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  作者: シグマ君
14/38

  夜勤のバイトは極端に暇。これはやった事のある者でなければ分からない。大変なのだ。

  パレットに機械で積まれた物がローラーで流れて来る。それをリフトに乗った俺がすくい上げて三段に積むのだが、夜間の時間帯はとっとことっとこ流れて来ない。忘れた頃に、ぽつ〜ん、ぽつ〜んと。


  ヒマだーーーー!!


  翌朝の6時まで機械室に籠ってるオッサン1人と俺。とにかく時間が過ぎていかない。ある意味拷問だぜ。ひぇぇ〜〜。


  ベロは詰所らしきボロクソの小屋の中で完全に熟睡中。近くに俺が居る事が分かっているのか、不安そうな素振りも見せない。案外ズ太いヤツだ。


  俺は後悔した。暇なのに喋る相手が居ないと考えてしまう。サキちゃんの事を。

  舞い上がっていた。バカみたいに。少し冷静に考えれば分かりそうなものを、まるで中学生のように好きな女の子が微笑んでくれた、話し掛けてくれたと有頂天になっていた。アホだ。

  迷惑だったはず。俺ってチョット柄が悪いし、更にバツイチ。まいったね、目にキスしちゃったよ。唇じゃなくて良かった。


  夜中の12時から1時間の休憩があるのだが、肉体的には全然疲れていないし、腹も減らん。精神的にはキツイが。倉庫から外に出て、


「アアアアアアーーー!」


 っと、意味もなく叫んで、慌てて周りを窺っていた。ヤバイ、狂ったと思われる。

 そんな時に携帯に電話が掛ってきた。天の助けだとばかりに相手も確認しないで俺は出た。


「もし!俺だ!」

「お…俺だ? シグマだよな?」

「おーーシグマだけど、伸二か?」


 高校の同級生ーーーバレー部の鷲掴みの伸二君でした。


「ずいぶんとイラついた声だな」

「あ〜悪い悪い、夜間のバイト中なんだけど暇すぎちゃってよ」

「夜間のバイトしてんのか。ところで、シグマ、行かないのか?」

「行かないって、何処に?」


 どうやら、今週の土曜日にクラス会をやるらしい。だが、俺と伸二は同じクラスではない。それを言うと、


「クラス会じゃなくって、あらあら…同窓会よ」

「あ〜〜分かったけど案内きてないし、呼ばれてないんじゃないかな〜」

「お前ね〜、結婚式じゃあるまいし、全員対象だって」

「ふ〜ん、そういうもんか。学年も幅広いのか?」

「いや、俺たちの年だけだ。どっかのクラスで企画したらしいんだけどよ、どうにも人数集まりそうもなくって、他のクラスにも声掛けたら、結局全クラス合同の……あ〜、やっぱりクラス会だ。同窓会じゃねぇぇわ」


 案内は郵送されたようだが、俺の手元には届いてはいなかった。きっと実家に送られたのだろう。

 伸二は聞き難そうに、


「シグマよ、親と…まだあれか?」

「ま〜な」


 それから暫くの間とりとめのない話しが続き、そろそろ休憩時間も終わり掛けてきた。


「クラス会、俺は行くけどシグマは?」

「きっと欠席だな。案内きてないし、返事も出せないからな」

「そっか、お前ならそう言うだろうと思ってたけど、懐かしいだろ」

「ん…そうでもないんだよな。知ってる奴もあんまり居ねぇぇし」

「はぁぁああ? 三年間いたろ、シグマ」

「どう言う訳だか名前知らん奴いっぱいなのよ。同じクラスでもな。喋る事あると思うか? あれ…君って名前なんだっけ? から始まるんだぜ」

「シグマらしいっちゃ、らしいけど、君は誰ってマジか?」

「ああ、同級生らしき奴に声掛けられたら、もうドキドキもんよ」

「そっか、しゃーないか」


 電話を終えてバイトに戻ったが、暇だーーー!

