聖女の姉が不遇な扱いを受けているので、これでは安心して死ねません
僕はもうすぐ、この世での命を終えることが決まっている。神様のもとへと遣わされるのだ。
自分の命がもうすぐ途切れてしまうことが、僕は怖くてたまらない。きっと未熟者だからだろう。
ねえさまのように立派な人であれば、こんな感情に包まれることもないのだろうが。
僕の大好きなねえさま。
ねえさまは、この国を護る聖女だ。
ねえさまが10歳で僕が5歳のとき、どういう訳か、ある朝庭で遊んでいたねえさまの体が突然光に包まれた。
それまでどんよりと曇っていた空からは一筋の光が降り注ぎ、まるでねえさまを照らすかのようにその光はふわりと地面に広がっていった。
そして、神の御力が弱ったことにより瘴気に包まれていた我が伯爵領全体が、急に澄み切った空気に包まれだしたのだ。
5歳の僕にとって、その光景はただただ綺麗でうっとりするものだった。
いつも外に出ると息苦しかったのに、あっという間に空気がおいしくなった。
いつも薄暗かった空は、透き通るような青い色へと変わった。
ねえさまが歩いたところは、みるみるうちに青い芝生と色とりどりの花が咲き乱れた。
大人はそれを「聖女の奇跡」と呼んだ。
我が国の神話に、国を護る神と、その神に愛された聖女の話があるらしい。
実に、100年ぶりに現れた聖女。それが、ねえさまだった。
ねえさまの噂は、あっという間に国全体へと広がっていった。
神の御力が弱って久しい我が国は、どこも瘴気が漂っていた。魔物があふれ、病気も蔓延していた。
我が国の国教とも言えるロズラウク教。この国を造りたまいしロズ神。
人々はロズ神に祈りを捧げ続けた。供物も供えつづけた。新たに王都に神殿も造った。
それでもこの100年の間に神の御力は弱り続けた。
人々はどんどん無気力になっていった。
みんな、ねえさまの力に頼りたがった。
そこで、聖女のねえさまが各地を回った。
ねえさまは空気を浄化し、魔物を山の奥へと押しやり、川の水も澄み切った色に変え、病気の人がいればその手を取って癒した。
子供がどんどん死んでいった謎の伝染病はぱったりと消え、老人たちも元気になり、大人たちは力いっぱい働くようになった。
みんな、ねえさまに感謝した。
ねえさまの噂は王都まで広がり、王様もねえさまに会いたがった。
そして気づけば、ねえさまはアーヴェスキ公爵の息子との縁談が決まっていた。
大人は「これで聖女様の後ろ盾もしっかりした。この国が末永く繁栄することは疑いようがない」と喜んだ。
僕はねえさまに問いかけた。
「ねえさまはミハイル様と結婚できて、嬉しい?」
ねえさまは、少し伏し目がちに答えた。
「どうかしら。ミハイル様は私なんかに興味は無さそうだし……。それに、地方の土地や人々を癒すことも軽視なさるのよ。君はずっと王都にいればいい、重要な人間は王都にしかいない、とか言ってね。私とは少し考え方が違うみたい」
「やっぱりミハイル様は悪い人じゃないか! ねえさま、そんな結婚はやめなよ。彼は侯爵令嬢のオクサナ様と恋仲だって有名じゃないか。ねえさまを二人していじめているって、他の貴族も噂してるよ」
「まあ、そんな噂が出回っているの?」
「本当なんでしょ? ううん、いじめられているのは、ねえさまだけじゃない。公の場で辱めを受けたっていう男爵令息の話とか、学校でオクサナ様にいじめられた伯爵令嬢の話とか……色々聞いた。そんなオクサナ様を大事にするミハイル様なんて最低だ。ねえさまだって本当は結婚したくないんでしょう?」
ねえさまは肯定することなく、苦い顔で笑った。
その姿が痛々しくて、僕の胸はずうん、と痛んだ。
「僕、ねえさまが幸せになってくれないと、安心してお役目を果たせないよ」
僕が弱々しく呟くと、ねえさまは僕の手を取りぎゅっと握った。
「ごめんなさい、私が聖女として認められたばっかりに……ごめんなさい、ごめんなさい」
ねえさまは綺麗な顔を涙でいっぱいに濡らして僕に謝った。
ねえさまが悪いわけじゃない。
神話ではそう決まってるんだから、しょうがない。
僕たちは泣きながら抱き合った。
そんなある日のこと。
僕たち一家はアーヴェスキ公爵の誕生パーティに招かれた。
そこには国中の貴族をはじめ、王族もいる。もちろんねえさまの婚約者であるミハイル様もいる。
ミハイル様はねえさまの前だというのに取り繕う素振りもなく、浮気相手と言われているオクサナ様と仲睦まじげに寄り添っている。
僕はそれが腹立たしくて、精一杯の怖い顔でミハイル様を睨んでやった。
けれど、ミハイル様は全く動じることなく、むしろ僕の目線を鼻で笑った。
本当に嫌なやつ!
