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  作者: シグマ君
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二人ぼっち その1

『来月の8日に披露宴するから来てね*\(^o^)/*』


 さっきからずっと携帯の画面を見ているのだが、どう考えても意味が分からん。


 誰だ?

 披露宴って何だ?


 来月の8日って、あと2週間だよな。再来週の日曜日だ。

 誰が俺に送って来たメールなのかも、何の披露宴なのかも分からんときた。でも、何かを披露するんだろうな…きっと。宴だよ宴。「宴もたけなわですが」の宴だ。宴会だよな。

 この文面、男は考え難いな。うん、女だよ女。

 最後の絵文字、万歳してる奴が喜んでんだろうな。絵文字と言えばユイか? ユイが何のお披露目をする? 違うだろ。やっぱり結婚披露宴だよな。誰よ?

 知り合いで結婚しそうな奴……いねぇし、間違いメール? 見ず知らずの奴からか? そんな間違いあるのか? 電話じゃあるまいし。


「ん!! すみれか?! 確か結婚を前提としてお付き合いがどうたら言ってたよな」


 思わず声に出していた。隣で丸まってるベロが「なに?」って感じで顔を上げた。その表情は、「アホか。ある訳ねぇだろ」と言っている。


「あ〜、そうだよな。いくらなんでも別れた亭主を結婚披露宴には呼ばんわな……お! もうこんな時間か」


 今日はサキちゃんと二人でプラネタリウムを見に行く約束をしている。この街にもあるが、そこでは近過るから、ちょっと遠くの街のプラネタリウムまでドライブがてらにお出かけだぜ。




 家の前に迎えに行き、俺が車から降りると玄関からサキちゃんが出て来た。小走りで駆けて来る。可愛いーーー! もう、可愛くて可愛くてどうしようもなくって、苛めたくなる。それって変かな…


「シグ君、早く行こ行こ」


 そう言って助手席に乗り込もうとしているサキちゃんを捕まえて、正面からギューって抱きしめた。背の高いサキちゃんの顔が、息が掛かる距離にある。いい匂い。今日はスキニーパンツのさきちゃん。ヤバイ、エロ過ぎる。

 サキちゃんは殆どスカートを履かない。いつもボーイッシュな格好だ。背が170くらいあって足も長いしよく似合う。ずっとバレーをやっていたせいで活発なファッションが好みなのか、いつもピッタリしたジーパンを履いている。ちょっとスケベな俺は目のやり場に全く困らない。うひひひひ。


「ん?」

「サキちゃん、チューは?」

「うん、チュッ」

「え、それだけ?」

「うん、それ以上は…あ…ダメ〜〜」


 玄関からユイが、「あーーー! シグマ、サキちゃんのお尻触ってるーー! エッチだーーー!」と、指を差して叫んでる。

 慌てて助手席に乗り込むサキちゃんと、にこやかにユイに手を振る俺。ユイが中指を立てて見送ってくれてます。

 サキちゃんと二人でプラネタリウムに向かって車でゴーーー!!


 助手席で眉を寄せて睨んでいるサキちゃん。


「シグ君に、またお尻触られた」

「うん、いいの」

「ど〜してーーー?」

「サキちゃんの身体、柔らかくて気持ちいいから」

「う〜〜〜エッチだ〜」

「触ったらダメなの?」

「……いーよーー」

「ひっひっひっひ」

「なんか憎たらしい」


 あ〜、俺はこの人に恋してる。

 傍にいたい。ずっとずっといつもいつも、くっついて温もりを感じたい。

 触ってると安心する。不安な事なんて何も感じない。


 姐さんは、「まだヤってないのかい。焦れったいね〜。ズバっと決めちゃいな。ズバっと」と、女郎屋のやり手ババアみたいな事を俺の顔を見るたびに言ってくる。

 でも不思議だ。なんでなんだろう。サキちゃんの身体を強く抱きしめながらイタズラをする。深くて長い口づけもする。その都度、俺は反応しちゃうし、サキちゃんもそれを知ってて、頬を赤らめる。昨日の晩は、サキちゃんと姐さんとユイと4人で晩飯を食った。サキちゃんがトイレに行って、ユイが別の部屋で友達と携帯で喋っている時に姐さんが、


