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3:街外れのスタジオ

十年ほど前にこの街で活動していたチーム、cicadas。

もともとは音楽をやっていたがやがて店のトラブル解決やケンカの仲裁などをしていくうちに、いつしか「この街で何かあったらあいつらに頼めばよい」と評判が立ち、開催したイベントに500人以上の人を集めたこともあった。

やがて一号以外のメンバーはそれぞれこの街に店を構え、cicadasの活動は志を同じくする若い者たちに譲られた。



一号がヒグラシを連れてやってきたのは小さなスタジオだった。

「突然呼び出して悪かったな。」

「なに言ってんだ。いつものことじゃないか。」

「そうそう。さ、準備はすべて整ってるぜ。」

三人の男たちが二人を迎え入れた。そこに置かれた小さな椅子にヒグラシを座らせる。

「…何をするの?」

「ワイの道楽や。可愛いヒグラシちゃんを飛びっきりのエエ女に変身させるんや。」

「やめて。そんなことしても無駄よ。」

「まあそう言わんと。お客様の要望や。おとなしく言うこと聞けや。」

「…。」

不服そうな表情を浮かべるが逆らうわけにもいかずにじっと座る。


「ホナ二号、頼むで。」

「任せとけ。」

二号と呼ばれた男がメイク道具を出して来た。不釣合いな化粧が落とされて素顔が現れる。

「うん。この子ならもっとキレイになれるよ。」

「これなんかどうだ?」「うーん、こっちのほうが…」

後ろでもなにやら相談する声が聞こえる。


「次はお前の番だな。三号。」

「はいよ。」

別の男がヒグラシの髪に手をかける。

「すこーしカットするね。」

シャキッ、シャキッという音が聞こえてくる。


いったいどれくらいの時間がたったのだろうか。自分の姿が確認できないので不安が増大してくる。

ふと、目の前に一号が現れた。

「ヒグラシ、ええもん見せたるで。」

大きな手鏡が差し出された。

「…えぇっ?これ…どうして?」

そこに写っていたのは見たことのない自分の姿だった。

「なんなの…これ?」

「それがお前の本来の姿や。ほぉら、べっぴんさんやないか。」

「こ…こんなことしても、意味ないわ。」

「ほら、出かけるで。服も用意したったわ。五号!」

「オッケー。」


つやのある赤いドレスが渡された。

「そこの衝立の裏で着替えてきな。」

しぶしぶ指示に従うヒグラシ。

服を脱ぎ、ドレスを広げてみる。背中がぱっくり開いた露出の高いドレス。

「なっ、なんなのこれは!ねえ、あたしこんなの着れないよ!」

「黙って言うこと聞けや。」

一号が厳しい口調で答える。

「やっぱり…あたしを笑いものにする気なのね。いいわ。こうなったら何でもやってやる!」

半ばやけくそでそのドレスを着た。


「もったいないな。あれほどの美貌ならダンサーの夢なんてすぐに叶うと思うんだが。」

「まぁ…田舎から出てきたばかりの女の子に都会は刺激が強すぎたんやろう。」

「確かに。ああいう世界は嫉妬やいやがらせもひどいと聞いてるからな。」

「そんな都会の女の姿が自分を写す鏡やと思い込んだんやろうな。今のあの娘には自分を取り巻く醜いものがすべて自分自身の姿に見えとるんや。」

「そこで俺たちの出番ってわけか。」

「せや!ワイらの力であの娘を綺麗な蝶々にしてやろうやないか。」

「まかせとけ!…そういえば四号と六号は?」

「六号は店で待っとる。四号も一緒や。」

「久しぶりだな。あの二人の黄金タッグも。」

「ヘヘッ、そういうこっちゃ。」


彼らの前に姿を現すとため息にも似た声が上がる。

「おぉ…」「キレイだ。」

「な。ワイの目に間違いはなかったやろ。」

「これで満足した?」

「いやぁ…」

ニヤニヤと笑いながら一号がヒグラシの手をとる。

「夜はまだ長いんやで。さぁ、次の店や。」

「え?いやよ!外に出るなんて!」

「そんなに背中が気になるのかい?じゃあ、これを使いなよ。」

五号が薄い生地のストールをヒグラシの背中にかけた。

「ホナ、行くでぇっ!」

「きゃっ!ちょっと、お客さん!一号さん!?」

再び夜の街を走らされるヒグラシ。その後ろからcicadasの面々が満足そうな表情でついてくる。

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