公爵家の広いホールに人々が集まり、めいめい歓談を楽しんで、みんな少しお酒が入り出したころ。
ミハイル様はホールの端で仕事をしていた演奏家たちの演奏を止め、皆の注目を自分へと集めた。
急に音楽が止まったことで、何事か、とみんなの視線がミハイル様へと集まる。
「みな、聞いてくれ。僕はそこにいる聖女、アナスタシア・グリフと婚約していたが——その婚約を破棄することにした。理由は、僕が真実の愛を見つけてしまったからだ。そう——ここにいる、オクサナとの間に」
客たちの間に、大きなどよめきが走る。
公爵家の息子ともあろう者が、自分の私利私欲のために一方的に婚約を破棄するなんて。
大人たちの顔からは明らかな動揺や軽蔑が見て取れた。
けれど、ここは公爵家の屋敷。しかも、今日は公爵本人の誕生パーティというめでたい席だ。
表立ってミハイルを批判する人はいない。
みんな、何か言いたそうな顔をしながらも、口をつぐんでいる。
娘が突然の婚約破棄を言い渡されたとうさまは、怒りで顔を真っ赤に染めて奥歯を噛みしめ、一方でかあさまは今にも倒れそうなほどに顔面蒼白になっている。
「婚約は……ッ、公爵家から言い出したものじゃないかッ……!」
とうさまは怒りに震えながら言った。しかし彼の声は他の人たちのどよめきにかき消されてしまった。
ねえさまは、今どんな顔をしているのだろう。
僕は少し離れたところに立っていたねえさまの顔を盗み見ようとしたが、美しい銀髪が顔を隠していて、よく見えない。
でも、きっと悲しい表情をしているに違いない。
僕は腹の底からふつふつと怒りが湧き上がってくるのを感じながら、ミハイル様を睨みつけた。
ねえさまが学校にも通えず、友達にも会えず、それでも地方を回って土地や人々を癒し続けたのは、公爵家がそうするべきだと強く言ってきたからだ。
アーヴェスキ公爵夫妻は敬虔なロズラウク教の信者だった。
だからこそ、聖女の出現を誰よりも喜んだし、だからこそ、聖女が国の隅々まで巡礼することを望んだ。
しかしミハイル様はそうではなかった。彼は敬虔な教徒ではないし、地方のことはかなり軽んじていた。
ゆえに、地方への巡礼を繰り返すねえさまを「田舎者だから田舎の空気が合うのだろう」とバカにしていたことは、他の貴族から聞いて知っている。
ねえさまは未来の嫁ぎ先である公爵家とミハイル様の板挟みにずっと苦しんでいた。
おまけに、ロズラウク教の言い伝えにはこんなものがあった。
“聖女のもっとも愛する者をロズ神に捧げることで、神の御力は国を大地ごと包み込み、神のこどもたちは末永く光に包まれる”
公爵家は「国のため」と言って、聖女であるねえさまが最も愛する者を神への捧げものにするように求めた。
いくら聖女を輩出したからといって、我が家は伯爵家。公爵家と比べれば大した力はない。
とうさまも、かあさまも、それに従うしかなかった。
そして、神への捧げものとして選ばれたのが、ねえさまの最愛の弟である僕だった。
僕は10歳になった日に、国のため神のもとに遣わされることが決まった、お前は聖人になるのだ——と、涙で顔を濡らすとうさまから告げられた。
僕は、その日から聖人と呼ばれ、伯爵家の跡取りではなくなってしまった。