「オナニーばっかしてんじゃないって。シグ、あんたって案外意気地なし?」


 と、すれ違いざまに言われた。はい、ご指摘の通りオナニーしてます。健全な好青年なんだからしょうがないでしょ。でもサキちゃんをギューって強く抱きしめて、チューしてサワサワして、それだけで凄く満ち足りた気持ちになる。

 サキちゃんとエッチしたいし、他の男には絶対に触らせたくないのに。




「私ね、プラネタリウムって初めて〜。なんだかドキドキしちゃう」


 車の中で嬉しそうにそんな事を言っているサキちゃん。俺も初めてで、確かにワクワクしながら運転していた。


「シグ君、星座って何々分かる?」

「……まったくムリ」

「ぇ……全然?」

「うん……サキちゃん分かるの?」

「ちょびっとね」

「へ〜〜、すっげーーなー。それってさ〜どうやって分かるの?」

「え……シグ君…本気で聞いてる?」

「本気って?」

「……ちょっとだけ冗談言ってるかな〜〜って」

「いや、星座って何一つ知らん…けど」

「え……あ〜〜………そっか」


 よく理数系って、数学と理科系をセットみたいに言ったり聞いたりするけど、あれはウソだ。数学は理論的で楽しい。解けた時なんて、カ…イ…カ…ン…って感じ。でも理科系は、科学も化学も物理も何もかもゼーーーンブ完全にアレルギー。中学の時に悟っちまったもん。俺の人生で、この学問は必要ナッシングだって。うんうん、知らんくても絶対に困らん。どう考えても覚える目的を見出せんわ。

 そんなんで、星座の件も小学生レベルの俺。いや、もっと低いかも。


「サキちゃん、星座の全く分からん男って……ダメ?」

「え……アハハハハハ、シグ君、カワイイ。そんなの知らなくても、なんともないよ。ちょっとビックリしただけだよ。名前くらいは知ってるんでしょ?」

「ああ、星座の名前はけっこう知ってる」

「なら、天体望遠鏡で教えてあげる」

「うん。空見て、あれが何座だって分かるのって、やっぱりスゲー。星と星に線引いてる訳じゃないだろ。どうやって分かる?」

「ん? 線引いてるって??」

「あれ、教科書とか図鑑の星座ってさ、動物とかの形に線引いてあるじゃん。でも実際には線なんかないし」

「え……グッ…ググググ……」


 変な声を出して下を向いてしまった。


「???」

「ごっ、ごめん……笑うつもりじゃ……キャハハハハハ、可笑しいーーー、ひっひっひっひ…苦しいーーー、アハハハハハ……ゴメーーン」

「??………やっぱり、おかしいのかな…俺の言った事って。でも……笑過ぎ」

「えええ? ゴメンね〜〜、でも……アハハハハハ、あーーーー!! シグ君ダメーーーーー! ダメダメダメ! やめてーーーーーー! ゴメンゴメンゴメン、ヒーーーーー、謝るからーーー、あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」