 一週間の約束だった夜間の勤務が、あれやこれやで既に10日が過ぎていた。もう勘弁してくれ。時間帯に文句はないが、やる事が無いってのが最悪だ。半分ボケ掛ったような爺さんじゃなきゃ、これは務まらないんじゃないのかね。


 朝の6時に日勤の人達と交代です。俺は事務所に行って2時間待っていた。人員のやり繰りをやってる人が出勤して 来るのを。待ってる間に完全に寝ちまっていたが。

 夜勤は、明日と明後日までとなった。3日後は休みで、その次の日から日勤に戻れる。

 あと2日間だ。は〜良かった。あれ? 今日って何曜日だっけ?




 3日後の夜の8時



 明日からは日勤だ。今日は休みなのだが俺は居酒屋に来た。


「ど〜〜も〜〜シグマ君、やっと会えたーーー!」

「あははは…先月以来だね、由美ちゃん」

「嬉しいーー! ちゃんと名前覚えててくれたんだ」

「うん」


 だいたい、女の子の友達って、そんなに居ないから。

 高校の時のクラスメートだった静香に呼び出されて居酒屋に来た。とにかく静香は人の話しを聞かない。電話口で、どこどこの居酒屋で待ってるからと一方的に告げた後、来るでしょ? っと、来るのが当然のような口ぶり。


 暫くの間、夜間のバイトが続いていたし、ガッツリ飲んでやるか。

 来てみると、動物園で偶然逢った由美ちゃんが隣に座り、にじり寄って来る。静香は俺の真向かいで睨んできた。

 今度は何なんだ? どうして俺を睨んでる?

 そんな静香の様子など全く気にもしてない由美ちゃんが、俺に腕を絡めながら、


「シグマ君もビールでいいんでしょ。食べ物は適当に頼んじゃったから一緒につまも」

「ちょっと〜シグマ、あんたこの前由美のこと可愛いって言ってたよね。もう、手ぇ出したんだ」


 この女はいきなり何を言い出す? 「な…ちょっと…」などと口ごもっていると、


「えええええええええええ!! ほんとーーーー! シグマ君って私がタイプ?」


 由美ちゃんがガッチリ絡みついてきた。


「動物園以来、会ったのって2度目なんですけど。いつ、どこで、どう手を出せるの? さっきだって先月以来だねって言ってたろ。静香君よ、君っていっつも人の話し聞いてないよな」

「そうかも。でもいいの」


 っと、全然悪びれる様子も無い静香だが、ニッと笑った後は睨みつけてくる事は無くなった。いったいなんなのよ?


 ちょうど俺のビールも来た。「カンパーーイ」と由美ちゃんが、確かに可愛い顔でジョッキをぶつけてくる。


 夜の動物園がいかに神秘的で素敵だったかを、由美ちゃんが熱く語ってます。俺に同意を求めながら。

 確かに夜の動物園は一見の価値があると思っていた俺も、熱く会話に加わってゆく。


 久々のビールは美味いぜ。二杯目のジョッキを飲み干してる隙に話題が変わっている。女子って凄いよね。突然に変えちゃうだもんな。なんの話だ? と固まってる俺などお構いなしに平然と喋る二人。