神のもとに遣わされる——それは、すなわち神への生贄だった。
国境付近にある一番古い神殿で伝統的な儀式を執り行ったあと、暗い石造りの部屋に入り、神とともに100年間過ごすらしい。
100年。聖人になれば、生きては出られない。
しかも、水や食べ物も最初に供えられるものに限られるという。
つまり、そこに入れば、ゆくゆくは餓死が待っているのだ。
ねえさまは「幼い弟に背負わせるにはあまりにもむごい」と言って、3日間泣き続けた。ねえさまの美しい目元がすっかり腫れて形を変えるほどに、泣いた。
僕はねえさまを元気づけるために、「怖くなんかないさ。ねえさまみたいに国の役に立てるのだから!」と強がるしかなかった。
我が伯爵家はここまでして国のために尽くしてきたのに。
それなのに、ミハイル様の身勝手さと言ったら!
何が真実の愛だ、オクサナさまが何だというのだ。
派手派手しいだけで、ねえさまの方がずっと綺麗じゃないか。ねえさまのほうがずっと優しいじゃないか。
どうせ、僕は生贄になる。
僕の今後の立場なんて、あってないようなものだ。
じゃあここでミハイル様に一言物申してやろうじゃないか!
僕がすうっと息を吸い、ミハイル様を罵倒しようと口を開いた瞬間。
「さすがミハイル様です……! オクサナ様とともに、神のもとへと旅立たれるというのですね……!」
声を発したのは、僕の横に立っていた男爵令息のユリウス様だった。
「聖女アナスタシア様の寵愛を受けるミハイル様が婚約を破棄されるということは……それはすなわち、聖女の最も愛する者として、神殿で100年のお勤めをされるということでしょう?」
周りの貴族たちが怪訝な顔でユリウス様を見る。
こいつは何をいっているのだ、と皆の顔に書いてある。
すると、ねえさまの近くに立っていた伯爵令嬢のエリカ様が感極まったような声をあげてひざまずいた。
「ああ、慈悲深いオクサナ様! ミハイル様をおひとりにできないという優しいお心で、ともに100年のお勤めをされるのですね……! それに、アナスタシア様の幼い弟君が気の毒だと何度もおっしゃっていましたものね」
さらに、別の男爵令嬢もひざまずいて言った。
「真実の愛……それは、国を護る慈愛のお心のことでしょう! ああ、おかわいそうなアナスタシア様! 弟君がお勤めから解放されても、愛するミハイル様がいなくなってしまわれるとは!」
少々芝居がかった令息令嬢の言葉に、僕は「ああ」と合点がいく。
男爵令息のユリウス様は、家の資金繰りが厳しいことや流行おくれの服を着ていることでいつもミハイル様に馬鹿にされていた。
伯爵令嬢のエリカ様は、学校でオクサナ様とその取り巻きから陰湿ないじめを受け続けていた。
また、オクサナ様が「聖女の弟だからって生贄にされるなんて、気の毒ねぇ」と全く気の毒に思っていなさそうな口調であざ笑っていた話は有名だ。エリカ様はそれを逆手に取ったのだ。
最後に声をあげた男爵令嬢のことは良く知らないが、きっと彼女もミハイル様かオクサナ様に思うところがあったのだろう。
彼ら彼女らは、この馬鹿馬鹿しい婚約破棄劇をきっかけに、ミハイル様とオクサナ様を神様の元へ遣わすつもりなのだ。
けれど、そんなに上手くいくだろうか?
