5:朝の街角、そして…
店を出ると空が明るくなっていた。夜明けが近づいている。
「一号さん、いろいろありがとう。」
「いや、ワイらはなんもしとらん。すべてお前の力や。」
「あたし本当にバカだったわ。たった一回の失敗で諦めてしまうなんて。」
初めて会ったときとはまったく違う、生き生きとした表情で一号を見上げる。
「良かったな。じゃあワイは帰るで。」
「あたしを…抱かなくていいの?」
「確かにワイはお前を買った。せやけどこんな美人の唇を頂いたんや。これ以上を要求すると追加料金取られてまうわ。」
「そんな…」
ヒグラシの頬がわずかに赤く染まった。
「じゃあな、もう会うこともないやろ。」
「…いやっ。また会いにきて。」
「そやな、お前が最高の女になったらな。そんときは…」
「その時は?」
「ヘヘッ、真っ赤なバラの花束を持ってプロポーズしにくるわ。」
「そう…うん、待ってる!ずっとずっと、待ってるから!」
「何かあったらあいつらに言え。お前のこと全員で応援してやるからな。」
「ありがとう!」
こうしてヒグラシと一号は別れた。
cicadasの応援を受けたヒグラシは「月光の森」をやめて別の店で働き出した。
いつしか彼女の姿はこの街から消えていた。
そして…
「グレースさん、久々の日本公演、どうでしたか?」
「やっぱり、ここでやるのが一番気持ちがいいわ。」
チャンスをつかんだヒグラシは名前を本名のグレースに改め、ダンサーとしての道を歩みだした。
やがて、大きな舞台での出演が相次ぎ、いつしか世界的ダンサーになっていた。
背中の刺青は美しい蝶々になっていた。しかし、自分が芋虫を背負っていたことを彼女は隠さなかった。
興味本位でやってくるマスコミにも彼女は真正面を向いて堂々と発言する。
「ええ、この写真は昔の私。自分を信じられなかった頃のね。でも、過ちに気がついたとき私の目の前の世界が明るくなったの。」
インタビューの最後はいつもこう締めくくられていた。
「みなさんも自分を信じて。今はちっぽけな芋虫だと思っていても、きっとチャンスは来る。自分を信じることが大事なの。」
今日は世界公演の最終日だ。
「いつもあの花、届いてますよね。」
「これは、私を応援してくれた方たちからよ。本当に…お世話になったの。」
ロビーにはピンク、オレンジ、紫など色とりどりの花をあしらった花輪が送られていた。
送り主の名前は二号から六号の本名が記されている。
「グレースさん、また例のプレゼントですよ。」
「あ…うれしい。いつも見てくれているのね。」
「これって毎回名前も書いていないんですけど、わかるんですか。」
「ふふっ、もちろんよ。」
公演のたびに送られてくるプレゼント。スタッフの間でも話題になっているそれは、真っ赤な…
イチゴの詰め合わせだった。
つーことで。
わかる人にはわかると思いますが、元ネタは筋肉少女帯の「ゴーゴー蟲娘」です。
もうちょっとメンバーの特徴が出せたらよかったのですが、元ネタありきで考えたのでこんな感じになってしまいました。