瞬間扉
「全く、駆け込み乗車には困ったものです。」
と、鉄道会社の児玉社長が言う。
「定刻通りに発車できないし。」
「確かにネ。」
と、児玉の親友、元久が言う。
「駆け込みしてドアに挟まった場合とかややこしいね。」
「あれはかなり遅延の原因になる。」
「なるほどなあ・・・」
元久はしばらく黙って、やがて口を開いた。
「なあ、児玉。」
「なんだ?」
「ウチの会社のモノなら、その駆け込み乗車を防げるかもしれないぜ。」
「なんだ、久々に友が家に来たかと思ったら売り込みかい。で、何だ?」
「ビーム扉。」
「ビームとびら?」
「丁度今持ってるのだが・・・」
元久はバックから銀の細長いシートを取り出して、地面に敷いた。そして、スイッチを児玉に渡して、言った。
「このスイッチを押してみて。」
児玉はスイッチをONにした。するとシートのあったところから突如緑色の光る壁が現れた。児玉は驚いた。触ると硬く感じる。OFFにするとその壁は跡形も無く消えた。
元久は言った。
「原理は簡単。このシートにはビーム銃が入ってるんです。スイッチを押すと、作動し、障壁ビームが現れる。これは熱を持たないが、壁のように硬い。有効距離は自由に設定できるので、好きなだけ長さを調節できる。」
「なるほど、つまり、これはスイッチで一瞬に開閉できる扉ということなのだな。」
「そう。だから、駆け込みに来た輩は問答無用、乗車する前にビーム扉でシャットアウトするのでございます!いかがでしょう?」
「うーむ・・・」
児玉は考えた。
(確かに便利そうだ。導入すべきか。利益はどれくらいか。このビーム扉は次世代型になるかもしれない。このチャンスを逃したら他の会社にとられちまう。こうなったら・・・)
児玉は言った。
「採用しよう。」
「ありがとう!」
元久はそういいながら(これで、わが社も安泰だ・・・)と思っていた。
*
「はあ、はあ、はあ、はあ」
相田は必死に走っていた。寝坊してしまい、大事な約束に遅刻しそうなのだ。
「遅れる、遅れるぅぅぅ」
9時29分の電車に乗る予定だった。今は28分。間に合うか間に合わないかの瀬戸際である。相田は必死に道を走った。
さて、駅。良く見るともう電車はホームに着こうとしていた。大変だ。最近この電車はビーム扉とやらを採用していたため、駆け込みで間に合う確率は確実に下がっていた。もう無理なのか・・・・。
でも、一か八か。相田は改札をくぐってダッシュで駆け出し、ホームの階段を降った。発射ベルがルルルルルと鳴っていた。もうすぐ出発する。相田は電車に突っ込んだ。
だが、間に合わなかった。相田の頭と右腕が電車に入ったときに、ビーム扉が閉まったからだ。
頭と右腕はそのままぐらりと傾いた。