 俺は運転しながら左手を伸ばし、サキちゃんの脇腹をくすぐる。ドサグサに紛れてオッパイも。ゼイゼイ言ってるサキちゃん。


「ダメなんだからね!! 脇の下コチョコチョしたらーーー! オシッコ漏れそうになるんだから〜! オッパイもいっぱい触られた〜。も〜〜」

「ひっひっひっひ、サキちゃんの弱点みっけ」

「グルルルルルルル…」


 可愛い顔で睨みながら唸ってます。

 二人でじゃらけ合っている間に目的地に着いた。1時間ちょっとのドライブだったが、あっという間に過ぎてしまう。楽しい時間は早く終わる。


 車から降りて二人で手を繋いで走しり出す。まずは天体望遠鏡だ。どうやら3階に設置されているらしい。


「あったあった。サキちゃん早く」


 サキちゃんがちょっと腰を屈め、お尻を突き出すような姿勢で天体望遠鏡を覗き込む。チラチラ後ろを振り返りながら。


「シグ君、コチョコチョしないでよ。お尻触るのもなし。じゃ〜分かり易い星座からね。今は秋だから……あ! あったあった。あれが小熊座。北極星が入ってるから分かり易いよ。見て見て」

「ん? どれだ?」

「小熊のシッポが北極星。………見えた?」


 ちょっと輝きのデカイ星が見えた。


「あ…あれが北極星だな……きっと」

「ひしゃく型なの。……う〜ん…分かる?」

「ひしゃく型って、北斗七星だっけ?」


 アニメのおかげで、北斗七星がどんな型なのかを知っている俺。学校の授業よりアニメの方が役に立つってか。

 天体望遠鏡から目を外して振り返ると、サキちゃんがちょっと困ったような表情で腕を組んでいる。


「うん、違うけど…そうなの。北斗七星は大熊座で……秋には見えないと思う。あれ? 見えるんだったかな? ……いいや、どうでも。とにかく同じひしゃく型でもね、小さいの。小熊だから」

「あったあった! 分かったわ、うんうん。確かにひしゃく型だ。……でもさ、なんでひしゃくが小熊?」

「……うん…いいの。きっと誰かが勝手にそう決めちゃったんだって。そう言えば星座って、一つ一つに物語りがあるんだよね。なんだかメルヘンで素敵よね〜。シグ君、星座のお話って何か知ってる? 私ね、星座は少し分かるけど、お話って知らないの」


 空を見上げながら、うっとりした表情のサキちゃん。


「あ〜、ギリシャ神話だよね。ほとんどが全能の神ゼウスと、その嫁さんが絡むんじゃなかったかな」

「え! 知ってるの?! なんか教えて〜」

「いいけど、エロ話しが多いよ」

「えろ…??」

「そう。ゼウスが死ぬほど女好きで、ロリだろうが人の嫁だろうがお構い無いしのオヤジだから」

「お構いなし? 親父? それが全能の神?」

「うん。あ〜、白鳥座だったら、そんなにエロくないな」

「ちょっと教えてみて」


 さっきまでのうっとりと表情はなくなり、まるで、怖い話しでも聞くように眉を寄せている。


「人間界のある王国で、王の娘がまだ幼いんだけど、とびっきりの美少女だったの。名前はサキ王女」

「サキ?」

「名前忘れちゃったから、分かり易くしただけ」

「うん、それで?」

「うん、ゼウスがね、美少女で有名なサキ王女をどうしてもモノにしたかったんだけど、警護が厳しくて近寄ることができなかったんだって。女好きのゼウスが狙ってるの知ってて警戒してたから。そんでゼウスは白鳥に化けてサキ王女に近付いたの。何も知らないサキ王女は喜んでその白鳥と遊んでいたんだけど、跨がった途端に連れ去られちゃったの。ゼウスは自分の作戦が凄く上手くいったもんだから、その記念に空に白鳥座を作ったんだって」

「ゲロ……それって拉致だよ。それでサキ王女はどうなったの?」

「え……愛人って言うか、2号さんって言うか……」

「ム〜〜、なんでサキって名前にしたのーーー?」

「ゲ…それは……あ! 蟹座の話し思い出した。ちょっとだけ慈悲深いから」


 サキちゃんは腕を組んで、早く言いなさいってスタイルだ。


「ヘラクレスって知ってる?」

「うん、聞いたことあるかも。古い映画になかった?」

「あ〜、なんかあったかもね。それより、キャプテンアメリカとかヒーローがいっぱい出てくる映画に超人ハルクもいたんだけど、知らない? 筋肉ムキムキで緑色した怪力。……女の子は知らないか…その超人ハルクってヘラクレスをモチーフにしたって聞いたな」