「この前ね、学祭や修学旅行の写真、静香に見せてもらったさ」

「由美がシグマの変わりっぷり見たいって言うから…」

「なんやかんや言って、静香、シグマ君の写真けっこう持ってんだよね。ねぇ、シグマって呼んでもいい?」

「ああ、いいよ。君なんて付ける人なんか居ないから」


 いや、一人いた事が頭に浮かんだ。サキちゃんが俺のことをシグ君って、ちょっと照れ臭そうに呼ぶ声までもが思い出された。俺は三杯目のビールを一気に空にする。

 静香がムキになって、なにやら抗議していた。チラチラ俺にも視線を向けながら。


「私がシグマの写真いっぱい持ってるとか変な言い方しないでよね! たまたまなんだって……なんだか分かんないけど…写ってんの……シグマ」

「写ってるシグマって可愛いかった〜。ふふふ…3〜4人の女子の中に1人だけ男子で入ってんの。おっかない顔して」

「覚えてないんですが。通りかかったのが偶然写っちゃったんだろ」

「違う…」

「へ〜〜、シグマ、覚えてないんだ。女子はみんなニーって笑ってピースまでして写ってんのに、シグマ1人だけ怒った顔なんだけど、並んで写ってたよ」


 だめだ、そんなの全く覚えてない。どういう事だと静香に目をやると、珍しく恥ずかしそうな素振りの静香。


「シグマって、女子の間で別に嫌われてた訳じゃないの……近寄れなかっただけで…でも3〜4人集まったら勇気出るじゃん。っでね、あそこにシグマいるから連れて来ようって誰かが言って、こわごわ声掛けたら意外とすんなりついて来るの。それからは、なんて言ったらいいのか……写真撮る時はシグマ呼んで撮るようになってたの。あれ…トラとかライオンと一緒に写りたいじゃん。あれと同んなじ!」

「きゃははははは、おかし〜〜。素直について来るトラ君って、なんか可愛いぃぃ」


 トラって綺麗だよな、あの模様。などと考えても嬉しくない。


「由美、例のアノ人…どうなの?」


 まただよ、また話しが飛んだ。


「おいおいおい、俺の前でいいのか? その話し」

「うん、大丈夫。もう全然好きじゃないし」


 由美ちゃんは既に着信拒否にしているらしい。すると今度は家にまで来るようになったとのこと。


「どうなのそれって! 男のくせして未練タラッタラってさ〜」

「逃がした魚は大きいってことだろ」


 この例え、2人の女子には通じないらしい。「サカナ??」と、不思議そうに呟いている。


「今じゃ、ひたすら気持ち悪いだけ。なんかされそうで恐いの。私一人暮らししてたんだけど、気味悪くって、今は実家に戻ってんの」

「30過ぎてんのに、バッカみたい!」

「これ…」


 いきなりバックから写真を取り出した由美ちゃん。思わず覗き込むように見ちまったじゃねぇかよ。


「げ…」


 見るからにオッサンって男が一人で写っている写真。けっこうアップだし。なんでこんなの俺に見せるかな〜。


「あああああああ、気持ち悪ぅぅぅ。由美には悪いけど、こんなオッサンのどこがいい訳?」

「なに言ってもいいよ、今は嫌いだもん」

「何か言いなよ、シグマ」


 出た。なんで俺に振る?

 俺がどう思おうと、どうでもいいだろ。っと、いつもの不親切な俺ならそう言うのだろうが、夜勤明けのまんまでアルコールが入ってるもんで、更に会話に加わっていきました。ハイ。


「女の人の中にはさ、なんだか頼り無い男なんだけど放っておけないんだよね。って言いながら、どんどん嵌まり込んでく人いるよな」

「あ〜〜、いるいる。私はダメだね」

「男から見たら、なんであんな冴えない奴に惹かれるのか全然分からんパターン。今まで付き合った男って、全部そんなタイプじゃないの?」

「え……うん…そうかも」

「えええええええ! なんで〜? シグマ、この写真のオッサンもそうだって思うの? 30すぎのオッサンだよ。そんな奴を由美が放っておけなくなるって……えええええええ??」


 さすがに下を向いてしまった由美ちゃん。しかしアルコールが入ってるとは言え、遠慮が無さすぎる静香。だが、それは俺もだった。


「目がさ〜、自信なさげなんだけど、したたかな感じがする。きっと波長が合うんだわ、その手の男と由美ちゃん」


 ペースが速いのと、疲れが溜まっていたせいで酔いが回るのが早い俺。


「由美ってそんなのがタイプなの? 理解できない」

「好きなタイプは…背が高くて〜、ちょびっと悪そうで〜、愛想もあんまり良くなくて〜、ツンデレの人が好き! 誰にでも愛想のいい人は嫌。でも実際に付き合う人って、なんでなのかな?」


 ツンデレってよく聞くけど、そんな奴いるのかね。少女マンガの中だけだろ。


「シグマはやめな! この男はツンしかないから。それも強烈なツン」

「でもシグマって、今は優しい顔してるよ」

「猫被ってるかもしれないじゃん。私はまだ疑ってんだからね。ひっひっひっひ」


 俺の印象について好き勝手な事を言い合ってます。この二人の女子は。

 静香は、高校の時の俺によっぽど頭にきたことがあるのだろう。まぁ、そんなことなど、どうでもいいと思ってはいるが、聞くのも恐い気がする。俺、なにやったんだ?


