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  作者: シグマ君
15/38

メールと電話

 ユイが怒ってます。電話で俺に。


「シグマのメールって、ぜーーーんぜんダメーーー!」


 バイトの昼休みに俺の携帯が鳴り、ユイからか…っと思いながら出ると、いきなりそれだった。


「なにが?」

「なにがって、ぜーーんぶ。ダメダメのダメーー!」


 さっき、ユイにメールを返したのだ。朝方に送られてきたメールの返事を。


「だから、なにが?」

「ふーんだ! 遅すぎ!」

「お前ね〜、前にも言ったろ。俺はそうなの。メール送ったって、急ぎの用でもなきゃ、返事なんてけっこう後になるって」

「それだけじゃないもん。シグマのメールってぇ、文字ばっか」

「なんでそれがダメなのよ」

「ウチが送ったメール、いっつもちゃんと見てんの? いっぱい絵文字とかぁ付いてるでしょ」


 ユイから送られて来るメールには、確かに、(*^^*)や(≧∇≦)が、ごちゃごちゃ出てくるのを思い出した。


「いっぱい付いてるでしょ」

「あ〜、ついてたな。おいおいおい、俺にもそんなんヤレってか?」

「あったりまえなの! 文字ばっかだったらぁ、そん時の気持ちとかがぁ、よく分かんないじゃん。だからぁ、色々と工夫するの!」

「分かったけどよ、なんでそんなに怒ってんの?」


 朝方にきたユイのメールは、


 まだ夜のアルバイトやってんの?

 寂しいよ〜ん(>人<;)

 それとも、もうおわった*\(^o^)/*


 だった。

 最初の絵文字らしきモノの意味が良く分からん。


「シグマの返事……『ああ』だけっていったいナニ? 信じらんない! ああってナニ? ああって!」

「あはは……でも意味は通じたろ」

「通じてない! どっちに、ああって言ってんの? 夜のアルバイトやってる方? それともやってない方? 」

「おおお、そっか…あんまり考えないでメール送ってたわ。とりあえず昼間のバイトに戻った」

「なら、また家出してもいい?」

「お前ね〜、ママリンがいいって言ってもダメ」

「えーーーー!! なんでーーー?」


 それから10分くらい、あーでもない、こーでもないともめ続け、ようやっと電話を切る事が出来た。それも、ユイの学校のチャイムが聞こえて渋々って感じ。

 中学校って、昼休みとかに携帯かけ放題か? ユイの奴、隠れて掛けてきたのか? また校長室に呼び出されるのは勘弁だぜ。ため息が出る。


 ユイにメールの内容を怒られた俺だが、実はメールって苦手だ。相変わらずガラケーを使っている。ネットはパソコンでやればいいとスマホだかには興味がない。

 でも携帯でメールって、キー小さすぎないか? キーの数も少ないし、文字探すのスッゲー面倒。かなり誤字る。


 だいたい、メールってお手紙だよな〜。用があるなら電話の方が早くないか? その電話ですらまどろっこしくなったら、直に会いに行くわ。そう思うのって俺だけか?


 バイトに戻ろうとしている時、マナーモードが三回。またメールだよ。ユイか?




 今日晩飯おごるから、温泉に連れて行け。 姉。



 そうです。アネキからのメールでした。

 こいつも文字ばっかのメールだ。女のくせに。確かに怒ってんだか、喜んでんだか全然分からん。

 とりあえず返事を入れておいた。



 了解。

 7時には行ける。



 まぁ、姉弟のやりとりなんて、こんなもんでしょう。


 7時ちょっと前には、アネキの住むマンションに着いていた。


「ぇえ? まだ用意できてないの? 早く行こうぜ」

「できてるって。行こう」

「ん…? 飯食って、そのまま温泉行くんだろ。食ってからもう一回戻るのって面倒だって」

「なんで戻るのさ。そのまま行こうって」

「それ……着替えないの?」

「うん」

「温泉だぜ。普通、普段着で行くだろ」

「うん、これ普段着」

「いや……ジーパンとかトレーナーとか…」

「そんなの着ないから、持ってないって」

「濃紺のワンピーで温泉って…まぁいいけどさ」

「あんた何食べたい?」

「そうだな〜、天婦羅食いたいな」

「いいね天婦羅。行こ行こ」



 天婦羅専門店、美味しいわ〜。

 自分でもけっこう料理するけど、天婦羅を揚げたことは無い。コロモ付けたりするんだろうし、それがよく分からんってのもあるが、油をどっつり使うってのが、独り暮らしには超面倒。