「ふ〜ん、とにかく力持ちなんだ」

「そうそう。そのヘラクレスってゼウスの息子だったはず」

「神様の一人なんだ」

「うん、愛人に産ませた息子……あ! 違うから。サキ王女が産んだんじゃないって」

「………うん」

「サラって名前のゼウスの奥さんがね、あれ? サラって別の愛人だったかな? とにかく凄い焼き餅焼きで、ヘラクレスの事をメッチャ嫌ってたの。それで、いっつも過酷な重労働をヘラクレスに命じてたんだよね」

「ゼウスは何も言わなかったの?」

「うん、何となくだけど、いろんなエピソードから、ゼウスって奥さんに頭上がんなかった印象あるな」


 それを聞いたサキちゃん、どう言う訳だか嬉しそうだ。


「ふ〜ん。焼き餅焼きの奥さんに怒られてたんだ。うふふふふ……」

「え……うん。っで、次にサラがヘラクレスに命じたのが怪獣退治。蛇の親分みたいな怪獣で、ヒドラ。……あれ? 名前違うかも。まぁ、いいや。ヘラクレスが負けるとサラは思ってたんだけど、勝っちゃったんだよね。だけど、死んだヒドラには友達がいてね。それが蟹」

「でっかい蟹?」

「いや、小さい蟹。でもね、よくもオイラの友達をやったなーーって、ヘラクレスに向かって行ったんだよね。だけどヘラクレスが、何だお前? って、グチャって踏み潰したの」

「死んじゃったの?」

「うん、死んだ。っで、それを見ていたゼウスが、あまりにも哀れだって星座にしたの」

「………あんまりメルヘンじゃないね」

「うん、でもさ、ギリシャ神話に出て来る話しの中じゃ、けっこうまともな方だよ。メチャクチャな神さんばっかだからね。そもそも人間じゃないから、倫理観とか道徳観なんて持って無いんだわ」

「なんだかショック〜」

「そろそろ、行こうか」



 プラネタリウムが観れる部屋には誰もいなかった。

 サキちゃんと隣同士に座り、椅子を倒して上を見上げる。

 ゆっくりと動き始めた。

 あれ? 星空が動いているのか、それとも観てる方が動いているのかな?

 それは不思議な感覚だった。


 どこからか、この天体ショーの説明が聞こえ始めた。ゆっくりとした女性の声。

 まるで意識が吸い込まれるように、観える星空と導く声だけの世界に落ちてゆく。


 腕を強く掴まれ、ハッと意識が戻った。サキちゃんの手だ。


「シグマ、私を触ってて。なんだか、宇宙で独りぼっちみたいで……」


 確かに、直ぐ傍に居るはずの人の気配すら消してしまう何かがあった。目に中にまで降って来そうな星空のせいか? 数秒で何時間分もの星の動きを現しているせいか?


 腕をを伸ばしサキちゃんの身体の上に右手を置いた。


「あ…エッチ……」


 あれ? 俺、どこ触ってる?


「イヤん、そこ、動かさないで」


 天体ショーが終わるまで、ずっとそうしていよう。俺はそのまま夢を見ていた。



 圧倒的な闇に僅かな光が走るのか。

 それとも無数の輝きの隙間に闇が佇むのか。

 君は独りが怖いと言う。僕も同じだ。


 何億年前の光が届くのが今。

 誰かの声が導く尺度の無い世界で君と太古の頃に浮く。


 掌から伝わる君の全て。

 呼吸、鼓動、僅かな動きですら掌が知る。

 時間と空間は君がいるから意味があった。

 遙か古から今へ。銀河の果てからここへ。




 触れていた手に、サキちゃんの手が重ねられて目が覚めた。



「シグマ、私を抱きたい?」

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