 時間もかなり遅くなり、解散しそうな雰囲気になった。っが、再び話題が例の男に。


「ところで由美、送られてきた手紙の束、もう捨てたんでしょうね」

「まだ…」

「なんでまだ持ってるの? 信じられない。まさか、由美もまだ未練あるの?」

「未練なんて無いって! でもさ〜、なんかさ〜…」

「つきまとわれてからのもあるの?」

「手紙ってそれしかないもん。着信拒否してからだから。ねぇ、シグマはどう思う? やっぱり捨てた方がいいのかな…」


 まただ。また振ってきたよ。と思いつつも答える俺でした。


「持ってた方がいいかもね」


 すかさず、「なんでさ」と食い付いてくる静香君。


 酔ってるせいもあって、「なんとなく」としか答えられない俺に、どういうつもりか「分かった。そうする」って、変に納得している由美ちゃん。


 あ、なんとなくマズイな。由美ちゃんがどんな女の子なのかも良く知らないのに、俺、調子に乗り過ぎたか? 頭の片隅ではそう感じているのだが、酔いが醒めてこない。


「ふ〜ん、シグマの言う事は素直に利くんだ。由美って」

「だって〜〜、もともと捨てにくかったんだもん。手紙ってそうじゃない?」

「いいよ、そんなのどうでも。そんなことより、ねぇシグマ、男から見たら写真のオッサンってどう見える?」

「どうって……。さっきは、ああ言ったけど、実際に逢った事も無いし」

「私は感じないけどさ〜、放っておけないって、母性本能をくすぐるタイプなんでしょ。どう思う?」

「う〜〜ん…俺は怖いな。その手のタイプって」

「怖い?? シグマが?」

「なんて言うか…俺には出来ないってこと」

「ちょっと〜〜、イミフだって!」

「な……うまく言えないって」

「いいから、言ってってばさ!」


 お前が怖いわ。


「自尊心とかプライドってもんがあって、それがけっこう邪魔するの」

「うん、それで?」

「自分は落ち込んでますとか、困ってます、弱ってます、包み込んで欲しいんですーって、ある意味ひけらかす訳だろ。俺にはムリ」

「あ〜、確かにシグマにはムリだね。でも、それが何で怖いの?」

「あのさ〜、静香君、 君ね〜、ぽんぽんぽんぽん突っ込みすぎ」

「いいの、早く続き言って」

「はぁ〜。とにかくさ、それが出来ちゃう奴って居るんだよな。計算づくに見える。次の展開を」


 二人して黙って俺を見ている。まだ喋れってか?


「俺じゃ出来ないものを平気で出せるんだよな。まるで武器のように。それって粘着質だぜ」

「うんうん、なんとなく分かってきた。それで?」

「そのオッサンがそうなのかは知らんけど、プライド持ってないような奴って強いぜ。……ウィークポイント少ないからな」



 帰りのタクシーの中。

 さっき居酒屋で自分が喋った事を改めて考えていると、気付いたら夢の中にいた。


 花火大会の時のサキちゃんの夢。ボロボロ大粒の涙を零すサキちゃん。

 夢の俺は何もしない。

 肩も抱かない。

 手も繋がない。

 目にキスもしない。

 泣きながら何かを言っているサキちゃん。その姿が、どんどん小さくなってゆく。


 夢の俺は少しづつ後ずさり、サキちゃんをおいて、どこかに向って歩いていった。



「お客さん、お客さん…着きましたよ。お客さん」


 目が覚めた。

 あれ……頬が濡れてる。

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