 でも、肉より魚より天婦羅が大好きな俺でした。

 口の周りがベロベロする。アネキの顔を見ると、唇がテカテカに光って妖しすぎる。まるでドラキュラの嫁だ。


「すみれちゃん、踏ん切りついたみたいだね」

「ああ、連絡きたの?」

「うん、この前、店に来て言ってた」

「そっか…」

「まぁ、それで良かったと思うしかないんだろうね」

「……」



 俺の元嫁のすみれは、アネキとは同級生で親友なのだ。


「あんた、大学どうするの?」

「来年まで休学して稼ぎまくる予定」

「お金のことなら、意地張るんじゃないって」

「やれるとこまで、やってみるさ」

「お父さんに会いに行きなさいよ」

「っだな。考えとくわ」

「そう言えば、花火大会の時に会ったサキちゃんって人、可愛い人だったね。付き合ってんの?」

「い…いや…そんなんじゃないって」

「ふ〜ん、いい感じに見えたんだけど、そうなんだ。人には色々あるけどね、あんた、まだ若いんだから、臆病になるんじゃないよ」

「ああ」



 9時ごろに目的の温泉に着きました。

 もう、風呂から上がった人が多い時間帯で、休憩室の前を通ると火照った顔をした10人程度が、ジュースやらを飲みながら休んでいる。


 なんだ? チラチラこっち見てるけど…


 なんだろうと俺が見ると、慌てたように目を逸らす。アネキは全く感心を示すことなくズンズン歩いて行く。

 大きな鏡の前を通って分かりましたよ。

 俺はジーパンにTシャツ。アネキは濃い紺色のワンピース。

 肩幅も広く筋肉質の俺は、背も180ちかくある。アネキは150そこそこで、顔も全く似ていない二人。

 仲の良い姉弟に見えるはずが無ぇぇ。

 それこそヤクザの女と、その舎弟の図。

 俺が原因かーーー?

 アネキだろ!!


 温泉行くのに、真っ赤な口紅付けて、濃紺のワンピースって。どうでもいいけど、普通の普段着くらい買おうぜって……頼むわ。



 アネキを送り届けて10時半には帰ってきた。車庫からベロが出たり入ったりを繰り返している。

 何やってんだ?

 よく見ると、何かを咥えながらすごい勢いで尻尾を振りまくっていた。


「なに咥えてんの?」


 それに触ろうとすると、「う〜」とか唸り出しやがった。


「パンか? ユイがくれたのか?」


 たまに、給食のパンを持ってくるユイ。一本まるまんま残してきたのをベロにもってきてくれたのだろう。

 ベロはどういう訳だか、この給食のパンを貰うと嬉しくてしかたがないのだ。「どうだ!うらやましいだろう」と、傍にいる人に見せにくるのだが、少しでも触ろうとすると、盗られると思うのか、唸る。


「まただよ、盗ったりする訳ないだろ。唸るのヤメれ」


 家の玄関を開けると、パンを咥えたままで、タタタタターっと入って行く。


「あ! ちょっと待て! 足拭いてないって」


 勝手に自分専用の部屋だと決めてる六畳間。日当りが良いのだ。その部屋の隅で蹲っているベロ。


 ベロの不思議な習性。パンは直ぐには食わない。


 そう、パンをとっておくのだ。

 パンの外側がカチカチに硬くなっても、大事に大事にとっておくベロ。その間、たま〜にペロペロ舐めたりするのだが、けっして食べない。そして、玄関に誰かが来るたびに、そのパンを咥えて見せに行く。

 意味が分からんが、正直迷惑だ。外のワンコならきっと穴を掘って埋めるのだろうが、ベロは家の中に住んでるせいか、埋めるといった発想がない。車庫の中は土なのだが、そこには絶対に埋めない。ベロの部屋となっている六畳間の隅にボロっと置いてある。

 早く食えって。


 可能な限り、毎日掃除機をかける俺。短毛のせいか、けっこうベロの毛が抜けるのだ。一度、ベロの背中に直接掃除機を当てたことがある。よほど驚いたのか、それ以来、掃除機を敵視している。唸り声を上げながら、ヘッピリ腰で前に後ろにピョンピョン飛んで、それこそネコパンチのようなものを掃除機に喰らわせてくる。

 今夜も掃除機かけましょう。音が聞こえた途端、パンを咥えたベロが横に飛び跳ねながら攻撃してきます。

 はぁ〜、邪魔くせぇぇ…



 今日も、一人と一匹で寝たところ、携帯が鳴った。



「もしもし……そうだけど……え? 由美ちゃん…うんうん……明日? うん、大丈夫だけど、頼みってナニ?……ぇ…なに? ちょっとそれは……」


 ベットの上で上半身を起こした。足もとのベロも首をもたげている。


「…付き合ってる人は……いないけど……ああ、そうだよ、離婚してる。え……俺しか頼める人いないのか?……いや…付き合ってはいないけど、好きな人がいる」


 暗闇の中でベロの耳がピクっと動いたのが分かった。

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