の右手。指の間には数本の縮れた毛までありやがった。


「え??」


 すぐさまサキちゃんのお尻がドスンと落ちてきて、そのままバランスを崩し、仰向けにひっくり返ってしまったサキちゃん。


 スカートが捲れ上がり、立てた両膝が俺の目の前で開いている。うわっ、これはマズイ! こう言う時の俺の反応は早い。間髪入れずに抱き起こそうと近寄った。が、痺れた足が付いて来ないもんで、サキちゃんのモロ出しのアソコに顔面をぶつけた。


「ギャン!!」




 目の前にサキちゃんが正座してます。俺に脱がされたパンツを両手で握りしめて。その隣にはベロもお座りしてる。お前は誰がご主人様だか分かってんのか?



「パンツ下げられて毛も毟られた!! アソコに歯ぁ立てられて痛かった!!」



 怒ってます。でも、さっきと違う理由です。


「いや…その〜アハハ……ゴメンね」

「え? なに…どうしたの、その口? ………プッ……プーーーーーーー」


 突然吹き出したサキちゃん。なんだ? 口?


「ギャーーーーーーーーーーハハハハハハハハハ、ヒーーーーーーーーーーーーッヒッヒッヒッヒッヒ、ズッ、ズルーーーーーーイ、ぎゃはははははは、グルジィィィ…………やめてーーーーー助けてーーーーーー、いやーーーー、ぎゃははははははは……どうして……あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ……そんな口してるの……やめて……死ぬ、死ぬ、死んじゃうってーーーーー」


 後ろに手を付いて、身体を仰け反らせて笑狂ってる。何が何だか分からないが、俺の口が可笑しいのだろう。とにかく触ってみると直ぐに分かりました。前歯の一本が無い。

 さっきサキちゃんの股間に歯をぶつけた時だ。差し歯がとれちまった。「あははははははは………」と、俺も笑ってるし。


「ギャーーーーーーーーーーハハハハハハハハハ、やめてーーーーーーー、口、口、くちーーーー、開かないでーーーーーー、ヒーーーーーーーーーーーー」


 歯が一本無い顔というものは、どんなハンサムな奴であろうが、それだけで死ぬ程マヌケ面になる。床をのたうち回って、笑ってるんだか苦しんでるんだか分からないサキちゃん。スカートが捲り上がってるなんてもんじゃない。ただの下半身スッポンポンだ。

 そんな女の人が目の前で、足をジタバタしたり股を広げたりしてるのだ。理性的でいられる♂は♂じゃない。

 はい、足の痺れをおして、行きました。


「あ…だめ……シグ君ダメ〜〜」


 ダメよダメよも良いのうち。などと昔の人は言っていたはずだ。そんな事が頭に浮かびます。サキちゃんは顔を手で覆い隠し、もう、何も言わなくなった。

 手を除けて口付けをする。そして、少し顔を離すように上から見下ろすと、目を閉じたサキちゃんの顔が桜色に染まって頬が輝いていた。


「綺麗だ」

「見ないで…………ん? んーーーーーーーーー」


 いつの間にか直ぐ傍に来ていたベロ。目を閉じてるサキちゃんの顔をペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ………


「べ、ベロちゃん??!! あちに行って〜。ダメ〜〜、イヤだ〜〜」


 ベロの身体を向こうへ押しやるのだが、何を思ったのか尻尾を振って何度も寄ってくるベロ。




 目の前で正座をして怒ってるサキちゃん。俺もキッチリ正座です。ベロと一緒に叱られてます。


「丞之介!! ベロちゃん!! ちゃんと反省して!!」

「はい……」

「くぅぅぅ……」

「私、初めてだったんだからね!! 分かってるの! 初めてなのに…… いきなりパンツ下げられて、毛も毟られて、大事な場所に歯ぁ立てられて……… ベロちゃんにずっと顔舐められてた! ペロペロペロペロって……そんなのってある? もっとロマンチックなものだって思ってたのに……どーしてーー!!」



 とってもとっても怒ってるサキちゃん。確かに今日の出来事は一生忘れることが出来ないと思う。ゴメンよ〜。


「丞之介に責任とってもらう。絶対に」


 そのうち、ベロが向こうに落ちていたサキちゃんのパンツを見つけ、咥えて逃げて行った。回転レシーブのように飛び込んだサキちゃんは仰向けにひっくり返ってます。


「ダメーー!! 丞之介! いつまで座ってんの! パンツ取り返してーーー!!」


 はい、すみません。足が痺れて立てません。

 ベロとサキちゃんがパンツを引っ張りあってます。そのうち、ベロの口に手をかけたサキちゃんが、無理やり口を開かせてパンツを無事に回収です。はい、良かった良かった。


「あーーー、お気に入りのパンツ、破けちゃってるーーー」


 足の痺れが治まった俺は、差し歯を探してました。


「あ! あった!」


 振り向くと、ギロっと睨んでいるサキちゃんと目が合っちゃいまして、もう一度正座の姿勢に戻ります。


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