案の定、すぐにミハイル様が大声で反論した。
「ハッ、馬鹿なことを言うな! 神の元へ行くのはアナスタシアの弟だ! 俺じゃあない。俺は公爵家の息子なんだぞ⁉」
オクサナ様も鼻で笑いながら「馬鹿馬鹿しい」と吐き捨てるように言った。
ほら、やっぱり上手くいかなかった。
あいつらを丸め込むなんて無理だったんだ……。やっぱり、自分が神様の元へ行かなければならないんだと、僕が諦めかけたとき。
「我が家から聖人が生まれることに、わたくしは賛成です」
優雅な笑みとともに声をあげたのは、アーヴェスキ公爵夫人だった。
彼女はホール全体を見回して言った。
「ミハイルは三男、嫡男ではありません。ゆくゆくは国政にたずさわる官僚に……と思っていましたが、ミハイル自身が望むのでしたら、わたくしは反対いたしません。ようやく、ミハイルもロズ神への信仰心が芽生えたのですね!」
アーヴェスキ公爵夫人は感極まった様子で、潤んだ瞳でミハイル様を見た。
一方のミハイル様は顔がひきつっている。
「お、お義母様……何を……」
そういえば、アーヴェスキ公爵夫人は後妻で、ミハイル様と血縁関係は無かったことを思い出す。おまけに二人の仲が険悪だったこともセットで思い出した。
明らかに旗色が悪くなったことを感じ取ったミハイル様は、すがるような目でアーヴェスキ公爵を見た。
「お父様……!」
「ああ、ミハイルよ。お前に深い信仰心が芽生えたことに、父は全く気がつかなかった。愚かな父を許しておくれ。我が家から聖人が生まれるなど、初めてのことだ。なんと喜ばしいことだろう……おまけにオクサナ様もご一緒してくれるとは、心強いな。これで向こう100年と言わず、200年、300年と我が国の繁栄は続くだろう」
ここまできて、さすがに僕も悟った。
公爵夫妻は、ミハイル様を切り捨てるのだ、と。
親の誕生パーティで婚約破棄を大声で言い出す息子。
100年ぶりに現れた、国の守護者である聖女をないがしろにする息子。
立場ある貴族としても、敬虔なロズラウク教信者としても、ミハイル様は目に余ったのだろう。おまけに、彼を切り捨てても勘当する訳じゃない。
国のために聖人にするのだ。
公爵の判断は英断だと末永く称賛されるだろう。
聖人になるのは、神話においても貴族であればだれでも良いのだ。
聖女の愛する人、という名目があればいい。
血縁関係じゃなくてもいい。男女どちらでも、いい。複数人でもいい。
「じょ、冗談ですよ。婚約破棄だなんて。ちょっとした余興ではありませんか……かっ、神の元へなど行きたくない! 嫌だ! そんなの、伯爵家の息子にやらせればいいだろう! どうして僕が⁉ アナスタシア、なんとか言え‼」
皆の視線がねえさまへと集まる。
ねえさまはゆっくりと跪き、ミハイル様の方へ顔をあげた。
「ミハイル様、わたくしは貴方を心よりお慕い申し上げておりました。あなたこそ、聖女の愛する者にふさわしいと存じます。貴方が神の元へ旅立つのなら、わたくしは貴方の愛したこの国を、命の灯が消えるその時まで護り抜くと誓います」
ねえさまの誓いの言葉は、皆が思わずうっとりするほど美しく、深く言葉に響いた。
心を打たれた人々は、ひとり、またひとりとその場に跪きだした。
僕を含め、ホールにいるほとんどが跪いたとき、立っているのはミハイル様とオクサナ様、そしてオクサナ様の家族だけだった。彼らはみな青い顔でワナワナと唇を震わせていた。
「新たな聖人の誕生に、心から祝福を」
僕が10歳に言われた時のことばを、今度はミハイル様へと捧げた。
こうして、15歳の僕は、聖人からただの伯爵令息に戻った。
それから2ヶ月が経った。
ミハイル様とオクサナ様はあれから何度も逃亡を試みたらしい。
王族に直訴しに行こうとしたこともあったという。
しかし、毎回公爵家の者に連れ戻され、途中からは2人揃って公爵家の中に軟禁されていたらしい。
そして先週。
神に捧げものを供える伝統的な儀式が、国境付近にある一番古い神殿で行われた。
ミハイル様とオクサナ様は、ここから100年のお勤めになる。
聖女であるねえさまは、その儀式を立派に執り行い、今日我が伯爵領へと戻って来た。
「ねえさま、おかえりなさい! ご苦労様です!」
「ただいま。お勉強は進んだかしら?」
「ええっと。うん、まあ……」
僕はねえさまからの質問を笑って誤魔化した。
僕は聖人としてロズラウク教に関する勉強はしてきたけれど、伯爵家の跡取りとして必要な勉強は何一つしてこなかった。
しかし、僕はもう聖人じゃない。
急いで遅れを取り戻すべく、とうさまが手配した家庭教師とともに勉強漬けの日々を送っている。
勉強漬けというと、苦しそうだとかつまらなさそうだと思うでしょう?
それがどういう訳か、ものすごく楽しい!
聖人になるよりも、ずっと生きているという感じがする。
将来のことを考えられるというのが、こんなにも楽しく、胸が躍ることだって知らなかった。
「あなたが楽しそうで、本当に良かったわ」
ねえさまは優しく微笑むと、僕の頭をなでた。
僕ももう15歳。ねえさまより背も高くなったのに、いつまでも子供扱いだ。
実際、貴族としての教育が行き届いていない僕は、年齢の割に幼いらしいんだけれど。
ニコニコと幸せそうに微笑むねえさまに、ひとつだけ聞き忘れていたことを質問した。
「ねえ、アーヴェスキ公爵のお誕生パーティのときに、ミハイル様が婚約破棄を言い出すこと、ねえさまは予想できていた?」
「どうしてそんなことを聞くのかしら」
ねえさまは、ふっと視線を反らした。
「ユリウス様やエリカ様は……あの時声をあげた人たちは、ロズラウク教の神話についてやけに詳しかったなと思って。聖人は聖女に最も愛された者がなる、っていう話、意外と知らない人が多いでしょう? 貴族であればだれがなってもいい、みたいに解釈している人が多いと思うんだけど」
「そうかしら。ユリウス様もエリカ様も、敬虔な教徒よ」
僕には少し納得がいかなかった。もしかして、婚約破棄を言い渡されることを知ったねえさまが、僕を守るためにこれ幸いと彼らをけしかけたんじゃないか。
僕は伯爵令息として生きられることを心から喜んでいるけれど、ねえさまに婚約者を失うという辛い役目を負わせてしまったんじゃないかと、ずっとモヤモヤしている。
けれど、そんな僕に対してねえさまはここ数年見たことがないほどに晴れやかな顔で言った。
「ロズ神に捧げものをする儀式が終わったでしょう? そしたらね、前よりもっと空気が澄んできたことが分かるの。長らく不作が続いていた国境地帯に、新芽がたくさん出たのよ! これで国民の暮らしがもっと楽になるわ。そうそう、来月からは王都から離れた土地に教会と病院を作るために、またしばらく家を空けることになったの。教会には学校も作るの。それから——」
ねえさまは聖女として、以前同様に公爵家の後援も受けつつ活動をしている。
けれど、公爵夫妻とは考えが合うそうで、板挟みから解放されたねえさまは生き生きと仕事をしている。
ミハイル様という婚約者を失っても、ねえさまが気落ちしなくて本当に良かった。
最初から彼を愛していなかったのでは——という邪推は僕の心に封印することにした。
僕はこれから伯爵家の跡取りとしてしっかり勉強し、それと並行してロズラウク教のことも深く学ぶつもりだ。
遠い未来で、また神の御力が弱まった時。
そのときに、生贄を捧げなくとも神の御力を復活させることができないだろうか。
聖人だった僕だからこそ、できることがあるかもしれない。
僕の挑戦は、始まったばかりだ。




